ふたなりのままでいようと思ったら、知略の王子と不敵なる王から、狙われてしまった私

sierra

文字の大きさ
87 / 94
後日談

16 ひ、ひ、ひとまず落ち着きましょう!?

しおりを挟む
 耳元で囁くように言われ、逞しい胸に抱き締められて……クリスの胸の鼓動が早くなる。

「クリス……?」

 グリフィスに促されて、クリスは胸の内を考えつつ、正直なところを口にした。

「………戻ってほしいわ。愛した人だもの。でも、もし戻らなくても平気よ。だってどちらもグリフィスで、考え方とか、根本的なところは変わらないし……きっと愛せるようになると思うの」
「それって、”今の俺の事は愛していない”って言ってるんだよね?」
「あれ………」

 "わたし、やってしまいました?"というクリスの顔とは対照的に、グリフィスの瞳が悲し気にかげる。

「中身が俺だと、やはり頼りないのか……」
「えっ、違う! 好きよ、大好き!」
「でも愛してはいない」

 辛そうに顔を背け、グリフィスがクリスから離れていく。
 クリスは軽はずみな発言で純真な彼を傷つけてしまい、後悔して縋り付く。

「待ってグリフィス!」
「だから俺がキスしようとすると避けるんですね……」
「避けてないわよ?」

 寧ろ恥ずかしがるグリフィスを捕まえて、積極的にキスしていた覚えが……

「頬ではなくて、唇へのキスです」
「それはだって、今の貴方は私より、精神的には年下で、(大人)グリフィスと違って純情で……何かこう、子供をかどわかしているような気分になるの」

 グリフィスがすっと目を細めて、縋り付いているクリスを見下ろした。

「子供じゃない――」
「え……」

 グリフィスのまとう雰囲気が変わり、クリスの背筋に悪寒が走る。
 咄嗟とっさに彼女は本能的に、グリフィスから離れて後ずさった。
 彼は口を引き結ぶと、僅か一歩で距離を縮める。
 クリスの身体をひょいと抱き上げ、寝室に向かって歩き始めた。

「グリフィス!?」
「じっとしていて下さい」

 クリスは慌ててじたばたしたが、抱き上げる手に力がこめられ、益々身動きができなくなった。
 グリフィスは見た限りでは、普段通りに落ち着いて見える。
 しかし彼女をきつく抱く腕や、険しい横顔からは、彼の怒りと固い決意がひしひしと伝わってきた。  

 寝室に運ばれ、毎夜二人が離れて眠る大きなベッドに、とさっとクリスは下ろされた。
 彼が扉を閉めに行こうとした隙に、反転したクリスは、ベッドの反対側から逃げ出そうとする。
 気付いたグリフィスがすかさず振り返り、大きな手でクリスの足首を掴んだ。

「ひっ、」
「なぜ逃げるんですか。部屋の中で追いかけっこなんてごめんです」
「グリフィス、何をするつもりなの?」

 グリフィスは足首を掴んだまま、ギシッとベッドに片膝をついた。

「いま貴方が、その可愛い頭の中で考えている事を」
「ひ、ひ、ひとまず落ち着きましょう!?」
「落ち着いたほうがいいのは、貴方のほうなのでは?」

 彼の露わな上半身が引き締まり、マットレスを軋ませてベッドに上がってくる。
 クリスは焦って後ずさるが、足首を引っ張られてずるずると引き戻されてしまった。
 もがくクリスを逃さぬよう、グリフィスは彼女に跨って膝立ちになる。 
 クリスはすべもなく、呆然とグリフィスを見上げた。

「何で急に? ずっとベッドの端で寝ていたじゃない……!」
「全く分かっていないんですね」

 右手を伸ばしてクリスの額にかかっていた髪の毛を、そっと耳に撫でかける。
 そのまま指先を滑らせて白く滑らかな頬に、ひんやりとした大きな手の平を押し当てた。

「どれだけ俺が我慢をしていたのかを……」

 月の光が部屋を満たし、グリフィスがまっすぐにクリスを見つめる。
 彼の表情に息を呑んだクリスが、こくり…――と喉を鳴らした。

 アイスブルー瞳の奥に、熱く孕んだものを見てしまったから。

しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました

蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人―― “赤い鷲”の女将軍イサナと、 “青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。 最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。 死を覚悟したその瞬間―― イサナは思わず、矢面に立っていた。 「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」 理由などなかった。 ただ、目の前の男を失いたくなかった。 その報告を受けた皇帝エンジュは、 静かに、しかし飄々とした口調で告げる。 「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」 「ただし、子を成すこと。それが条件だ」 敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。 拒否権はない。 こうしてソウガは、捕虜でありながら 《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。 武でも策でも互角に戦ってきた男が、 今は同じ屋根の下にいる。 捕虜として――そして夫として。 反発から始まった奇妙な同居生活。 だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、 じわじわと二人の距離を変えていく

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

処理中です...