幼馴染み

美里

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結局俺は、なつめを抱いた。いつもみたいにちゃんと、なつめの中に射精した。そんなことができる自分が、どこか不思議だった。足を踏み入れてしまった底なし沼を、確かに怖れているのに。
 これでいいのか、と、言葉にはできないまま、俺はなつめの目を覗き込んだ。
 白いシャツを羽織ったなつめは、小さく頷いた。まるで俺の頭の中がすっかり読めているみたいに。
 底なし沼の感覚は、確実になつめの身体も浸していたと思う。それが分かるくらいには、ずっと側にいた。それでもなつめは、それをまるで怖れていないみたいに見えるのが、俺には変に怖かった。
 なつめは、勝手知ったる人の家で、黙ってシャワーを浴びに行った。
 俺は、ベッドから降り、壁に寄りかかって座って、今日やるゲームを選びだした。でも、頭の中は、怖い、とその気持ちでいっぱいだった。
 なつめは帰ってこないかもしれない。
 そんなふうに、ふと思うのはいつものことだった。
 我に返ったなつめが、幼馴染の男とのセックスなんて馬鹿げたことに嫌気がさして、一階の玄関からそのまま帰っていくのではないかと。
 でも、なつめは戻ってきた。とんとんとん、と階段を上る軽い足音は、なつめのお母さんのそれに似ていた。
 怖い、と思ったまま、俺はなつめと並んで座ってゲームをした。昔みたいに、ごく当たり前みたいな顔をして。たまに腕を掴みあったり肩を押しのけあったりもした。その手に熱が含まれていないことを、お互い確かめあうようにしながら。
 「そろそろ帰る。」
 なつめがそう言って立ち上がったのは、まだ夏の長い日が暮れる少し前だった。俺は、そっか、と言って一緒に立ちあがった。この後、女と会う約束があった。
 「女?」
 どうでもよさそうになつめが訊いてくるので、俺もどうでもよさそうに見えるように頷いた。なつめを抱いた後に、女を抱く。いつの間にか、それが習慣になっていた。
 それはまるで、身体からなつめの熱をそぎ落とすみたいに。
 駅と、なつめの家は方向が同じなので、俺となつめは肩を並べて家を出た。
 歩いて数分しかかからない距離。なつめの家の庭では、なつめのお母さんが、つばの広い帽子をかぶって草むしりをしていた。
 「あら、章吾くん。」
 なつめのお母さんは、掛け値なしに嬉しそうな顔をして、草むしりを中断して立ちあがった。そういえば、なつめのお母さんに会うのは久しぶりだな、と思った。中学までは、週の半分くらいはなつめの家にいたからしょっちゅう会っていたのだけれど。

 
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