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51 奇しくも今夜は満月!
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ダニエルの黒の正装姿はうっとりするほど素敵で、エリカはドレスの事も忘れて見惚れてしまう。
普段、鍛錬を怠らないせいか、引き締まった身体は女性であるにも拘らず、男性の正装が良く似合う。
ダニエルも溜息をつき、賞賛の目でエリカを見つめた。
「とても綺麗だ――」
「ありがとうございます……」
頬を染めるエリカに、ダニエルが紅い小箱を取り出した。
「これをつけてほしい」
彼が小箱の蓋を開けると、中からアメジストのリングが現れた。
「えっ、だめです。これは、」
「婚約指輪をしていないと、怪しまれるだろう?」
躊躇うエリカの手を取ると、薬指にエリカの瞳と同じ紫のリングを嵌める。
一目で良質と分かるアメジストを、花に見立てて中央に置き、周囲をピンクゴールドの葉であしらったデザインで、繊細かつ美しい。
「偽物で良かったのに……」
「……君の瞳に合わせて俺が選んだんだ」
固い声にはっと気づいて顔を上げると、ダニエルは落胆の表情を浮かべていた。
”違う、本当は嬉しいの…”と喉まで出かけた言葉を呑み込む。
ゆくゆくはダニエルと関係を絶つのだ。辛くはあるが、他人行儀な対応をしたほうがいいかもしれない。
「それとこれを…」
渡されたのはドレスと同じ茶の布地に、金糸で縁取りをしたマスク。
目から鼻まで隠れるタイプで、形は至ってシンプルだ。
「今日の夜会は、仮面舞踏会なのですか?」
「そうだ」
頷くダニエルに会場までエスコートされながら、エリカが疑問を口にする。
「ルクレツィア王女を牽制するのに、わたくしの顔を隠してしまっていいのでしょうか?」
「いいんだ。要は愛しい婚約者という存在を、しっかりと認知させればいいわけだから。オズワルドに可愛い君を紹介して、目をつけられても困るしね」
「………」
”この平凡顔にそれはないです”と言おうとしたところで、待機していた召使いが大広間の扉を開けた。
(ひえぇええええ!)
人、人、人――
そこは溢れんばかりの人で埋まっていた。
婚約者を初めてお披露目する場であるためか、広い会場なのに人々がひしめき合っている。
(仮面をつけていて良かった……)
仮面をしていなかったら衆人環視の中、びびりまくった顔を晒していただろう。
(あれ、でも私は助かるけど、初お披露目なのに仮面をつけたままでいいのかな……)
壇上では仮面をつけていないオズワルド王子とルクレツィア王女が、国王によって紹介されている。
ダニエルの袖口を引っ張って、エリカは耳打ちした。
「ダニエル、私たちは仮面を取らなくていいの?」
「今日はオズワルド王子とルクレツィア王女が主役だから、我々は取らなくていい。目立たないようにと父上からのお達しだ。紹介が終わったら、あの二人も仮面をつけるだろう」
「分かったわ」
”良かった。あの美少女と仮面無しで並ばなくて済んで……”
壇上から降りたオズワルドとルクレツィアは、ダニエルの言葉通り用意された仮面をつけると近づいて来た。
ルクレツィア王女は、スカート部がシフォンでできたふわふわの綿菓子のようなピンク色のドレスに、同じピンク色の仮面で、目だけを覆うタイプをつけている。
プラチナブロンドの髪をハーフアップにして、マスクから覗く紅い瞳も印象的だ。
オズワルドはというと、黒いマスクから覗く紅い瞳が、エリカを無遠慮に眺めまわしている。
居心地悪く感じながらも、エリカも丁度良い機会だとばかりに観察し返す。
さすがはメイン攻略者。
騎士団に所属しているだけあり、屈強な身体つきをしていて、こちらも黒の正装を見事に着こなしている。
高身長な上に、目鼻立ちの整った男らしい顔立ちが、ダニエルの隣に立っても釣り合いが取れ、正に眼福ものだ。
(そうだ! 月の光が注ぐなか、ダニエルとオズワルドが踊るイベントがあったはず!)
