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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 56 「男は狼です」
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「えっー! 居間のカウチではないの?」
「サファイア、何故お前ががっかりする。二人共まだ婚約中の身だ」
アレクセイが後方のカイトに、チラリと視線を向ける。リリアーナはその視線が気になったが聞くほどのものでもなく、話題もすぐに他へと移ってしまった。
「さあ、もう寝る時間だ。解散しろ」
それぞれが`しようがない ‘ とばかりに立ち上がり、リリアーナを軽く抱きしめて部屋を出ていく。カイトがキルスティンに声を掛けた。
「キルスティン、リリアーナ様の傷を治してくれて本当にありがとう」
「ううん、リリアーナ様にもお伝えしたのだけれど、ほんの罪滅ぼしよ。気に…しない……で……」
「キルスティン?」
キルスティンが目眩を起こし足元をふらつかせ、カイトが咄嗟に抱き留めた。
「大丈夫か?」
「ん……平気…ごめんなさい」
「例の眠気が襲ってきたのか?」
「うん、お腹が膨れたから、次はそれね」
「部屋まで送ろう」
カイトがキルスティンの膝裏と背中に腕を差し込み抱き上げる。彼女は驚いた後にほんの一瞬、頭をカイトの胸に寄せて嬉しそうに頬を染めた。でもそれは本当に一瞬で、すぐ思い直したように表情を引き締める。
リリアーナはキュッと唇を引き結んだ。
この状況では仕方がない事は分かっている。カイトは自分を好いてくれていて、キルスティンを何とも思っていない事も、でも美しいキルスティンはカイトの事を……。
「カイト、俺が彼女を送ろう。部屋も同じ方向だし」
「いえ、アレクセイ様にそのような事は…」
「美女を腕にできるんだ。役得以外の何物でもない。お前はこのまま部屋の警護についてくれ」
「かしこまりました。ありがとうございます――」
アレクセイはカイトからキルスティンを抱き取って、廊下へと出て行く。
リリアーナはアレクセイに感謝をしながらも、少し自己嫌悪に陥った。キルスティンは傷を治してくれたからふらついたのに、狭小な自分が嫌になる。
王太子殿下直々に運ばれて、キルスティンは恐れ多くて腕の中で縮こまった。
「君も辛いな……」
思い掛けない言葉に、キルスティンがアレクセイを見上げる。
「……私の……気持ちにお気づきですか?」
「割と分かりやすいぞ?」
「カイトの心がどこにあるのか知っているし、もう大丈夫かとも思っていたのですが、抱き上げられたら……だめですね」
「カイトは他の事は聡いのに恋愛方面は鈍いからなぁ」
キルスティンがクスリと笑った。
「でも……そのほうが…いいで…す…け………」
「ん……キルスティン? ……眠ってしまったか……」
腕に揺られるキルスティンを見下ろして、アレクセイは眠りを妨げないよう、静かに、しかし速らかにまた歩き始めた。
「それではリリアーナ様、私はこのまま警護につかせて頂きます」
「え?、ええ。お願いね」
カイトがお辞儀をして部屋から退室をし、入れ違いに小間使い達が入ってきてお茶の片づけをし始める。
「リリアーナ様、就寝の準備をいたしましょう。まずは入浴から……」
フランに言われるままに寝室でドレスを脱ぎ、浴室で入浴をしようとすると、アヒルが浴槽の中に浮いていた。
「あら、これ…」
ポチャンとお湯に浸かりながら、リリアーナが両手で掬い上げる。
「すいません、いつもの癖でうっかり……」
目に沁みるので、髪の毛を洗われるのを嫌がるリリアーナ(5歳児)の為に、フランが用意したのだ。アヒルで遊んでいる間に、いつもチャチャッと手際よく洗ってくれていた。
「……フラン、ありがとう……子供の世話は大変だったでしょう?」
