伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します!なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね?

sierra

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20 エリカ見たわよ、おめでとう!

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「お嬢様。ミランダ様がいらっしゃいました」

「え? 今日は約束をしていないのに……いいわ、この部屋にお通しして。それから紅茶とお茶菓子をお願いね」

「かしこまりました」

 エリカの部屋は、ベッドルームとは別に小さな居間がついている。

 親しい友達とはよくそこで過ごすのだ。

(きっと昨日、ダニエル様がいらした後に何があったかを聞きに来たのね。ミランダには”偽装のお付き合い”であることを打ち明けたいけど……やはり駄目よね)

「エリカ見たわよ! おめでとう!」

 入ってくるなり、抱きついてきたミランダにエリカは目を白黒させる。

「どうしたの?」

「まだとぼける気? ほら、これを見て」

「え、号外? なになに”ダニエル王子、伯爵家令嬢エリカ・バートレイとめでたくご婚約!”………何よこれえぇええ!」

 わなわなと震えるエリカに、ミランダが続きを読んで聞かせる。

「今までどの女性にも靡かなかったダニエル王子に意中の女性現る!
 最近、ちまたを騒がしていたダニエル王子殿下(20歳)と伯爵令嬢エリカ・バートレイ(17歳)のロマンスは本物だった。
 記者がダニエル王子に事の真相を尋ねたところ、はっきり”婚約者として近く紹介する”との返事が……」

「その号外ちょうだい、破るから!」

「だめよ、記念に取っておくんだから。それにこれだけじゃなくて、他社のもそうよ?」

「………………え?」

「こっちの見出しは……”世紀のラブロマンス! まるで”恋愛小説のような二人の馴れ初め! ねぇ、仕事と人生に疲れ切ったダニエル様が訪れた避暑地で、二人は出会ったって本当?」

 エリカがジト目でミランダを睨む。

「出会いはヴァイオレットに叩かれそうになった時だって、知ってるくせに」

「そうよね、読んでて変だと思ったのよねぇ。これは三流誌だけど、最初に読んだ記事はデイリートラストだから信用できるわ」

「そちらも怪しいわ。だって王子が自分から言う筈はないし。トラストの記者が突撃インタビューしても、近衛の騎士に阻まれるはずだもの」

「ここに書いてある。ええと、今日の午前中に議席数についての発表があり…」

 今までコンラート王国の、議会の議席数の殆どは貴族が占めていた。

 それをダニエルは貴族を三分の二、平民を三分の一にまで引き上げると発表したのだ。

 当然発表以前から、貴族議員は大反対をしていた。

 しかし王子は考えを覆さなかった上に、今日の発表で、”近い将来には平民の議席数を半分にまで引き上げるつもりだ”とまで言い放ったのだ。
 
(昨日早く帰らなきゃいけなくなったのは、この件だったのね)

「その発表の最後にエリカの件をデイリートラストの記者が質問したのだそうよ。そうしたら”エリカ嬢と婚約した”と王子が幸せそうに答えたと書いてあるわ」

 ミランダが新聞を折りたたんで、脇に置く。

「やっぱり恋仲だったんじゃない。話してくれなかったのは悲しいけど、おめでたい話だから許してあげる」

「恋仲じゃないし、婚約もしてないわ。わたし達は、”結婚を視野に入れたお付き合い”をするはずだったのよ!」

「あんまり変わらないんじゃない?」

「大違いよ!」

「でも”婚約”ってもう発表されちゃったわよ?」 

 エリカがすくっと立ちあがった。

「ちょっと行ってくる!」

「どこに?」

「もちろん王子のところよ。文句言って訂正してもらわなきゃ。馬車を用意して!」

「は、はい!」

 紅茶を入れかけていた侍女が、手を止めて慌てて退室し、小走りで廊下を駆けていった。

 エリカは手近にあったビーズのバッグに、ハンカチやらブラシやらメモ帳やら、目の前にあるものを片っ端から突っ込んでいく。

「ミランダ、せっかく来てもらったのに悪いけど」

「わたしなら大丈夫。お茶を頂いてから帰るわ」

「ええ、ゆっくりしていってちょうだい」

 歩き去るエリカに向けて、ミランダが手を振った。

「土産話を楽しみにしてるわ~」

 エリカはすごい剣幕のまま馬車に乗り込んだ。御者と話すための、背もたれの上にある小窓を開けて、行き先を命じる。

「コンラート城までお願い」

「かしこまりました」

 御者の青年は侍女から行先を聞かされていたのか、驚きもせずに馬車を出した。
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