12 / 23
3
しおりを挟む
ぱちりと唐突に目を開けた光が、涼だ、と言った。
「それ以外なにがあるんだよ。」
「……ないねぇ。」
「寂しい男だな。」
「俺、涼の側でしか眠れないから。」
どくん、と、涼の心臓が妙なリズムで脈打った。
涼の側でしか眠れない。
その言葉だけが欲しくて、延々と授業をさぼり続けていたのだという気がした。
「もう、悪い夢は見ないのか?」
胸の脈打ちを誤魔化すように口にした言葉。
光は少し笑った。それは妙に透明で、秋の青空みたいに澄んだ表情だった。
「見ないよ。」
涼の肩から頬を離し、ベッドの上に身を起こしながら、光はさらさらと言葉を続けた。
「起きてる間だけで怖いものを見すぎたみたい。今は俺の夢って、ただ真っ暗なだけだよ。」
寂しい言葉のはずだった。悲しい言葉のはずだった。それなのに明るい口調を崩さない光が、一番寂しくて悲しかった。
光の幼馴染でありながら、彼の言う『怖いもの』を一緒に見てやることのできなかった涼は、咄嗟に両腕を伸ばして光の背中を抱きしめていた。
「涼?」
少し驚いたように、光が涼の手の腕に自分のそれを重ねる。
「俺が毎晩一緒に寝るから、ウリなんかやめろよ。」
振り絞った言葉だった。
窓から入る昼下がりの太陽が、光の色素の薄い髪をますます白茶けて見せていた。
「やめられないよ。」
ぽつん、と光が言う。
「ウリくらいしないと、和巳さんは俺に構ってもくれない。」
絶望的な台詞だった。涼は怖くなって光を抱く腕に力を込めた。
いつもすぐそばにいた幼馴染が、どこか暗くて遠い場所に行ってしまいそうに思えた。
「俺じゃダメなのか。」
言葉は問いかけの形にはならなかった。もっと悲壮な、縋るような口調になっていた。
光は少しの間黙って、じっと涼に抱かれていた。
そして窓からふわりと秋風が入ってきたのを潮に、彼は涼の腕を自分の身体からどけ、立ち上がった。
「ダメとかダメじゃないとか、そういう話じゃないと思う。」
涼はどかせられた両腕をどこに持って行って良いのか分からず彷徨わせたまま、光の次の言葉を待った。
しかし光はもう何も言わず、涼を振り返るとちょっと微笑んだ。
差し込む秋の光に溶けていきそうな微笑。
微笑んだその顔のまま、光は床に落っこちていた衣類を一つずつ拾い上げてするすると身につけた。
「じゃあ、またね、涼。」
そう言われてしまえば、涼にはもう光を引き留めることができない。
涼は和巳ではないし、苦しんでいた幼い光を一度たりとも助けてやれなかった負い目もある。
「おう。」
それだけ返した涼に、光は安堵したようにひらひらと手を振った。
「それ以外なにがあるんだよ。」
「……ないねぇ。」
「寂しい男だな。」
「俺、涼の側でしか眠れないから。」
どくん、と、涼の心臓が妙なリズムで脈打った。
涼の側でしか眠れない。
その言葉だけが欲しくて、延々と授業をさぼり続けていたのだという気がした。
「もう、悪い夢は見ないのか?」
胸の脈打ちを誤魔化すように口にした言葉。
光は少し笑った。それは妙に透明で、秋の青空みたいに澄んだ表情だった。
「見ないよ。」
涼の肩から頬を離し、ベッドの上に身を起こしながら、光はさらさらと言葉を続けた。
「起きてる間だけで怖いものを見すぎたみたい。今は俺の夢って、ただ真っ暗なだけだよ。」
寂しい言葉のはずだった。悲しい言葉のはずだった。それなのに明るい口調を崩さない光が、一番寂しくて悲しかった。
光の幼馴染でありながら、彼の言う『怖いもの』を一緒に見てやることのできなかった涼は、咄嗟に両腕を伸ばして光の背中を抱きしめていた。
「涼?」
少し驚いたように、光が涼の手の腕に自分のそれを重ねる。
「俺が毎晩一緒に寝るから、ウリなんかやめろよ。」
振り絞った言葉だった。
窓から入る昼下がりの太陽が、光の色素の薄い髪をますます白茶けて見せていた。
「やめられないよ。」
ぽつん、と光が言う。
「ウリくらいしないと、和巳さんは俺に構ってもくれない。」
絶望的な台詞だった。涼は怖くなって光を抱く腕に力を込めた。
いつもすぐそばにいた幼馴染が、どこか暗くて遠い場所に行ってしまいそうに思えた。
「俺じゃダメなのか。」
言葉は問いかけの形にはならなかった。もっと悲壮な、縋るような口調になっていた。
光は少しの間黙って、じっと涼に抱かれていた。
そして窓からふわりと秋風が入ってきたのを潮に、彼は涼の腕を自分の身体からどけ、立ち上がった。
「ダメとかダメじゃないとか、そういう話じゃないと思う。」
涼はどかせられた両腕をどこに持って行って良いのか分からず彷徨わせたまま、光の次の言葉を待った。
しかし光はもう何も言わず、涼を振り返るとちょっと微笑んだ。
差し込む秋の光に溶けていきそうな微笑。
微笑んだその顔のまま、光は床に落っこちていた衣類を一つずつ拾い上げてするすると身につけた。
「じゃあ、またね、涼。」
そう言われてしまえば、涼にはもう光を引き留めることができない。
涼は和巳ではないし、苦しんでいた幼い光を一度たりとも助けてやれなかった負い目もある。
「おう。」
それだけ返した涼に、光は安堵したようにひらひらと手を振った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる