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第八話 良い大人になりたい

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「今日もお疲れ様。賄は何がいい?」
「肉とか食べたいです!」
バイトしている居酒屋の店長にそう言うと、今日は忙しかったからご褒美だよとたくさんの焼き鳥を丼にしてくれた。居酒屋のバイトは正直嫌なことが多いけど、賄がおいしいからやめようにやめられない。しかもこのバイト先は先輩の紹介で入ったから余計にやめられない。

「ほんとに酔ったおじさんの相手は疲れる。ここキャバクラじゃないのに触ってくるお客さんいるし、彼氏はいるのかと何回も聞いてくるし、しかも忙しいし!」
こんな夜中でも私の愚痴に付き合ってくれるひとみは
「まあ世の中そんな人ばっかりだよね。セクハラで訴えてやろうか」
なんて言い出して一緒に怒ってくれる。口に出したらストレス発散になる私の性格を理解してくれてこうやって私に加算して戦ってくれる。もう家に帰ったれいに関しても私よりなぜか怒っているときもよくある。
「でもそう人もいる一方で静かに話しながら程よく酔って、注文に関してもいい態度してくれるお客さんもいて、その人に関しては本当に仏に見える」
「仏ってそんな人もいるのか。いいね、やっぱり余裕があるのかな」
仏の物まねをしながら話すひとみが面白くてジュースを吹き出しそうになったが、言葉は的を射ていると思う。
「じゃあ余裕のある大人にならないとね。人に迷惑かけずにお酒飲めるぐらいの」
「そうだね、でも余裕のある大人になるにはどうしたらいいかな。やっぱりお金とか結構稼いだほうが余裕でそう」
とひとみが言い出したことをきっかけに、金銭に関する劣等感が再度押し寄せてきた。
昔、貧乏なうちの子共は貧乏から結局抜け出せないという言葉を聞いたことがある。うちの家は貧乏だから私は貧乏になりたくないとこうしてバイトを2つも掛け持ちしているが、将来も貧乏な想像しかできない。
「お金ってどうやって稼ぐのかな」と私が言ってしまったばっかりに、結局、朝まで投資やらFXやらいろいろ調べまくって次の日の1限目は全く心の余裕がなく始まってしまった。これが灯台下暗しってやつか…。
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