幼馴染み

美里

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章吾は俺を先に二階に上げ、自分は飲み物を取りに台所へ入って行った。
 俺は自分の部屋と同じくらい馴染んだ章吾の部屋で、ひとりベッドにあぐらをかいた。
 章吾は、何人の女をここで抱いたのだろうか。
 ふと思ったけれど、多分章吾は、覚えていない。
 そのことに、薄い勝利を覚えている自分がいた。章吾が数えきれないくらい抱いたのは俺だけだし、抱いた人間の中で顔と名前が完全に一致しているのだって、俺くらいなものだろう。
 でも、その薄い勝利はすぐにしぼんでしまう。
 何度ここで章吾に抱かれたって、顔と名前が完全が一致している唯一の存在であったって、俺は章吾の恋人にはなれない。ただ、近所に住んでいるし、気心が知れているし、妊娠の心配もないしで、性欲処理に都合がいいだけだ。
 もうやめよう、と思う。
 もうやめよう。章吾とは、もう寝ない。
 それが正しいだろう、と、自分自身に問いかける。
 そうだ、それが正しい、と、俺ははっきり返すことができる。
 もうセックスはしない。別に宣言するようなことでもない。多分、何度かそれとなくセックスを避ければ、章吾は俺を抱こうとはしなくなる。あいつは別に、性欲処理の相手に困っているわけでもないんだから。
 そうしたら俺と章吾は、一年前と同じように、ただの幼馴染に戻れる。毎日のようにお互いの家を行き来し、漫画を読むかゲームをするかで時間をつぶす、ただの幼馴染。
 そうだ、そうしよう。
 強く心に決めた俺は、ベッドから降り、床に座り込み、章吾を待った。
 章吾はすぐに階段を上がってきた。部屋のドアを肘で開け、俺の前にコーラのペットボトルを置く。
 「さんきゅ。」
 「おう。」
 短いやり取りの後、章吾が自分の分のペットボトルをプシュっとあけ、口をつけた。俺は、自分もそれに倣おうとして、手を止める。
 ごくごくとコーラを飲み下すたびに動く、章吾の喉仏。それに、目を取られて。
 ペットボトルから口を離した章吾が、なに? と目で聞いてくる。
 俺は、なんでもない、と首を振った。そして、膝先に置かれたペットボトルを取り、蓋を開けようとして、手に全然力が入っていないことに気が付いた。
 蓋が、開かない。
 理由が分からなかった。俺は右手をグーパーして握力を確かめたが、まるで力が入っていないことが再確認されただけだった。
 それを見ていた章吾が、ベッドの方に顎をしゃくり、やる? と、それだけ訊いてきた。俺はだからきっと、物欲しそうな顔をしていたのだろう。
 章吾に、好意がばれるのが怖かった。ばれたら俺も、女の子たちみたいにすぐに捨てられるのだと分かっていた。
 
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