愛じゃなくても

美里

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結局夕方まで、七美と章吾は公園にいた。途中で小学校中学年くらいであろう子どもたちが遊びにやってきたので、ブランコからベンチに場所を移ったが、公園から動こうとはしなかった。
 ブランコに座っていたときも、ベンチに動いてからも、七美は何度か泣いた。
 急な天気雨みたいに顔を曇らせ、一気に涙を流し、しばらくすると自力で涙を止め、手の甲でそれを拭った。
 大丈夫?、と聞けない章吾は、ただ七美が泣き止むのを待っていた。自分は泣けもしないままで。
 夕方、冷たくなる空気に七美が一つくしゃみをしたのを潮に、章吾はベンチから立ち上がった。
 多分もう、七瀬の両親も引き上げてしまっただろうし、七美をはやく両親のもとに返すのが、今できる唯一の誠意の見せ方の気がした。
 章吾に従うようにベンチから腰を上げながらも、七美は帰りたがる素振りを見せはしなかった。
 「章吾さんの部屋に行ってはだめですか?」
 問われた章吾は、なんで、と問い返していた。それは頭で考えたと言うよりは素で出た言葉で、七美が傷ついたような表情をしたのを見て、慌てて取り繕う言葉をさがす。
 「……もうすぐ暗くなるし、早く帰ったほうがいいよ。ご両親も心配してるだろうし。」
 しかし七美は首を縦には振らなかった。
 「章吾さんを一人にするほうがずっと心配です。」
 強い口調でそう言われた章吾は、内心ではかなり驚いた。自分は2つ年下の女の子にそんなふうに心配されるほど、危うい表情をしているのか。
 けれど七美をこれ以上引き止めておくのは、どう考えてもまともな行動ではない。
 だから章吾は自分の表情に自信もないまま、一人になりたいんだ、と言った。
 「一人になって、ちょっといろいろ考えたいんだ。」
 嘘ではなかった。たどりたい記憶があった。もう二度と合えない大切な幼馴染との。
 すると七美は、わずかな躊躇のあと、小さく頷いた。
 「でも、考えすぎないでくださいね。絶対に。章吾さんも、私にとってはお兄ちゃんみたいなものなんだから。」
 そう言われてやっと、章吾は七美が過剰に自分と一緒にいたがる理由に思い至った。
 彼女は、章吾が七瀬の後を追うことを危惧しているのだろう。
 大丈夫だよ、と章吾は言った。
 七美は、なんのことを言われてるのか分からない、とでも言いたげな顔を作った。
 けれどその表情はすぐに崩れ、彼女の頬をもう何度目だかもわからない涙が伝った。
 章吾はようやく、彼女の肩を抱いて慰めてやることができた。



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