2 / 34
2
しおりを挟む
そんな我ながら女々しい話を我ながら女々しい語り口で美晴に聞かせると、彼女はけらけら笑いながら鷲掴みにしたポテトチップスを俺の口にねじ込んできた。握りつぶされたポテチの破片が深緑のカーペットの上にぱらぱら散らばるが、家主である彼女は気にするそぶりも見せない。
「急性のセンチメンタルだね。天罰だよ、ヤリチンの。」
今でこそこうやって、美晴の部屋で二人して昼間からポテトチップスなど食べるような仲ではあるが、2年前までは美晴もセフレその1くらいのポジションにいた。それが何がどうなったのか、気が付いたらセックスもせずだらだら話したりテレビを見たり飯を食ったりする関係になって一年以上が経つ。もう記憶の中の美晴の肌の温度も声の質も、随分薄れてしまってろくに思い出せない。
「やっぱりそう思う?」
「タツキがやってるセフレの何人かも、そういうセンチメンタルに陥ってるんだよ。反省しな。」
「ほんとに? 美晴も?」
「バカじゃないの。」
「だよなー。」
くそヤリチン、とライトに一言俺を罵ってから、美晴はポテチの空き袋をワイルドに片手でゴミ箱に押し込む。耳のあたりで二つに縛った長い髪が大きく揺れた。いい年してツインテールの女にまともなのはいない。そんなセリフをどっかで聞いたことがあるけれど、俺はそもそも美晴の年齢を知らない。
「でも、好きなんだよな。」
多分無視されるだろうと思って独り言のトーンで言ってみると、ふた袋目のポテチを開けながら美晴が大きく息をついた。
「意外だよね。タツキががちになるのがああいう地味なおにーさんなのって。」
「地味……まぁ、地味だよな。」
「地味だよ。地方公務員ーってかんじ。」
確かに清水さんの職業は地方公務員だ。そのことを美晴に話した覚えはないので、彼女の慧眼に俺はこっそり感心する。
「俺は?」
「ホストかバーテン。」
「……似合わないか。」
「似合うもなにも向こうは奥さんいるんでしょ。」
「でも、やらせてくれた。」
「気まぐれだよ。仕事でよっぽどやなことでもあったんじゃないの。奥さんにはそーゆーの愚痴れないタイプで、気分転換にタツキとやってみたとかね。」
俺は清水さんのひっそりと静かな横顔を思い浮かべ、断固として首を振った。
「そういう人じゃないよ。」
すると美晴はつまらなそうに口をとがらせ、一気に俺の話から興味をなくす。
「じゃー知らない。」
「みはる、」
「うっさいなぁ。」
「俺、結局美晴しかいないからさ。」
「身から出た錆だよ。」
「……分かってる。」
「急性のセンチメンタルだね。天罰だよ、ヤリチンの。」
今でこそこうやって、美晴の部屋で二人して昼間からポテトチップスなど食べるような仲ではあるが、2年前までは美晴もセフレその1くらいのポジションにいた。それが何がどうなったのか、気が付いたらセックスもせずだらだら話したりテレビを見たり飯を食ったりする関係になって一年以上が経つ。もう記憶の中の美晴の肌の温度も声の質も、随分薄れてしまってろくに思い出せない。
「やっぱりそう思う?」
「タツキがやってるセフレの何人かも、そういうセンチメンタルに陥ってるんだよ。反省しな。」
「ほんとに? 美晴も?」
「バカじゃないの。」
「だよなー。」
くそヤリチン、とライトに一言俺を罵ってから、美晴はポテチの空き袋をワイルドに片手でゴミ箱に押し込む。耳のあたりで二つに縛った長い髪が大きく揺れた。いい年してツインテールの女にまともなのはいない。そんなセリフをどっかで聞いたことがあるけれど、俺はそもそも美晴の年齢を知らない。
「でも、好きなんだよな。」
多分無視されるだろうと思って独り言のトーンで言ってみると、ふた袋目のポテチを開けながら美晴が大きく息をついた。
「意外だよね。タツキががちになるのがああいう地味なおにーさんなのって。」
「地味……まぁ、地味だよな。」
「地味だよ。地方公務員ーってかんじ。」
確かに清水さんの職業は地方公務員だ。そのことを美晴に話した覚えはないので、彼女の慧眼に俺はこっそり感心する。
「俺は?」
「ホストかバーテン。」
「……似合わないか。」
「似合うもなにも向こうは奥さんいるんでしょ。」
「でも、やらせてくれた。」
「気まぐれだよ。仕事でよっぽどやなことでもあったんじゃないの。奥さんにはそーゆーの愚痴れないタイプで、気分転換にタツキとやってみたとかね。」
俺は清水さんのひっそりと静かな横顔を思い浮かべ、断固として首を振った。
「そういう人じゃないよ。」
すると美晴はつまらなそうに口をとがらせ、一気に俺の話から興味をなくす。
「じゃー知らない。」
「みはる、」
「うっさいなぁ。」
「俺、結局美晴しかいないからさ。」
「身から出た錆だよ。」
「……分かってる。」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる