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しおりを挟む父親は、やっぱり笑っていた。例の、変な目つきで、唇の端をすいと持ち上げて。今度こそ、ちゃんと分かった。父親の表情は、妖艶と言えるべきものだ。下半身が、じくりと反応するのが分かった。分かってしまって、動揺した。目の前に立っているのは、男で、いや、それ以前に実の父親で、性的に興奮していいような相手ではないのに。
俺は、自分を奮い立たせるみたいに一度大きく息をついて、トレーナーをがばりと脱いで捨てた。
「いい身体、してますね。」
父親が、ひとりごとみたいにぽつんと言った。この男が覚えている俺の身体は、多分5歳くらいの俺から成長していない。15歳。いい身体とか言うには発展途上すぎるだろうけれど、鍛えているのは確かだ。10歳くらいからだろうか。早く、大人になりたくて。身体をいくら育てたところで、年齢が俺を子供の檻に閉じ込めておくことくらいは、分かっているのだけれど。
「あんたは? 売春で鍛えてんだろ。」
嘲笑するような調子で投げつけたつもりの台詞が、とろりと父親に絡みつくのが分かった。
「あなたみたいに、若くはないから……。」
期待に添える身体ですかね。そんなことを言いながら、父親はゆっくりとシャツのボタンを外した。ストリップみたいだな、と思った。そしてそれも、売春で鍛えた身体のうちなのだろう、とも。
シャツを脱いだ父親の身体は、白かった。昼間外に出ないから、色が白いのは当たり前なんだけど、なんだかそれだけでは割り切れない色をしていた。筋肉も脂肪も、必要最低限。そんな造りの身体に、触ったら指に張り付きそうな真っ白い肌が被さっている。
これが、立ちんぼの身体か。
俺は、そう思い込もうとした。父親の身体、とは思わないように。なんというか、父性なんてものが微塵も感じられない肌をしていたのだ。それは、裏切られた、と感じるくらいに。
父親は、そのまま下着一枚になった。下着も、別に派手でもない、普通のグレーのボクサーだった。
脱いだら?
目だけで促された。子ども扱いされた、と思うと、一気に顔が熱くなった。
「ガキだと思ってんのか。」
その熱さのままに挑みかかると、父親は平然と俺をいなした。
「あなたくらいの年のお客様も、いらっしゃいますから。」
俺は、父親みたいに平然とはしていられなかった。俺くらいの年? その客に、この男は平然と抱きだか抱かれるだかしているのか。
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