ふたなりのままでいようと思ったら、知略の王子と不敵なる王から、狙われてしまった私

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第二章

36 絶対零度の冷気 ☆ (ムーンがRです)

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「父に何の用だ――?」

 顔のすぐ横には扉をついたグリフィスの右腕。背中に絶対零度の冷気を感じ取り、やっとの事で口を開ける。

「ちょっと、ご相談したいことが……」
「こんな時間に?」
「プライベートな事なの……」
「夫にも言えない事なのか?」
「………」

 いきなり彼に抱き上げられた。

「グ、グリフィス!?」
「また逃げられたら堪らないからな」

 警護の者達は見て見ぬ振りをしていて、クリスは紅くなる。
 自分達の私室に向かう中、クリスがおずおずと口を開いた。

「なんでお義父様のところだと分かったの?」
「消去法だ。アーネストとデイヴィッドは仕事中で、ハンナと君の妹達は、どちらかというとこちらの味方だ。兄のところは俺が怒り狂う事が分かっているだろうし、母のところだとすぐに嗅ぎ付けそうだと考えると思った」

 クリスが溜息を吐いた。
「何でもお見通しなのね」
「そうでもないさ。まさか月のものが終わっているとは思わなかった」
「い、言わなかったのには訳があるの」

 グリフィスが腕の中のクリスを見下ろして片眉を上げる。

「貴方が少し怖かったの。私を見る目つきが時々獲物を狙っている捕食者みたいで……それに、グリフィスとただ一緒に寝ているのって、守られているようで幸せな気持ちになるの」

 彼が溜息をつく。

「俺がどれだけ我慢をして一緒に寝ていると思っているんだ」
「そうなの? でも、私にとって至福の時だったの。怒ってる……?」
「ああ、少し」
「それだけじゃないの。デイヴィッドに話を聞いたから!」
「デイヴィッドに……?」

 クリスはデイヴィッドから`檻の中のライオン ‘ の話を聞いた事を話した。

「だからあの時、君の様子がおかしかったのか――デイヴィッド……全く余計な事を」
「余計な事じゃないわ、私は初心者なのよ? 一週間も部屋から出られずにずっとなんて……とても無理!!」
「それだったら大丈夫だ」
「え……」

 希望が見えてクリスは顔を輝かせる。

「食事の時は、居間まで出てもいいよ」
「やっぱりいや~~~!!」

 クリスが身体をばたつかせた。
 グリフィスは暴れる彼女を事も無げに運んでいく。
 部屋の前の警備兵が、何気なさを装いながら部屋の扉を開けてくれ、彼は躊躇わずに中に入り寝室へと向かう。
 
 ベッドに下ろされた後にすぐ立ち上がり、部屋の角までサササと後ずさった。グリフィスがそれを見てクスクスと笑っている。

「前にも同じような事があったな。ところで風呂に入らなくていいのか?」
「お風呂――! 入るわ!」

 時間稼ぎができそうな気がして、クリスはその言葉に飛びついた。

「着替えはハンナが浴室の棚の上に置いてくれている」
 
 背中でその声を聞きながら広い浴室に入る。コバルトブルーで統一されたそこは洗面台に大きな鏡、一方の壁には葡萄の木が一面に描いてあり、ツルが伸びているところどころに、荷物が置けるよう白い棚が取り付けてあった。
 中央には大きなやはり白い猫足のバスタブが置いてある。

 アクエリオスは温泉が豊富に湧き出るので、城の中も温泉の配管がなされていた。
 天井から伸びてきているそれは、なだらかなカーブの洒落た造りになっていて、右の蛇口をひねると温泉が出て、左の蛇口からは水が出ているようで、好みの温度に調整できる。

 いつもは侍女達にお湯の用意をしてもらっているので、自分でするのは初めてだ。興味深く観察をしながらバスタブに湯を満たす。
 観察をしていて気付いたのだが配管の上のほうに、蜂の巣の形をした物がついている。材質は配管と同じで、鉄であろうか……? 侍女達が使うところを見た事がないし、自分の部屋にもついていなかったので、使い方がよく分からない。

 ドレスを脱ぎ、いつも侍女がしているようにハンガーに掛けるとお湯に浸かった。自分で用意したお風呂は初めてで、何だかとても気分がいい……そこまで考えてはっとする。
 
 この時間に覚悟を決めないと――!
 