「そんな事はございません。大変賢くていらっしゃいましたし、聞き分けもよくて、まるで天使のお世話をしているようでしたよ」
入浴後、良い香りのする香油を身体に塗り込められ、鏡台の前で髪を梳いてもらう。
「フランチェスカ……」
「はい」
「もう大人だし……今日は一人で寝られるから……」
「――かしこまりました。私の簡易ベッドは運び出させますね」
ほんのりと頬を赤らめて、リリアーナは恥かしそうに頷いた。
フランチェスカは`私の姫様は本当に分かりやすくて純で愛らしい――それだけにお守りしなければ!‘と使命感に燃えて口を開く。
「リリアーナ様。一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なぁに?」
「男は狼です」
「え……?」
「そしてカイトも男です! リリアーナ様は`夜にちょっと会えれば ‘ 位に考えていらっしゃるかもしれませんが、くれぐれもお気をつけて――できれば会わずに……お会いになっても扉から外には出ないようにして下さいませ」
「カイトだったら……大丈夫じゃないかしら?」
「私も多分大丈夫だとは思いますが、何しろ半年以上、姫様に会っていないのと同じ状態でしたから」
「ええ……気をつけるわ」
そこでハッ、とこれでは会うと言っているのと同じではないか、と急いで言い足した。
「もし、会ったらね……!」
言ってからまた、白々しいと紅くなる。
寝支度が整いベッドに横になると、フランチェスカが耳かきほどの細い棒の先に付いている、小さな釣鐘型の火消しをランプの火に被せて明かりを消した。
「それでは、お休みなさいませ」
お辞儀をして、寝室から出ていく。
リリアーナは天井を見ながら考える。
(出て行かないほうがいいだろうか……だけど、会いたい。やっと大人に戻れたし、色々な話しをして……できれば触れて、抱きしめてほしい)
抱きしめられる事を想像して紅くなりながら、でも、と寝返りを打つ。フランが懸念していたように、カイトは16歳の自分と久しぶりに会ったせいか、暴走気味なのは否めない。
(最初は私が気を失って、二度目は姉様達が部屋にきたからそこで終わりになったけど……)
リリアーナはベッドの上をごろごろと、何度も何度も寝返りを打つ。
(抱きしめられるだけでは済まないかもしれない。もし、キス以上になったら……いや、もうなりつつある?)
思わず枕をぎゅーっと抱きしめた。
その時自分はカイトを止められる自信がない――
カイトとのキスは気持ちがいい。愛されていると実感をし、指先で触れられるとうっとりしてしまう。でも、まだ婚約中の身だから最後までは進めない……最後以前にどこまでなら許されるのだろう?
家庭教師から一応教わっているが、どこまでならいいなんて聞いたことがないし、リリアーナが男性恐怖症なのもあって、あまり具体的なところは学んでいない。
幼児になる前は全てカイトに任せていた。彼はきちんとその辺りを心得ており、優しく接してくれていた。父や兄の信頼も厚い彼となら、長時間ではないが付き添いなしで、二人きりでいる事も許される。
そう、こんな心配をしなくても、カイトならきっと大丈夫。自重してくれるとも言っていたし、今夜警護についたのだって、きっと会いたいと思ってのこと。だとしたら随分と待たせてしまっている。
あれこれと思い悩んだお陰で結構な時間が過ぎてしまい、もう真夜中になっていた。
リリアーナはガウンを羽織り、きっちりとベルトを締めてから寝室を出る。居間を抜けて廊下へ通じる扉に手を掛け、胸を高鳴らせながら顔をそっと覗かせると、驚き顔のカイトと目が合った。
喜びが溢れ出るリリアーナと違い、彼は表情を曇らせた。
「リリアーナ様どうなさいましたか?」
カイトはすぐに笑みを浮かべたが、それが却って違和感を生む。
「あ、あの……少し話せないかと思って……」
「眠れないのですか?」
