駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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出会い

騎士団長

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「は~、レナード!こっちへ来い。」

彼はため息をつき、僕がごまごましていると、周りはいつも苛立っていた。今回もそうだ。僕がさっさと受け答えができないせいで、彼を怒らせた。エディは僕に対して優しかったからつい誤解していた。美しい容姿でもなければ何かを成すこともできないただの役立たず。それが僕、朝霧志弦だ。


「こんにちは。僕は黒耀騎士団副団長のレナード・ミナス・ダックルハントです。シヅル君ですよね。ここじゃ騒がしいので、団長の天幕に移動しましょうか。」
「はい。」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ここにはあなたに敵意を持つものなんていませんから。」

たしかに僕なんぞに気を配っている暇はみんなないだろう。

「それでシヅル君、君はどうしてこんなところに?ここは危険な場所です。」
「えっと…」

どこから話せばいいのだろう。エディに話した内容と同じことを言うだけだ。

「話しづらいのなら、ゆっくりでいいですよ。」
「僕は、この森に住んでて、だから、」
「えっちょっと待ってください!団長!!」

そんなに驚くことだったのかな。わざわざ彼を呼ぶってことはおかしいことだったんだ。エディも驚いてたしな。

「なんだ」
「団長、この子……」

レナードさんは彼と何を話しているんだろう。彼は眉間にしわを寄せた。もしかしてここに住むのって違法だったのかな?なら、出ていかないと。せっかく神様が用意してくれた家なのに、出ていかないといけないんだ。

「おい」
「はっはい!」

いきなり呼ばれたからびっくりした。やっぱり出て行けって怒鳴られるのかな。

「お前、親は?」

親?前の世界ではいたけどこの世界ではいないな。

「いっいません。」
「一人でこの森に住んでるのか?」
「はい」
「やっぱり…」

レナードさんが僕を見て言った。二人ともなんだろう、なんか怒ってる?何に怒ってるんだろう。僕、もしかして迷子だと思われてる?訂正したほうがいいかな。

「シヅル君、今日はここに泊まってください。いいですか?」
「えっ、僕」
「そこのベッドを使え、いいな」

そう言ってあっという間に去っていった。僕、ほんとに迷子だと思われてるんじゃない?エディが説明してくれるだろ。
なんだか不思議な気持ちになる。僕はこれから誰ともかかわらずに生きていくつもりだったのに。こんなにも早く人とかかわっている。まぁいいか。どうせ明日には追い出されるんだから。一応護身用に剣をかかえて寝ることにしよう。そう思い、眠気に身を任せた。





「ん…、朝、か。」

天幕の隙間から朝日が差し込む。あぁここは家じゃないのか。とりあえず家に帰る準備をしよう。そういえばここは誰の天幕だったんだろう。彼のかレナードさんのかだろう。迷惑をかけて申し訳ない。

「入るぞ。」
「あっはい。」
「朝飯食うだろ。来い」
「えっそこまでお世話になるわけにはいきません。」
「いいから、来い」

外に出ると色んな人がいて、僕らを見て何かを言っている。どうせ肯定的な内容ではないだろう。ところでエディはどこだろう。

「シヅル!」
「エディ!」
「いやぁごめんな。オレが馬鹿なせいで巻き込んで。」
「えっいや、エディが今大丈夫ならいいと思うよ。」
「わっ」

いきなり後ろに引っ張られた。彼だ。

「エディ、殿下がお呼びだ。行け」
「っ!ごめんな、シヅルまた後でな!」

頼みの綱が行ってしまった。エディに事情を話してもらおうと思ったのに。ってこんなんじゃだめじゃん。日本にいたころと変わらない。少しは自分の駄目なところを隠さないと。

「食べれないものはあるか。」
「えっなっないです!」
「…俺は怖いか?」
「そんなことないです…」
「そうか」

やばい、会話がない。でもよく考えるとこれを食べたら彼らとはもう会わないんだ。気楽に構えていこう。

「団長、シヅル君、おはようございます。」
「あぁ」
「おっおはようございます。」
「団長、ちゃんと話しましたか?」
「まだだ。」

レナードさんが来てくれてよかった。このまま帰ろうかな。いやっでも一言だけ声をかけていく?なんも言わずにいなくなるって嫌な奴じゃん。結局この森に住んでるのって違法なのかな、あっこのサラダおいしい。

「全く団長は…どうしちゃったんですか。えーとシヅル君」
「はい!」
「シヅル君さえよろしければ、私たちと一緒に来ませんか?」
「えっ」
「エディから聞いた。助けたんだろ?瀕死のあいつを。」

助けた…のかな?エディも僕にありがとうと言っていた。でもこれは僕の力ではなく、神様の力とエディの生命力とか今までの努力で培われてきた肉体のおかげだ。

「まぁ…」
「正直言って、それだけの手技を持っている方が来てくれると嬉しいです。」
「えっでも…」
『シヅル、やってみてもいいと思うよ。嫌なら逃げればいい。いくらでも僕は手助けするよ。』

シリル様まで…、どうしよう、でも僕が駄目な奴なばかりに結局迷惑をかけそうだ。このまま逃げたらまた前の世界の二の舞になりそうだ。

「大丈夫です。あなたを害する人は私…いや団長が!倒してくれますので!」

なぜ急に彼が。僕への嫌がらせだろうか。それとも彼へのレナードさんなりの絡みなのだろうか。

「というか団長、名前を言ったんですか?」
「言ってない。俺はアレフガート・ノルク・ヴァラムフィールド、黒曜騎士団の団長だ。」
「あっ僕はシヅルです。」

アレフガート…、なんだか彼らしいしっくりとくる名前だ。響きが安心する。
そしてなぜだかわからないけどこの人のそばにいるとなんだろう、安心感がある。この人のそばにいたい。本能からかわからないがするりと口から言葉が出た。

「あのっ連れて行ってください!これからよろしくお願いします!」

ついに言ってしまった。これでもう後戻りはできない。

「そうか分かった。」

一瞬だがあの鋭い目を細め、彼が笑ったように見えた。
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