観音通りにて・ウリ専

美里

文字の大きさ
11 / 23

2

しおりを挟む
涼が目を覚ました時、光は涼の肩口に顔を突っ込むようにしてすやすやと眠っていた。
 昔のことを思い出す。
 光は一人で眠れない子どもだった。怖い夢を見るのだ、と、絶望的な顔をして涼に打ち明けてきたことがある。
 それなのに唯一の家族である母親は、男を作っては家を出て光を一人ぼっちにした。
 涼の両親は、光の家庭と関わることを嫌がっていたから、幼い涼が夜に光と一緒に眠ってやることはできなかった。
 その代りのように、二人は授業をさぼっては予備倉庫で眠った。体育倉庫のさらに奥にあったその倉庫には、もう使われなくなった壊れた跳び箱や破れたマットが雑多に積み上げられていて、誰かが入ってくる心配はまずなかった。
 その倉庫の中で、破れたマットに寝転がり、光は今と同じように涼の肩口に突っ伏して寝た。
 会話はなかった。ただ眠るためだけに光はそこにいたから。
 眠れない涼はいつも、光の半分しか見えない寝顔を眺めていた。
 白い厚ぼったいカーテンが引かれた窓から入る、重たげな陽光。埃っぽい匂いと、微かな光の寝息。
 中学に入ると、光は幽霊部員しかいない映画研究部に入部し、部室の鍵を手に入れてきた。
 狭い部室だった。ソファと、VHSかLDしか再生できないテレビ。それだけで一杯になってしまうような。
 その部屋の匂いも、予備倉庫に似ていた。
 焦げ茶色のあちこち破れたソファの上で、光と涼はセックスをした。
 涼にはそれが、光の自傷行為だと分かっていた。分かっていて、止めることはできなかった。いや、しなかった、が正解だろう。
セックスなんかしてしまったのは、ただ並んで眠るだけにしては、お互いの身体が大人になってしまったせいだと言い訳をした。
 本当は、光の肌を手放したくなかっただけのくせに。
 高校でも光は、幽霊部員しかいない囲碁将棋部に加入して部室の鍵を持ってきた。
 その鍵を見せられた時の感情を、涼は今でもうまく自分に説明できていない。
 じゃーん、とおどけた効果音を口にしながら、涼の前にぼろぼろの黒い紐にぶら下がった鍵を見せてきた光。
 涼は何も言わず、その次の授業をさぼって囲碁将棋部の部室に忍び込んだ。
 そして色あせた畳の上で、当たり前みたいにセックスをした。
 ずぶずぶと沼に嵌まって行くような不安と恐怖はあった。幼馴染と二人でどこまでも沈んでいくような。
 それでも、どこか安堵はあったのだ。光が涼とのセックスを望んでいると、はっきり分かったことに対して。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...