確かに眠れる状態ではなかったので、こくりと頷いた。
「すぐに巡回の警護兵が回ってきます。その者にホットミルクを持ってくるよう、小間使いへ言付けさせましょう」
「え……」
何でそうなるのだろう? そんな事はこれっぽっちも望んでいない。それに今`少し話せないか?‘ と聞いたばかりだ。
カイトは何故か目も合わせてくれない――
少し痛む胸を抑えながらも、もう一度口にした。
「話したいと思ったの……ホットミルクはいらない」
「そうですか……それでは以前のように、椅子を部屋の入り口まで持って参りますから、リリアーナ様は部屋の中でお座りになって下さい」
カイトは優しい笑顔で、微妙に視線を逸らしたまま話す。リリアーナは訳が分からず、悲しい想いが広がっていく。
「違うの。話したくて……カイトに会いたくて出てきたの」
「今日はもう、お疲れでしょう。今は仕事中ですが、明日はまた休暇中の身になります。こんなところで話さずとも、ゆっくりお話をする事ができます」
「何で敬語なの?」
「勤務中だからです」
「ねぇ、何か変。他人行儀すぎる…」
リリアーナがカイトの腕を掴もうと伸ばした手を、彼は思わず振り払った。
「――っ!?」
「……すみません……!」
涙が込み上げてきて、彼女は声をつまらせた。手を引っ込め、謝りながら部屋に戻る。
「ご、ごめんなさ……お仕事の邪…魔……」
「違うっ、リリアーナ!」
すぐに扉を閉めて鍵をかける。泣き顔など見られたくはない。
「リリアーナ、話したい事がある。ここを開けてくれ!」
カイトが扉をドンドンと叩いた。
リリアーナは両手で耳を塞ぐ。ただ、とても悲しかった。
彼がさっき言った通り、話なら明日聞けばいい……明日……自分は聞けるだろうか?
……私は何かしたのだろうか……。
リリアーナが返事をせずにぽろぽろ涙を零しながら、寝室へ向かおうとすると、鍵を差し込む音に続き、ドアノブを回す音が背後から聞こえてきた。
「サファイア、何故お前ががっかりする。二人共まだ婚約中の身だ」
アレクセイが後方のカイトに、チラリと視線を向ける。リリアーナはその視線が気になったが聞くほどのものでもなく、話題もすぐに他へと移ってしまった。
「さあ、もう寝る時間だ。解散しろ」
それぞれが`しようがない ‘ とばかりに立ち上がり、リリアーナを軽く抱きしめて部屋を出ていく。カイトがキルスティンに声を掛けた。
「キルスティン、リリアーナ様の傷を治してくれて本当にありがとう」
「ううん、リリアーナ様にもお伝えしたのだけれど、ほんの罪滅ぼしよ。気に…しない……で……」
「キルスティン?」
キルスティンが目眩を起こし足元をふらつかせ、カイトが咄嗟に抱き留めた。
「大丈夫か?」
「ん……平気…ごめんなさい」
「例の眠気が襲ってきたのか?」
「うん、お腹が膨れたから、次はそれね」
「部屋まで送ろう」
カイトがキルスティンの膝裏と背中に腕を差し込み抱き上げる。彼女は驚いた後にほんの一瞬、頭をカイトの胸に寄せて嬉しそうに頬を染めた。でもそれは本当に一瞬で、すぐ思い直したように表情を引き締める。
リリアーナはキュッと唇を引き結んだ。
この状況では仕方がない事は分かっている。カイトは自分を好いてくれていて、キルスティンを何とも思っていない事も、でも美しいキルスティンはカイトの事を……。
「カイト、俺が彼女を送ろう。部屋も同じ方向だし」
「いえ、アレクセイ様にそのような事は…」
「美女を腕にできるんだ。役得以外の何物でもない。お前はこのまま部屋の警護についてくれ」
「かしこまりました。ありがとうございます――」
アレクセイはカイトからキルスティンを抱き取って、廊下へと出て行く。
リリアーナはアレクセイに感謝をしながらも、少し自己嫌悪に陥った。キルスティンは傷を治してくれたからふらついたのに、狭小な自分が嫌になる。
王太子殿下直々に運ばれて、キルスティンは恐れ多くて腕の中で縮こまった。
「君も辛いな……」
思い掛けない言葉に、キルスティンがアレクセイを見上げる。
「……私の……気持ちにお気づきですか?」
「割と分かりやすいぞ?」
「カイトの心がどこにあるのか知っているし、もう大丈夫かとも思っていたのですが、抱き上げられたら……だめですね」
「カイトは他の事は聡いのに恋愛方面は鈍いからなぁ」
キルスティンがクスリと笑った。
「でも……そのほうが…いいで…す…け………」
「ん……キルスティン? ……眠ってしまったか……」
腕に揺られるキルスティンを見下ろして、アレクセイは眠りを妨げないよう、静かに、しかし速らかにまた歩き始めた。
「それではリリアーナ様、私はこのまま警護につかせて頂きます」
「え?、ええ。お願いね」
カイトがお辞儀をして部屋から退室をし、入れ違いに小間使い達が入ってきてお茶の片づけをし始める。
「リリアーナ様、就寝の準備をいたしましょう。まずは入浴から……」
フランに言われるままに寝室でドレスを脱ぎ、浴室で入浴をしようとすると、アヒルが浴槽の中に浮いていた。
「あら、これ…」
ポチャンとお湯に浸かりながら、リリアーナが両手で掬い上げる。
「すいません、いつもの癖でうっかり……」
目に沁みるので、髪の毛を洗われるのを嫌がるリリアーナ(5歳児)の為に、フランが用意したのだ。アヒルで遊んでいる間に、いつもチャチャッと手際よく洗ってくれていた。
「……フラン、ありがとう……子供の世話は大変だったでしょう?」
「そんな事はございません。大変賢くていらっしゃいましたし、聞き分けもよくて、まるで天使のお世話をしているようでしたよ」
入浴後、良い香りのする香油を身体に塗り込められ、鏡台の前で髪を梳いてもらう。
「フランチェスカ……」
「はい」
「もう大人だし……今日は一人で寝られるから……」
「――かしこまりました。私の簡易ベッドは運び出させますね」
ほんのりと頬を赤らめて、リリアーナは恥かしそうに頷いた。
フランチェスカは`私の姫様は本当に分かりやすくて純で愛らしい――それだけにお守りしなければ!‘と使命感に燃えて口を開く。
「リリアーナ様。一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なぁに?」
「男は狼です」
「え……?」
「そしてカイトも男です! リリアーナ様は`夜にちょっと会えれば ‘ 位に考えていらっしゃるかもしれませんが、くれぐれもお気をつけて――できれば会わずに……お会いになっても扉から外には出ないようにして下さいませ」
「カイトだったら……大丈夫じゃないかしら?」
「私も多分大丈夫だとは思いますが、何しろ半年以上、姫様に会っていないのと同じ状態でしたから」
「ええ……気をつけるわ」
そこでハッ、とこれでは会うと言っているのと同じではないか、と急いで言い足した。
「もし、会ったらね……!」
言ってからまた、白々しいと紅くなる。
寝支度が整いベッドに横になると、フランチェスカが耳かきほどの細い棒の先に付いている、小さな釣鐘型の火消しをランプの火に被せて明かりを消した。
「それでは、お休みなさいませ」
お辞儀をして、寝室から出ていく。
リリアーナは天井を見ながら考える。
(出て行かないほうがいいだろうか……だけど、会いたい。やっと大人に戻れたし、色々な話しをして……できれば触れて、抱きしめてほしい)
抱きしめられる事を想像して紅くなりながら、でも、と寝返りを打つ。フランが懸念していたように、カイトは16歳の自分と久しぶりに会ったせいか、暴走気味なのは否めない。
(最初は私が気を失って、二度目は姉様達が部屋にきたからそこで終わりになったけど……)
リリアーナはベッドの上をごろごろと、何度も何度も寝返りを打つ。
(抱きしめられるだけでは済まないかもしれない。もし、キス以上になったら……いや、もうなりつつある?)
思わず枕をぎゅーっと抱きしめた。
その時自分はカイトを止められる自信がない――
カイトとのキスは気持ちがいい。愛されていると実感をし、指先で触れられるとうっとりしてしまう。でも、まだ婚約中の身だから最後までは進めない……最後以前にどこまでなら許されるのだろう?
家庭教師から一応教わっているが、どこまでならいいなんて聞いたことがないし、リリアーナが男性恐怖症なのもあって、あまり具体的なところは学んでいない。
幼児になる前は全てカイトに任せていた。彼はきちんとその辺りを心得ており、優しく接してくれていた。父や兄の信頼も厚い彼となら、長時間ではないが付き添いなしで、二人きりでいる事も許される。
そう、こんな心配をしなくても、カイトならきっと大丈夫。自重してくれるとも言っていたし、今夜警護についたのだって、きっと会いたいと思ってのこと。だとしたら随分と待たせてしまっている。
あれこれと思い悩んだお陰で結構な時間が過ぎてしまい、もう真夜中になっていた。
リリアーナはガウンを羽織り、きっちりとベルトを締めてから寝室を出る。居間を抜けて廊下へ通じる扉に手を掛け、胸を高鳴らせながら顔をそっと覗かせると、驚き顔のカイトと目が合った。
喜びが溢れ出るリリアーナと違い、彼は表情を曇らせた。
「リリアーナ様どうなさいましたか?」
カイトはすぐに笑みを浮かべたが、それが却って違和感を生む。
「あ、あの……少し話せないかと思って……」
「眠れないのですか?」
確かに眠れる状態ではなかったので、こくりと頷いた。
「すぐに巡回の警護兵が回ってきます。その者にホットミルクを持ってくるよう、小間使いへ言付けさせましょう」
「え……」
何でそうなるのだろう? そんな事はこれっぽっちも望んでいない。それに今`少し話せないか?‘ と聞いたばかりだ。
カイトは何故か目も合わせてくれない――
少し痛む胸を抑えながらも、もう一度口にした。
「話したいと思ったの……ホットミルクはいらない」
「そうですか……それでは以前のように、椅子を部屋の入り口まで持って参りますから、リリアーナ様は部屋の中でお座りになって下さい」
カイトは優しい笑顔で、微妙に視線を逸らしたまま話す。リリアーナは訳が分からず、悲しい想いが広がっていく。
「違うの。話したくて……カイトに会いたくて出てきたの」
「今日はもう、お疲れでしょう。今は仕事中ですが、明日はまた休暇中の身になります。こんなところで話さずとも、ゆっくりお話をする事ができます」
「何で敬語なの?」
「勤務中だからです」
「ねぇ、何か変。他人行儀すぎる…」
リリアーナがカイトの腕を掴もうと伸ばした手を、彼は思わず振り払った。
「――っ!?」
「……すみません……!」
涙が込み上げてきて、彼女は声をつまらせた。手を引っ込め、謝りながら部屋に戻る。
「ご、ごめんなさ……お仕事の邪…魔……」
「違うっ、リリアーナ!」
すぐに扉を閉めて鍵をかける。泣き顔など見られたくはない。
「リリアーナ、話したい事がある。ここを開けてくれ!」
カイトが扉をドンドンと叩いた。
リリアーナは両手で耳を塞ぐ。ただ、とても悲しかった。
彼がさっき言った通り、話なら明日聞けばいい……明日……自分は聞けるだろうか?
……私は何かしたのだろうか……。
リリアーナが返事をせずにぽろぽろ涙を零しながら、寝室へ向かおうとすると、鍵を差し込む音に続き、ドアノブを回す音が背後から聞こえてきた。
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