5 / 23
5
しおりを挟む
「大した意味なんてない?」
緑雨に肌を吸われながら、俺はぎこちなくなる声で問い返した。
俺の首筋の薄い皮膚に唇を付けたまま、緑雨は平然と頷いた。
「たかがセックスに、なにか意味を見出そうとするほうがバカだよ。ただの粘膜接触でしかないのに。」
淡々とした調子で言葉を紡ぎながらも、緑雨の手も唇も、的確に俺の性感帯を刺激してきた。
だから俺は、それ以上まともな言葉が口に出せなくなる。唇からこぼれ出てくるのは、ため息と嬌声だけだ。
恥ずかしかった。玄関先で、ついさっき会ったばかりの男に、喘がされているのは。
せめてベッドでしたい。
そう言いたいのに、口を開けばもっと恥ずかしい声が出てしまいそうで言えない。
「好きな人とセックスしたことはある?」
俺のスラックスの中に手を這わせながら、緑雨が訊いてきた。
俺は黙って首を横に振った。
好きな人はこれまで何人かいた。
その人達は、俺と同じ性別をしていた。
思いを打ち明けるどころか、好意を胸の奥に沈め、二度と表に出てこないように深いところに埋め込んでしまうのがいつもの手だった。
繰り返された、恋情のお弔い。
「そっか。」
俺の唇を舌でなぞって、快楽で俺を鳴かせながら、緑雨が低い声で囁く。
「じゃあ、俺を好きになって。セックスしてる間だけでも。」
セックスしている間だけ誰かを好きになる。
そんな器用なことをできる自分ではないと分かっていた。
それでも俺は、頷いた。緑雨の手淫に追い詰められ、涙すら流しながら。
緑雨が俺をこれっぽっちも好きじゃないことに、その時の俺は、まだ気がついていなかった。こんなにも性急に身体を求められるのは、そこにわずかばかりでも好意があると思いこんでいた。
「俺、緑雨っていうんだ。呼んでみて。」
「……緑雨?」
「うん。かわいいね、ケイスケは。」
「緑雨、」
「うん。」
「……緑雨。」
震える声で、俺は緑雨を呼び続けた。かわいいなんて、緑雨の言葉を本気にしたわけではない。ただ、真っ暗な玄関先で、見知らぬ男に身を任せるなんて、自分らしくない行為をしていることが不安で、せめて相手の声を聞いていたかった。
だから、緑雨がセックス中とは思えないくらい落ち着いた声で返事をしてくれると、安心だった。その落ち着きが、見知らぬ相手との数限りないセックスから来ているのだと、その時の俺は愚かにも、気がついてすらいなかったのだ。
緑雨に肌を吸われながら、俺はぎこちなくなる声で問い返した。
俺の首筋の薄い皮膚に唇を付けたまま、緑雨は平然と頷いた。
「たかがセックスに、なにか意味を見出そうとするほうがバカだよ。ただの粘膜接触でしかないのに。」
淡々とした調子で言葉を紡ぎながらも、緑雨の手も唇も、的確に俺の性感帯を刺激してきた。
だから俺は、それ以上まともな言葉が口に出せなくなる。唇からこぼれ出てくるのは、ため息と嬌声だけだ。
恥ずかしかった。玄関先で、ついさっき会ったばかりの男に、喘がされているのは。
せめてベッドでしたい。
そう言いたいのに、口を開けばもっと恥ずかしい声が出てしまいそうで言えない。
「好きな人とセックスしたことはある?」
俺のスラックスの中に手を這わせながら、緑雨が訊いてきた。
俺は黙って首を横に振った。
好きな人はこれまで何人かいた。
その人達は、俺と同じ性別をしていた。
思いを打ち明けるどころか、好意を胸の奥に沈め、二度と表に出てこないように深いところに埋め込んでしまうのがいつもの手だった。
繰り返された、恋情のお弔い。
「そっか。」
俺の唇を舌でなぞって、快楽で俺を鳴かせながら、緑雨が低い声で囁く。
「じゃあ、俺を好きになって。セックスしてる間だけでも。」
セックスしている間だけ誰かを好きになる。
そんな器用なことをできる自分ではないと分かっていた。
それでも俺は、頷いた。緑雨の手淫に追い詰められ、涙すら流しながら。
緑雨が俺をこれっぽっちも好きじゃないことに、その時の俺は、まだ気がついていなかった。こんなにも性急に身体を求められるのは、そこにわずかばかりでも好意があると思いこんでいた。
「俺、緑雨っていうんだ。呼んでみて。」
「……緑雨?」
「うん。かわいいね、ケイスケは。」
「緑雨、」
「うん。」
「……緑雨。」
震える声で、俺は緑雨を呼び続けた。かわいいなんて、緑雨の言葉を本気にしたわけではない。ただ、真っ暗な玄関先で、見知らぬ男に身を任せるなんて、自分らしくない行為をしていることが不安で、せめて相手の声を聞いていたかった。
だから、緑雨がセックス中とは思えないくらい落ち着いた声で返事をしてくれると、安心だった。その落ち着きが、見知らぬ相手との数限りないセックスから来ているのだと、その時の俺は愚かにも、気がついてすらいなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる