ふたなりのままでいようと思ったら、知略の王子と不敵なる王から、狙われてしまった私

sierra

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後日談

17 狂おしいほど…… #

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「グリフィ…ス……?」

 月明かりの中、グリフィスは熱に浮かされたような眼差しをクリスに向ける。

 光の加減で、クリスの銀灰色の瞳は青みを帯び、神秘的な雰囲気を漂わせていた。
 彼はまるで、月の女神を捕らえたような、不思議な感覚に囚われる。
 シーツの上にはダークブロンドの髪が広がり、夜着に隠れた身体は官能的で、肌からは芳しい香りが立ちのぼる。 
 
 グリフィスは黄金色に輝く髪にそっと手を伸ばし、指先で掬い上げてくちづけた。
 そのまま上目遣いで見つめられて……クリスの脈拍が速くなる。

「愛しています、クリス。狂おしいほどに……」

 掠れた声で想いを告げられる。

「…………」

 クリスはといえば――愕然としていた。
(だって、……今までそんな素振り、おくびにも見せなかったのに……)

 もちろん、愕然としていただけではない。記憶を失ったとはいえ、グリフィスなのだ。熱く胸の内を語られるのは嬉しい。 
 しかし何故かこのまま進んでしまったら、不貞をはたらく――ような? 青少年相手にいいのだろうか――というような? そんな気持ちが湧いてくる。

「私が触れたらベッドから落ちて、真っ赤になっていたじゃない……!」
「それは最初の頃の話でしょう? 俺が記憶を失くしてから、もう六か月も経つんですよ?」 

 グリフィスが身を屈めて、長い左腕を顔の横についた。
 硬い親指がクリスの柔らかな唇をそっとなぞる。

「まるでキスされるために……あるような唇だ」

 クリスは目を真ん丸に見開いた。

「目を開けたままでも、俺は一向に構いませんが」

 彼は右手でクリスの顎を摘むと、静かに顔を傾けた。
 途端にクリスの頭の中で警鐘が鳴り響く。

「し、寝室の扉っ!」
「……はい?」
「閉めとかないと、トリシアが入ってくるかも……」
「ああ、そういえば開けっ放しでしたね」

 トリシアは用事を思い出すと夜中でも、隣室の居間まで当たり前のよう、にがんがん入ってくる。
 扉を閉めに行こうと、グリフィスが上体を起こした。

(良かった……この間にどうにかして……)

 クリスを見下ろしたグリフィスが、その考えを見透かしたのか、手を伸ばしてきた。
 彼女の腰から瑠璃色るりいろ翡翠色ひすいいろのスカーフを解くと、クリスの両手を真鍮しんちゅうでできたベッドの柵に、それぞれ括りつける。

「え?」
「ちょうど二本あって良かった」

 グリフィスの思いがけない行動に呆然としていたクリスが、ハッと我に返る。
 これではまるで拘束された囚人のようだ。 

「なにこれ……!?」

 クリスを優しく抱き締めて、頬にくちづける。

「すぐに戻る」
「”すぐに戻る”じゃない~~!!」
 
 暴れたがスカーフは少しも緩まない。
 心臓をバクバクさせながらクリスは懸命に考えた………とは言ってもこの状況下では、名案などこれっぽっちも浮かばない。
 ”ど、どうすれば!?”と必死に頭を巡らせていると、寝室の扉を閉めに行ったはずのグリフィスが、そこをスルーして居間へ入って行く。
 どうやら居室の出入り口にも、鍵をかけに行ったようだ。

(誰も入ってこれなくなる……!)

 ”益々まずい状況になった”とじたばたしているクリスを、戻ってきたグリフィスが面白そうに、ベッドの傍に立って上から眺める。
 クリスが眉尻を下げて、同情を誘うような表情を浮かべ、グリフィスを見上げた。

「グリフィス。せめてスカーフを外して?」
「いや、この光景はとてもそそられる……」
「ん……?」

(さっきから違和感はあったのだけど……)

「グリフィス?」
「はい?」
「記憶が戻ったんじゃない?」
「違います」

 怪しんでじーっと見つめるクリスの目を、グリフィスが躊躇なく見つめ返す。
 威厳と自信に満ちた態度で、堂々とクリスを見下ろした。

「その溢れ出るふてぶてしさ。やはり戻ったのでしょう?」
「……ばれたか」

 あっさりと認めてベッドに上がってくると、クリスをギュッと抱き締めた。クリスはがっしりした腕の中で暴れる。

「いつから戻っていたの!?」
「執務室で本が頭に落ちてきた時から。アーネストは気付いていたみたいだ」 
「何で言ってくれなかったの!? とても心配したのに!!」

 当然だがクリスは相当怒っている。

「あんまり嬉しそうな顔をするからだ」
「……はい?」
「少々妬けた」
「……誰に?」
「記憶のない自分に」
「…………両方あなたじゃない」
「俺が記憶を失っている間、大層嬉しそうに毎日迎えに来ていたじゃないか」
「それはだって、若い記憶の貴方が、根を詰めて仕事しそうで心配だったし、~~~だったから」
「うん?」

 後半部分は、ごにょごにょ言って終わってしまったクリスに、グリフィスが片眉を上げる。

「いま何て言った?」
「もういいでしょう? さぁ、スカーフを解いて」
「何て言ったか教えてくれるまでは、解かない」
「えっ、……」
「答えるんだ」

 クリスはもじもじしながら、言いづらそうに白状をする。

「もしかしたら、記憶が戻っているかもしれないから……」
「ん?」
「執務中に記憶が戻っているかもしれないから、迎えに行っていたの」
「俺の記憶が戻っていることを、毎日期待して迎えに来ていたのか……?」

 恥ずかし気にこくんと頷いた途端、がばっと抱き締められて、有無を言わさず顔じゅうにキスされた。

「こうなるから、嫌だったのにいぃいい!」

 グリフィスが上機嫌で、手首のスカーフを解く。
 クリスはむすっとした顔で、縛られていた両手首を撫でてから、右手を差し出した。

「スカーフを渡して」
「心配しなくても、もう縛らないが?」

 尚も手を出しているクリスにグリフィスが渡すと、いきなり彼の手首にスカーフを巻きつけた。

「え、」

 不意を突かれたグリフィスは、トンッと胸を押されてあっけなく倒れる。
 クリスは素早く彼の腹部にまたがり、片手を柵に括りつけると、残る片手も括りつけた。
 今度はグリフィスが囚人のように、両手を上げて拘束される。

「……クリス?」
「さぁ、覚悟はいい?」

 小悪魔のような笑みを浮かべて……クリスが彼を見下ろした。




***

ここから読もうのムーンと内容が変わります。あちらは仄暗い感じで、こちらとは対照的な話になります。
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