 グリフィスは待ってくれる気は無さそうだし、確かに嘘を付いていたのは自分だし、散々待たせたし……。
 そこでチラッと先程の蜂の巣に目を向ける。

 知りたがり、学びたがりやのクリスには、それがなんだかとても気になった。今は覚悟を決めないといけないのに、その物が何であるかに興味を惹かれてしまう。蜂の巣のように下に穴が空いているし、きっとここからお湯が出て、雨のように降り注ぐのだ。
 だとしたら、これはとても便利な代物である。グリフィスが考えたのだろうか?

 ――使ってみたい。

 クリスは立ち上がると、その蛇口に手を伸ばした。両手で左右の蛇口をキュッとひねる。

「キャーーー!!」

 その叫び声は寝室まで響いてきた。グリフィスが驚いてバスルームに飛び込むと、そこには滝のようなシャワーを浴びるクリスの姿があった。急いで駆け寄り、浴槽から出して胸に抱き寄せると、右手をシャワーの蛇口へと伸ばす。
 お湯は止まり、彼女は咳き込んでお湯を吐き出した後に、完全に彼に凭れかかって、ぜーぜーと息をした。

「これはまだ開発途中なんだ。一つ一つの穴が大きくて湯が大量に出てきてしまうから」
「窒息するかと思った……」
「ごめん。最初に言っておけばよかった」

 そう言いながらも彼はクスクスと笑っている。クリスが頬を膨らませて、身体を離した。

「笑わないで――」
「確かにこれは笑い事じゃないな……」
「え……?」
 見ると彼はクリスの身体を上から下までじっくりと眺めている。

「あ……」
 
 グリフィスの視線を遮ろうと、咄嗟にまた抱きついた。

「誘ってる?」
「違う!」

 真っ赤になりながら、離れて自分の裸身を晒すべきか、じっとしているべきか悩んでいると、彼が重ねて言う。

「胸が……また大きくなったんじゃないか?」

 視線から身を隠そうと、知らず知らずの内に彼に胸を押し付けていた。
 真っ赤になりながら身体を少し離すと、グリフィスが首筋にキスをしながら鼻をすりつけてきた。

「待って……!」
「もう、待てない――」
「んっ!?」
  
 唇を塞がれて、慌てる姿が愛らしい。見かけはクールビューティーなのに、中身は好奇心一杯でまるで少女を思わせる。そのギャップがまた堪らなく魅了的だ。
 世界広しと言えど、そんな女性はクリスしかいないだろう。そしてそのクリスはこの自分のものなのだ。
 唇を離してそっと囁いた。

「愛している」

 クリスは目を見開いた後にほうっと息を吐き、嬉しそうに頬を桜色に染めて微笑んだ。
 
 グリフィスはその笑顔に見惚れている自分に気付く。
 また怒られそうだが、彼女はやはり警戒心が薄いと思う――。神さえひれ伏しそうなそんな笑顔を、三年間恋焦がれた男の前で、しかも裸身で浮かべるなんて。 

「キスをしてほしいの……」

 彼女が嬉しそうなその瞳のまま僅かに唇を開く。魅せられたように軽く唇を合わせると、クリスの舌がそっと触れてきた。

 まずい、理性が飛びそうだ――

 グリフィスは焦るあまり彼女の肩に手を置いて、突き放すように身体を離した。一旦落ち着こうとすぐに目を瞑って深呼吸をする。

「なぜ……?」

 その声につい、目を開けて後悔をした。
 拒絶されて傷ついたクリスがその様子を悟られまいと、表情を取り繕うため健気に口を引き結んでいる。しかし瞳からは哀しさが溢れ出ていた。

 グリフィスの理性はあっけなく飛んだ――

「やっ、グリフィ……!」

 唇を貪られ、顔中にもキスの雨が降る。あまりの激しさに逃げるように後ずさるが、彼はぴたりとついてきて身体を離しはしない。
 しまいにはタイルに押し付けられ、身体中にキスを浴び始めた。



 お読み頂きありがとうございます。Rの入り口という感じでしょうか。ムーンはRありで、内容も違うものになっています。
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