13 / 17
2
しおりを挟む
裏庭まで俊の手を引いていった倫太郎は、あっけなくその手を離し、芝生にしゃがみ込むとリュックサックをおろし、中からろうそくと百円ライターを取り出した。
やけに太くてでかいろうそくだな、と思った俊が倫太郎の肩越しにそれを覗き込むと、水色のろうには黒く細い線で目盛りが刻まれていることに気がついた。
数秒の逡巡の後、俊はそれの正体に思い至る。
結婚式で使うような、結婚1年目から30年目までの目盛りが入ったろうそくだ。結婚記念日に毎年火を灯すたぐいの。
そのろうそくは、3年目までは使われていた。
倫太郎は俊の視線になど構わず、ろうそくを地面に突き立てて火をつけた。
真っ暗な中庭が、ぼんやりと明るくなる。
そのろうそく、なに?
訊きたくて訊けなかった。
越前が関わる話になるのだろうと察してしまえば、どうしても。
お得用の花火のパックをろうそくから少し離したところに置きながら、倫太郎が肩越しに俊を振り向いた。
彼は、笑っていた。
いつもの気安いにやにや笑いではなく、妙に儚げな表情に見えたのは、倫太郎の存外長い睫毛の影が、ろうそくの火と一緒に揺らめいているせいかもしれない。
「越前が買ってきたんだ。……俺たち男なのにな。変だろ。」
冗談めいた物言いだったが、その声は狭い裏庭には収まりきれないほどのなにかを感じさせた。
だから俊は黙って首を横に振った。
あの夏の日、この男と知り合う前の自分だったら、変だよ、と造作もなく言ってのけられただろうに。
「……いいのか。使って。」
じりじりと炙られるように下腹を痛めながら俊が問うと、倫太郎は軽く頷き、花火のパックを開けた。
けばけばしい色彩の花火たちに指を迷わせながら、倫太郎が言う。
「もういいんだ。終わったから。」
なにが終わったんだよ、と、問いただしたかった。
倫太郎は案外するりと問いに答えてくれる気がして。
ほら、と、倫太郎がショッキングピンクの花火を一本取って俊に手渡す。
結局口を開けないまま、俊は倫太郎の隣にかがみ込んで、その先端に火をつけた。
しゅうっと音を立てて、花火から光の帯が吹き出す。
倫太郎は自分も同じ色の花火を手に持ち、先端を炙る。
2本の光の帯は、空中で交差し、芝生に微かな火花を落として消えていく。
2本め、3本目、と、二人は花火に火をつけていった。
やけに太くてでかいろうそくだな、と思った俊が倫太郎の肩越しにそれを覗き込むと、水色のろうには黒く細い線で目盛りが刻まれていることに気がついた。
数秒の逡巡の後、俊はそれの正体に思い至る。
結婚式で使うような、結婚1年目から30年目までの目盛りが入ったろうそくだ。結婚記念日に毎年火を灯すたぐいの。
そのろうそくは、3年目までは使われていた。
倫太郎は俊の視線になど構わず、ろうそくを地面に突き立てて火をつけた。
真っ暗な中庭が、ぼんやりと明るくなる。
そのろうそく、なに?
訊きたくて訊けなかった。
越前が関わる話になるのだろうと察してしまえば、どうしても。
お得用の花火のパックをろうそくから少し離したところに置きながら、倫太郎が肩越しに俊を振り向いた。
彼は、笑っていた。
いつもの気安いにやにや笑いではなく、妙に儚げな表情に見えたのは、倫太郎の存外長い睫毛の影が、ろうそくの火と一緒に揺らめいているせいかもしれない。
「越前が買ってきたんだ。……俺たち男なのにな。変だろ。」
冗談めいた物言いだったが、その声は狭い裏庭には収まりきれないほどのなにかを感じさせた。
だから俊は黙って首を横に振った。
あの夏の日、この男と知り合う前の自分だったら、変だよ、と造作もなく言ってのけられただろうに。
「……いいのか。使って。」
じりじりと炙られるように下腹を痛めながら俊が問うと、倫太郎は軽く頷き、花火のパックを開けた。
けばけばしい色彩の花火たちに指を迷わせながら、倫太郎が言う。
「もういいんだ。終わったから。」
なにが終わったんだよ、と、問いただしたかった。
倫太郎は案外するりと問いに答えてくれる気がして。
ほら、と、倫太郎がショッキングピンクの花火を一本取って俊に手渡す。
結局口を開けないまま、俊は倫太郎の隣にかがみ込んで、その先端に火をつけた。
しゅうっと音を立てて、花火から光の帯が吹き出す。
倫太郎は自分も同じ色の花火を手に持ち、先端を炙る。
2本の光の帯は、空中で交差し、芝生に微かな火花を落として消えていく。
2本め、3本目、と、二人は花火に火をつけていった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる