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57 決して逃さない
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「オズワルド……さま…?」
「ああ、ごめん。自分が考えすぎていたと思ったんだ」
「人間って、悪いほうに考えてしまう生き物なんですって。だから悩んだ時は思い切って聞いてみるといいですよ」
「聞いてみる?」
「はい。お兄様に”騎士団長の件は身内びいきか?”って聞いてみるんです。”ばかだな。実力のある人間を団長に据えるのは当たり前じゃないか。まぁ、可愛い弟に傍に居てほしいのもあるがな”って、きっと言って下さいます」
”だから自信を持って”とエリカが微笑んだ。
エリカの紫の瞳は澄んでいて、心からの言葉だということが伝わってきた。
オズワルドは思う。
兄はそのように言ってはくれないだろう。
素直に口にする性格じゃないし、意外に照れ屋だし……。
しかし”きっとそう思ってくれている”という確信が持てた。
オズワルドは癒され、胸が温かさで満たされていく。
「君の、」
「はい?」
「君の名前は?」
「エリ―――、ザベスです」
オズワルドは、大切な宝物を愛でるように、名前を呟いた。
「エリザベス……」
エリカを見つめる眼差しに熱がこもる。
(……あれ、雰囲気がなんかヤバくない……?)
「エリザベス。君とはまだ踊っていなかったね」
「はい。他のそっくりさんを蹴散らして、殿下にダンスを申し込む勇気はありませんでしたから」
冗談に紛らわそうと思ったが、オズワルドは笑ってはくれなかった。
「いまだったら、踊ってくれるかい?」
エリカの手を口元に寄せ、くちづけながら囁いた。
(月明かりのダンスイベントがわたしに!?)
「………靴を脱いで逃げていたので、足が痛くて」
運がいいことに真実である。
「あいつらめ……。大丈夫だ。俺が抱いて医務室まで連れて行こう」
「えっ、いえ、オズワルド様にそのような真似はさせられません!」
距離を詰めてくるオズワルドは、”絶対に……逃さない”と目を爛々と輝かせている。
(どどど、どうしよう)
医務室に行ったらエリカだとばれる。
それ以前に彼に抱かれて運ばれたりしたら、ダニエルが激怒する。
あたふたしていると、左手に持つサンドイッチが目に入り、とある物が用意されていないことに気づいた。
「じゃあ、このサンドイッチを食べてからお願いします」
エリカは言うなりサンドイッチを丸々、無理やり自分の口に突っ込んだ。
当然ながら、喉に詰まって思い切りむせる。
オズワルドが慌てて背中を叩いた。
「大丈夫か!?」
「み、水を……」
彼は飲み物を用意していなかったことに気づき、すぐさま駆けだした。
「すぐ持ってくる! 待っててくれ!」
オズワルドの姿が消えたのを見届けてから、エリカはハンカチで口を押えて無理やり飲み込み、立ち上がった。
「死ぬかと思った……」
ごほごほ言いながらよろよろと、来た道を戻っていく。
すぐに自分を呼ぶダニエルや、騎士や兵士の声が聞こえてきた。
「ああ、ごめん。自分が考えすぎていたと思ったんだ」
「人間って、悪いほうに考えてしまう生き物なんですって。だから悩んだ時は思い切って聞いてみるといいですよ」
「聞いてみる?」
「はい。お兄様に”騎士団長の件は身内びいきか?”って聞いてみるんです。”ばかだな。実力のある人間を団長に据えるのは当たり前じゃないか。まぁ、可愛い弟に傍に居てほしいのもあるがな”って、きっと言って下さいます」
”だから自信を持って”とエリカが微笑んだ。
エリカの紫の瞳は澄んでいて、心からの言葉だということが伝わってきた。
オズワルドは思う。
兄はそのように言ってはくれないだろう。
素直に口にする性格じゃないし、意外に照れ屋だし……。
しかし”きっとそう思ってくれている”という確信が持てた。
オズワルドは癒され、胸が温かさで満たされていく。
「君の、」
「はい?」
「君の名前は?」
「エリ―――、ザベスです」
オズワルドは、大切な宝物を愛でるように、名前を呟いた。
「エリザベス……」
エリカを見つめる眼差しに熱がこもる。
(……あれ、雰囲気がなんかヤバくない……?)
「エリザベス。君とはまだ踊っていなかったね」
「はい。他のそっくりさんを蹴散らして、殿下にダンスを申し込む勇気はありませんでしたから」
冗談に紛らわそうと思ったが、オズワルドは笑ってはくれなかった。
「いまだったら、踊ってくれるかい?」
エリカの手を口元に寄せ、くちづけながら囁いた。
(月明かりのダンスイベントがわたしに!?)
「………靴を脱いで逃げていたので、足が痛くて」
運がいいことに真実である。
「あいつらめ……。大丈夫だ。俺が抱いて医務室まで連れて行こう」
「えっ、いえ、オズワルド様にそのような真似はさせられません!」
距離を詰めてくるオズワルドは、”絶対に……逃さない”と目を爛々と輝かせている。
(どどど、どうしよう)
医務室に行ったらエリカだとばれる。
それ以前に彼に抱かれて運ばれたりしたら、ダニエルが激怒する。
あたふたしていると、左手に持つサンドイッチが目に入り、とある物が用意されていないことに気づいた。
「じゃあ、このサンドイッチを食べてからお願いします」
エリカは言うなりサンドイッチを丸々、無理やり自分の口に突っ込んだ。
当然ながら、喉に詰まって思い切りむせる。
オズワルドが慌てて背中を叩いた。
「大丈夫か!?」
「み、水を……」
彼は飲み物を用意していなかったことに気づき、すぐさま駆けだした。
「すぐ持ってくる! 待っててくれ!」
オズワルドの姿が消えたのを見届けてから、エリカはハンカチで口を押えて無理やり飲み込み、立ち上がった。
「死ぬかと思った……」
ごほごほ言いながらよろよろと、来た道を戻っていく。
すぐに自分を呼ぶダニエルや、騎士や兵士の声が聞こえてきた。
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