恋に似ていた

美里

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裏庭まで俊の手を引いていった倫太郎は、あっけなくその手を離し、芝生にしゃがみ込むとリュックサックをおろし、中からろうそくと百円ライターを取り出した。
 やけに太くてでかいろうそくだな、と思った俊が倫太郎の肩越しにそれを覗き込むと、水色のろうには黒く細い線で目盛りが刻まれていることに気がついた。
 数秒の逡巡の後、俊はそれの正体に思い至る。
 結婚式で使うような、結婚1年目から30年目までの目盛りが入ったろうそくだ。結婚記念日に毎年火を灯すたぐいの。
 そのろうそくは、3年目までは使われていた。
 倫太郎は俊の視線になど構わず、ろうそくを地面に突き立てて火をつけた。
 真っ暗な中庭が、ぼんやりと明るくなる。
 そのろうそく、なに?
 訊きたくて訊けなかった。
 越前が関わる話になるのだろうと察してしまえば、どうしても。
 お得用の花火のパックをろうそくから少し離したところに置きながら、倫太郎が肩越しに俊を振り向いた。
 彼は、笑っていた。
 いつもの気安いにやにや笑いではなく、妙に儚げな表情に見えたのは、倫太郎の存外長い睫毛の影が、ろうそくの火と一緒に揺らめいているせいかもしれない。
 「越前が買ってきたんだ。……俺たち男なのにな。変だろ。」
 冗談めいた物言いだったが、その声は狭い裏庭には収まりきれないほどのなにかを感じさせた。
 だから俊は黙って首を横に振った。
 あの夏の日、この男と知り合う前の自分だったら、変だよ、と造作もなく言ってのけられただろうに。
 「……いいのか。使って。」
 じりじりと炙られるように下腹を痛めながら俊が問うと、倫太郎は軽く頷き、花火のパックを開けた。
 けばけばしい色彩の花火たちに指を迷わせながら、倫太郎が言う。
 「もういいんだ。終わったから。」
 なにが終わったんだよ、と、問いただしたかった。
 倫太郎は案外するりと問いに答えてくれる気がして。
 ほら、と、倫太郎がショッキングピンクの花火を一本取って俊に手渡す。
 結局口を開けないまま、俊は倫太郎の隣にかがみ込んで、その先端に火をつけた。
 しゅうっと音を立てて、花火から光の帯が吹き出す。
 倫太郎は自分も同じ色の花火を手に持ち、先端を炙る。
 2本の光の帯は、空中で交差し、芝生に微かな火花を落として消えていく。
 2本め、3本目、と、二人は花火に火をつけていった。

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