恋に似ていた

美里

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久しぶりにビールでも飲もうか、とか、あの池で金魚すくいでもしよう、とか、いくつかのセリフが俊の頭の中をくるくる巡った。
 倫太郎は平気な顔で俊の前に立っていて、夏休みの間中交わした情事など、まったくなかったことみたいに、言葉を探す素振りさえ見せない。
 「……越前は?」
 そのセリフは勝手に口からこぼれ落ちていた。
 倫太郎は怪訝そうに首をかしげ、越前? とちょっと笑った。
 「越前ならバイト行ったけど。なんか用でもあった?」
 いや、と、俊は慌てて首を振る。これまで一言も話したことがない越前に、用事なんかあるはずがない。
 だから、訊きたいのは、越前が今どうしているのかではなくて、倫太郎と越前の関係性だ。けれど俊は、そのことを認められずに倫太郎から目をそらした。
 「俺、次講義なくて暇なんだよな。俊も暇なら金魚すくいでもしようぜ。」
 そう言いながら、倫太郎は背負っていたリュックサックを前に背負い直し、中から薄紙でできた金魚すくいのポイを束にして取り出した。
 「なんでそんなの持ってんだよ。」
 「買ったんだよ。ネットで。」
 けらけら笑う倫太郎に、俊はそれ以上越前との関係など問いただせない。
 次の講義は必修だったし、裕一から代返を頼まれてもいた。それでも俊は、倫太郎について行った。なぜだかは自分でも分からなかった。惨めなくらい。
 校舎を出、裏庭に回っていく途中、何人かの男が倫太郎に声をかけようとした。
 けれどその男たちは、俊の存在に気がつくと、すぐに口をつぐみ、倫太郎から目をそらした。
 自分と同じなのかもしれない、と、俊は思った。
 セックスが終わるとすぐに帰っていった倫太郎。
 その後彼は、あの男たちと寝ていたのかもしれない。
 そのことをやはり、俊は倫太郎に問い詰めたりはできない。
 自分から倫太郎に向いている感情に名前がついていないから、どうしても。
 「俊? なんだよ、怖い顔して。」
 ヘラヘラと笑ったまま、半歩前を歩く倫太郎が俊を振り返った。
 怖い顔。
 自分がどんな顔をしているのか分からない俊は、別になんでもない、とだけ応じた。  へーそう、とどうでも良さそうに返した倫太郎は、くるりと前に向き直った。
 そのまま二人は、裏庭の池に到着した。裏庭は秋の初めとは思えないほど土が冷たく冷えていて、二人の他に人影はなかった。
 倫太郎は屈託なく池の端に座り込むと、リュックサックからポイと赤いバケツを取り出した。俊は、一瞬の逡巡の後、倫太郎の隣に腰を下ろした。

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