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瑞樹ちゃんが出勤するまでの時間、俺たちは一緒に晩御飯を食べる。料理は俺の担当だ。ここに引き取られてきたときから、ずっと。家庭科の成績が良かったから、という理由で、瑞樹ちゃんによって料理担当に指名されたのだ。その頃は料理なんて全然できなくて、レパートリーもカレーとシチューと焼きそばしかなかったんだけど、瑞樹ちゃんも兄貴も文句は言わなかった。今は、もう家庭料理的なものなら一応なんでもと言っていいレベルで作れるようにはなった。喫茶店でも、ランチの調理は俺の担当だし。
「今日はご飯なに?」
シャワーを浴びた瑞樹ちゃんが、ストッキングに足を突っ込みながらキッチンを覗いてくる。
「豆腐ハンバーグとコンソメスープ。」
「お。リクエスト通りの減量メニューだ。」
「瑞樹ちゃんは痩せすぎだけどね。」
「これでも店では大分太い方なわけ。」
「不健康な痩せ方は逆効果だと思うな。」
「その辺は、雪人の料理センスにかかってる。」
ストッキングをはき終えた瑞樹ちゃんが、リビングでテレビをつける。ニュース番組をチェックしているのだろう。俺は、明日の仕事終わりに蒟蒻麺を買いに行こう、と思いながらハンバーグをひっくり返した。すると、丁度そのタイミングでリビングから声をかけられた。
「そういえば、春人からなんか連絡きた?」
どきん、と心臓がはねた。こうやって、と言いながら俺の舌を吸った兄貴の、妙に真面目な顔が記憶の底をよぎる。
俺はなんとか平静を取り繕って、なんで? と聞き返した。
「あいつ、大学辞めたいみたい。」
「え?」
「昨日、仕事終わりに電話きて、大学中退してもいいかって言うのよ。」
「え、それで?」
「私、別に許可する立場じゃないもん。そう言ったら、なんか悩んでるみたいな雰囲気だった。」
「雰囲気って?」
「……多分、女。」
「女?」
「後ろにいた。」
「え? そのひとのでせいで大学辞めたがってるの?」
「多分ね。」
俺は焼きあがったハンバーグを皿に盛りつけながら、女、と、口の中で繰り返した。俺の知る限り、兄貴の恋愛対象は、女だった。常に。だから、女がいると、それ自体は別におかしいことじゃない。でも、大学を辞めたがるほどの悩みが、その女のひとのせいで兄貴に降りかかっていると思うと、違和感はあった。兄貴は、昔から他人に執着しない。母親も父親も人生の序盤で消えていったせいか、とにかく誰にも執着を見せない。いつも兄貴は、来るもの拒まず、去る者追わずだった。
「今日はご飯なに?」
シャワーを浴びた瑞樹ちゃんが、ストッキングに足を突っ込みながらキッチンを覗いてくる。
「豆腐ハンバーグとコンソメスープ。」
「お。リクエスト通りの減量メニューだ。」
「瑞樹ちゃんは痩せすぎだけどね。」
「これでも店では大分太い方なわけ。」
「不健康な痩せ方は逆効果だと思うな。」
「その辺は、雪人の料理センスにかかってる。」
ストッキングをはき終えた瑞樹ちゃんが、リビングでテレビをつける。ニュース番組をチェックしているのだろう。俺は、明日の仕事終わりに蒟蒻麺を買いに行こう、と思いながらハンバーグをひっくり返した。すると、丁度そのタイミングでリビングから声をかけられた。
「そういえば、春人からなんか連絡きた?」
どきん、と心臓がはねた。こうやって、と言いながら俺の舌を吸った兄貴の、妙に真面目な顔が記憶の底をよぎる。
俺はなんとか平静を取り繕って、なんで? と聞き返した。
「あいつ、大学辞めたいみたい。」
「え?」
「昨日、仕事終わりに電話きて、大学中退してもいいかって言うのよ。」
「え、それで?」
「私、別に許可する立場じゃないもん。そう言ったら、なんか悩んでるみたいな雰囲気だった。」
「雰囲気って?」
「……多分、女。」
「女?」
「後ろにいた。」
「え? そのひとのでせいで大学辞めたがってるの?」
「多分ね。」
俺は焼きあがったハンバーグを皿に盛りつけながら、女、と、口の中で繰り返した。俺の知る限り、兄貴の恋愛対象は、女だった。常に。だから、女がいると、それ自体は別におかしいことじゃない。でも、大学を辞めたがるほどの悩みが、その女のひとのせいで兄貴に降りかかっていると思うと、違和感はあった。兄貴は、昔から他人に執着しない。母親も父親も人生の序盤で消えていったせいか、とにかく誰にも執着を見せない。いつも兄貴は、来るもの拒まず、去る者追わずだった。
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