”奇しくも今夜は満月!”と握りこぶしでエリカが二人を見る……と……
普段、鍛錬を怠らないせいか、引き締まった身体は女性であるにも拘らず、男性の正装が良く似合う。
ダニエルも溜息をつき、賞賛の目でエリカを見つめた。
「とても綺麗だ――」
「ありがとうございます……」
頬を染めるエリカに、ダニエルが紅い小箱を取り出した。
「これをつけてほしい」
彼が小箱の蓋を開けると、中からアメジストのリングが現れた。
「えっ、だめです。これは、」
「婚約指輪をしていないと、怪しまれるだろう?」
躊躇うエリカの手を取ると、薬指にエリカの瞳と同じ紫のリングを嵌める。
一目で良質と分かるアメジストを、花に見立てて中央に置き、周囲をピンクゴールドの葉であしらったデザインで、繊細かつ美しい。
「偽物で良かったのに……」
「……君の瞳に合わせて俺が選んだんだ」
固い声にはっと気づいて顔を上げると、ダニエルは落胆の表情を浮かべていた。
”違う、本当は嬉しいの…”と喉まで出かけた言葉を呑み込む。
ゆくゆくはダニエルと関係を絶つのだ。辛くはあるが、他人行儀な対応をしたほうがいいかもしれない。
「それとこれを…」
渡されたのはドレスと同じ茶の布地に、金糸で縁取りをしたマスク。
目から鼻まで隠れるタイプで、形は至ってシンプルだ。
「今日の夜会は、仮面舞踏会なのですか?」
「そうだ」
頷くダニエルに会場までエスコートされながら、エリカが疑問を口にする。
「ルクレツィア王女を牽制するのに、わたくしの顔を隠してしまっていいのでしょうか?」
「いいんだ。要は愛しい婚約者という存在を、しっかりと認知させればいいわけだから。オズワルドに可愛い君を紹介して、目をつけられても困るしね」
「………」
”この平凡顔にそれはないです”と言おうとしたところで、待機していた召使いが大広間の扉を開けた。
(ひえぇええええ!)
人、人、人――
そこは溢れんばかりの人で埋まっていた。
婚約者を初めてお披露目する場であるためか、広い会場なのに人々がひしめき合っている。
(仮面をつけていて良かった……)
仮面をしていなかったら衆人環視の中、びびりまくった顔を晒していただろう。
(あれ、でも私は助かるけど、初お披露目なのに仮面をつけたままでいいのかな……)
壇上では仮面をつけていないオズワルド王子とルクレツィア王女が、国王によって紹介されている。
ダニエルの袖口を引っ張って、エリカは耳打ちした。
「ダニエル、私たちは仮面を取らなくていいの?」
「今日はオズワルド王子とルクレツィア王女が主役だから、我々は取らなくていい。目立たないようにと父上からのお達しだ。紹介が終わったら、あの二人も仮面をつけるだろう」
「分かったわ」
”良かった。あの美少女と仮面無しで並ばなくて済んで……”
壇上から降りたオズワルドとルクレツィアは、ダニエルの言葉通り用意された仮面をつけると近づいて来た。
ルクレツィア王女は、スカート部がシフォンでできたふわふわの綿菓子のようなピンク色のドレスに、同じピンク色の仮面で、目だけを覆うタイプをつけている。
プラチナブロンドの髪をハーフアップにして、マスクから覗く紅い瞳も印象的だ。
オズワルドはというと、黒いマスクから覗く紅い瞳が、エリカを無遠慮に眺めまわしている。
居心地悪く感じながらも、エリカも丁度良い機会だとばかりに観察し返す。
さすがはメイン攻略者。
騎士団に所属しているだけあり、屈強な身体つきをしていて、こちらも黒の正装を見事に着こなしている。
高身長な上に、目鼻立ちの整った男らしい顔立ちが、ダニエルの隣に立っても釣り合いが取れ、正に眼福ものだ。
(そうだ! 月の光が注ぐなか、ダニエルとオズワルドが踊るイベントがあったはず!)
”奇しくも今夜は満月!”と握りこぶしでエリカが二人を見る……と……
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