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氷を削って作ったみたいに端正な顔立ちに浮かぶ、微かな微笑。
「そういうとこが、好きなんだけどな。」
結構、本気で言った気もするし、全然本気でない気もする。自分でももう、おんなを口説いているときの、自分の気持ちが分からない。毎回本気で惚れているような気もするし、毎回ただの宿を探しているだけの気もする。
「ありがとうございます。」
サエちゃんは、私の言葉を軽く流すと、カウンターの中で、氷をさくさくと削りだした。白いきれいな手には、冷たい氷がよく似合う。
「ねえ、サエちゃん。」
「はい。」
「おんな、好きになったことある?」
「ユナさんこそ。」
「……あるんだよねー。ずっと前。」
「ずっと前、ですか。」
「そう。ずっと前。」
おんなの家から夜逃げするたびに、この店に顔を出している。サエちゃんは、私の不実を一番よく知っている。だからだろうか。この店にいる間、私はなんだか気楽でいられた。自分の不実さを上手く隠す術を、考えなくてすむからだろう。
「だめなんだよね、私。それ以来、ずっとだめ。」
ピンク色の、倒れるほど甘いお酒を飲みながら、私は思わず苦笑する。
ずっとだめ。それ以上上手く、自分の現状を表す言葉を知らなかった。まるで、こどもみたいに。
「サエちゃんって、おんな作んない主義なの? この街にもう長いのに、そんな噂聞かないし。」
「別に、主義主張はないですよ。」
「……私が、めちゃくちゃにお酒飲んで、ここで潰れちゃったらどうする?」
「表に放り出して、閉店作業しますね。」
「冷たいねー。」
けらけら笑う私に同調することもなく、サエちゃんはいつもの整った無表情で、さくさくと氷を削り続けている。
この、常に平熱のひとは、おんなを抱くときか、抱かれるときは、どんな顔をするのだろう。どんな熱を帯びるのだろう。
ごくうっすらと酒のまわった頭で、ぼんやりとそんなことを考えていた。爪の先に、微かに欲情が灯る。
本気で口説いたら、一回くらい寝てくれないかな。
おんなを本気で口説くことができるのかもわからない体質のくせに、そんなことがよぎった。
「ねえ、サエちゃん。」
「はい。」
「本気で口説いたら、一回くらい寝てくれる?」
「私、夜逃げされるの分かっててユナさんの宿になれるほど、物わかり良くないんですよ。」
サエちゃんの台詞を聞いて、私は目を瞬いた。言葉の意味が、上手く飲み込めなかったのだ。首を傾げながらサエちゃんの白い顔を見上げると、切れ長の硬い印象の両目の中に、ほのかな熱が感じられた。
「そういうとこが、好きなんだけどな。」
結構、本気で言った気もするし、全然本気でない気もする。自分でももう、おんなを口説いているときの、自分の気持ちが分からない。毎回本気で惚れているような気もするし、毎回ただの宿を探しているだけの気もする。
「ありがとうございます。」
サエちゃんは、私の言葉を軽く流すと、カウンターの中で、氷をさくさくと削りだした。白いきれいな手には、冷たい氷がよく似合う。
「ねえ、サエちゃん。」
「はい。」
「おんな、好きになったことある?」
「ユナさんこそ。」
「……あるんだよねー。ずっと前。」
「ずっと前、ですか。」
「そう。ずっと前。」
おんなの家から夜逃げするたびに、この店に顔を出している。サエちゃんは、私の不実を一番よく知っている。だからだろうか。この店にいる間、私はなんだか気楽でいられた。自分の不実さを上手く隠す術を、考えなくてすむからだろう。
「だめなんだよね、私。それ以来、ずっとだめ。」
ピンク色の、倒れるほど甘いお酒を飲みながら、私は思わず苦笑する。
ずっとだめ。それ以上上手く、自分の現状を表す言葉を知らなかった。まるで、こどもみたいに。
「サエちゃんって、おんな作んない主義なの? この街にもう長いのに、そんな噂聞かないし。」
「別に、主義主張はないですよ。」
「……私が、めちゃくちゃにお酒飲んで、ここで潰れちゃったらどうする?」
「表に放り出して、閉店作業しますね。」
「冷たいねー。」
けらけら笑う私に同調することもなく、サエちゃんはいつもの整った無表情で、さくさくと氷を削り続けている。
この、常に平熱のひとは、おんなを抱くときか、抱かれるときは、どんな顔をするのだろう。どんな熱を帯びるのだろう。
ごくうっすらと酒のまわった頭で、ぼんやりとそんなことを考えていた。爪の先に、微かに欲情が灯る。
本気で口説いたら、一回くらい寝てくれないかな。
おんなを本気で口説くことができるのかもわからない体質のくせに、そんなことがよぎった。
「ねえ、サエちゃん。」
「はい。」
「本気で口説いたら、一回くらい寝てくれる?」
「私、夜逃げされるの分かっててユナさんの宿になれるほど、物わかり良くないんですよ。」
サエちゃんの台詞を聞いて、私は目を瞬いた。言葉の意味が、上手く飲み込めなかったのだ。首を傾げながらサエちゃんの白い顔を見上げると、切れ長の硬い印象の両目の中に、ほのかな熱が感じられた。
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