11 / 13
11
しおりを挟む
「……ごめん、邪魔した。」
私は、辛うじてその言葉を絞り出した。この子どもが、それ以上の言葉を望んでいないことは知っていた。彼女は、今いる闇の中から救われたくなどないのだ。
「消えて。」
子どもがくっきりと言い捨て、私から顔を背ける。またここで、声をかけてくるおんなを待つのだろう。あの、焦燥感に満ち溢れた目で。
私は、はじめて自分の家を持たないことを後悔した。たとえうまい言葉でこの子どもの信仰心を解けたとしても、私にはその先、彼女を連れて帰れる家もないのだ。
まだ私は、言葉をさがしていた。少しでも、この子どもの焦燥をなだめられるような言葉を。けれど、やっぱり私の乏しい語彙の中に、そんなに都合のいい言葉は転がっていない。
子どもはもう、私の方を見もしなかった。幼いせいで真っ直ぐすぎる眼差しは、自分が信じるなにかしか見ていない。
私は、チャイナブルー一杯分の会計を済ませ、リュックサックを背負うと、バーを出た。
ここからなにをすればいいのか、それは明確だった。今すぐ別の、おんなをつかまえやすいタイプのビアンバーに入って、おんなを物色し、ナンパして、今夜の宿を確保する。できれば今夜だけでなく、しばらく私を置いてくれるような、そんな隙のあるおんなを見つけたい。
それなのに、私の足は、いっこうに動かなかった。店の前で、私はしばらく突っ立っていた。その内あの子どもが、今夜寝られる女と一緒に店を出てくる。
止めようとか、せめてなにか忠告をとか、そんなふうに思っていたわけでもない。ただ、足が動かなかっただけだ。
冷たい風が吹いて、染める金もないので黒いままの私の髪を乱した。
行くところがないな。
口の中だけで呟く。
こんな状況には、慣れているはずだった。家出癖がある私には、慣れっこのシュチュエ―ションのはずだった。それなのに、行くところがないというそれだけの事実が、妙に私の胸を重くする。
しばらく、馬鹿みたいにその場に立っていた。それしかできることがなくて。それでも、あの子どもは店から出てこなかった。今頃、泣き出しているのではないだろうか、と、ぼんやり思う。私も、後半の方はそうだった。誰彼かまわず寝るおんなという噂が広がり、性病持ちという評判も広がり、私に声をかけてくるおんながどんどん減っていったのだ。
誰にも抱かれなかったら、今夜もあのひとにかわいいと言ってもらえない。
私はそんなことを思って、カウンターに俯いて、声を殺して泣いていた。
私は、辛うじてその言葉を絞り出した。この子どもが、それ以上の言葉を望んでいないことは知っていた。彼女は、今いる闇の中から救われたくなどないのだ。
「消えて。」
子どもがくっきりと言い捨て、私から顔を背ける。またここで、声をかけてくるおんなを待つのだろう。あの、焦燥感に満ち溢れた目で。
私は、はじめて自分の家を持たないことを後悔した。たとえうまい言葉でこの子どもの信仰心を解けたとしても、私にはその先、彼女を連れて帰れる家もないのだ。
まだ私は、言葉をさがしていた。少しでも、この子どもの焦燥をなだめられるような言葉を。けれど、やっぱり私の乏しい語彙の中に、そんなに都合のいい言葉は転がっていない。
子どもはもう、私の方を見もしなかった。幼いせいで真っ直ぐすぎる眼差しは、自分が信じるなにかしか見ていない。
私は、チャイナブルー一杯分の会計を済ませ、リュックサックを背負うと、バーを出た。
ここからなにをすればいいのか、それは明確だった。今すぐ別の、おんなをつかまえやすいタイプのビアンバーに入って、おんなを物色し、ナンパして、今夜の宿を確保する。できれば今夜だけでなく、しばらく私を置いてくれるような、そんな隙のあるおんなを見つけたい。
それなのに、私の足は、いっこうに動かなかった。店の前で、私はしばらく突っ立っていた。その内あの子どもが、今夜寝られる女と一緒に店を出てくる。
止めようとか、せめてなにか忠告をとか、そんなふうに思っていたわけでもない。ただ、足が動かなかっただけだ。
冷たい風が吹いて、染める金もないので黒いままの私の髪を乱した。
行くところがないな。
口の中だけで呟く。
こんな状況には、慣れているはずだった。家出癖がある私には、慣れっこのシュチュエ―ションのはずだった。それなのに、行くところがないというそれだけの事実が、妙に私の胸を重くする。
しばらく、馬鹿みたいにその場に立っていた。それしかできることがなくて。それでも、あの子どもは店から出てこなかった。今頃、泣き出しているのではないだろうか、と、ぼんやり思う。私も、後半の方はそうだった。誰彼かまわず寝るおんなという噂が広がり、性病持ちという評判も広がり、私に声をかけてくるおんながどんどん減っていったのだ。
誰にも抱かれなかったら、今夜もあのひとにかわいいと言ってもらえない。
私はそんなことを思って、カウンターに俯いて、声を殺して泣いていた。
1
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる