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サヴァリッシュ王国
アレフガートの焦燥
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森の入り口に送ってもらい、あとは風魔法で屋敷まで飛んでいくだけだと思っていた矢先、僕はその人を発見した。
アレフガートさんが森の入り口で馬と一緒にたたずんでいる。
『アレフガートさんだ!』
『……ちょうどいいな』
『へ?』
シリル様が僕をふわりと地面に卸す。少しバランスを崩し僕はヒースの実を慌てて抱えなおす。
すると彼はすぐにこちらに気付き、信じられないほどの速さで僕のもとへ来た。
「シヅル!!やはり、ここにいたっ…」
「……///」
彼が僕を抱きしめる。思わず頬に熱が集まり、鼓動がはやまる。大丈夫。夜でもう暗いしばれないはずだ。
そうしていると、もう消えてしまったかと思っていたシリル様が声を発した。
『おまえが。竜の子』
「貴様、誰だ?」
僕を抱きしめたまま、シリル様にアレフガートさんが剣を向ける。
「なっ!アレフガっ」
「シヅルは静かにしてなさい。」
この状況を止めようとした僕の口をアレフガートさんが手で覆い封じる。
というか精霊は人に姿を見せないんじゃないのか?今が例外なのか?
『大丈夫だよ。シヅル。』
「っ!貴様、勝手に名を呼ぶな‼」
『なぜ?お前に決められなければならない?』
一度僕が屋敷を出ていこうとした時ぐらい恐ろしい表情でシリル様を睨みつける。一方のシリル様も精霊王らしい威圧感を放っている。僕に放っているわけでなく、正確に彼に向けているけど余波みたいなものを感じる。
張り詰めた空気が漂う。
違うのに。
なぜ最初からアレフガートさんはシリル様に剣を向けているんだ?
なんでシリル様はわざと挑発するようなことをいうんだ?
この場をどうにか収めたいが、どうにもできない自分が歯がゆい。
そう思っていると、真っ暗なはずの野原にふわりと幾数の光が寄ってきた。
そう、精霊たちだ。
「これは、精霊…⁉」
『へぇ、わかる奴もまだいるんだ。まあさすが竜の子ってとこかな?』
そこでようやくアレフガートさんの手がゆるむ。足が地面につき、ホッとする。
「アレフガートさん。そのっこの方、精霊王様なんです」
「精霊王…⁉」
『そう、僕は風の精霊王、シリル。』
「精霊はまだ、いたのか。精霊王も…」
驚愕というより信じられないというような顔になるがさすがアレフガートさん。
すぐに冷静さを取り戻す。
剣をゆっくりおろすが、態勢は変わらないままだ。
シリル様が精霊たちに何かを言う。そうすると、精霊たちが僕の顔あたりに近づいてくる。
『まあ、信じられずともそういうものだ。』
「いや、にわかには信じがたいが、シヅルが言うのならそうに違いない。」
『ふーん、愛はあるってこと?』
「何のことだ。」
シリル様のお願いで精霊たちにより耳をふさがれた僕には何を話しているのか見当もつかない。しかし、またもや険悪なムードが漂っていることはわかる。
あぁ、この時間が早く終わりますように。
『いや?こっちの話。まぁいいや、早く話をしよう。』
「……」
『お前、シヅルのこと、どうする気でいる?』
「…貴殿が口を出すことでない。」
『うーん。違うよ?口、だすよ。シヅルは僕のだからね。』
「⁉…お前のモノだろうが、何だろうが関係ない。」
『…ほら。そういうとこだよ。竜の番にだけに向く支配欲?独占欲っていうのかな?俺のモノってやつ。それってさぁ、ほんとにシヅルは幸せなの?』
「……」
『なーんも言えないじゃん。シヅルは僕の愛し子だよ。必ず、幸せにする。それを妨害するのなら、だれであろうと、どんな理由があろうと、制圧する。』
「…確かに、俺はシヅルを支配したい。閉じ込めたい。できるならば、シヅルには俺以外の者を見てほしくないし、みせたくない。考えても欲しくない。…だが、それでも、シヅルのしたいようにさせている、つもりだ。俺はシヅルを害する者すべてから守り抜く。」
『……』
「シヅルは自分に向けられる好意に鈍い。俺が下手なのもあるが、そこは態度で示す。全力で伝えて、わからせる。」
『…それでも、もし、逃げられたらどうする?』
「追いかけて、捕まえて、理由をきく。そして、二度と離れたくないと思ってもらえるくらいの男になる。」
『へぇ。最後に聞いてもいいか。シヅルに対する執着はどこから来たものだ。やはり竜人として番に感じる本能?』
「おそらくそれもあるのだろう。初めて会った時の衝撃はそれもあったはずだ。だが違う。どれだけ口に出しても伝わらないだろうが、俺は、シヅルを心の底から愛している。」
『…ふん!今日は見逃してやるよ。』
パチンっ
耳の自由が返ってくる。
ようやく解放された。途中から精霊たちがくすぐってきて大変だったのだ。
気づくと話は終わっていたようだ。よかった。戦闘にならなくて。
「シヅル。帰ろう。」
「あっはい!」
自然な動作で馬に乗せられる。手つきがなめらかでまた顔が赤くなる。
『じゃあね。シヅル。また、気軽においで。』
「はい!ありがとうございました。」
『ふふっ。こちらこそ。楽しかったよ。』
アレフガートさんが会釈をし、馬が走り出す。
―――
馬が走り出してすぐ、シリルはアレフガートに向かって念話を飛ばす。
『そうだ、言うのを忘れてた。おい、過ぎた執着と慢心は相手を壊すぞ。くれぐれも、気をつけろ。』
「…あぁ」
アレフガートさんが森の入り口で馬と一緒にたたずんでいる。
『アレフガートさんだ!』
『……ちょうどいいな』
『へ?』
シリル様が僕をふわりと地面に卸す。少しバランスを崩し僕はヒースの実を慌てて抱えなおす。
すると彼はすぐにこちらに気付き、信じられないほどの速さで僕のもとへ来た。
「シヅル!!やはり、ここにいたっ…」
「……///」
彼が僕を抱きしめる。思わず頬に熱が集まり、鼓動がはやまる。大丈夫。夜でもう暗いしばれないはずだ。
そうしていると、もう消えてしまったかと思っていたシリル様が声を発した。
『おまえが。竜の子』
「貴様、誰だ?」
僕を抱きしめたまま、シリル様にアレフガートさんが剣を向ける。
「なっ!アレフガっ」
「シヅルは静かにしてなさい。」
この状況を止めようとした僕の口をアレフガートさんが手で覆い封じる。
というか精霊は人に姿を見せないんじゃないのか?今が例外なのか?
『大丈夫だよ。シヅル。』
「っ!貴様、勝手に名を呼ぶな‼」
『なぜ?お前に決められなければならない?』
一度僕が屋敷を出ていこうとした時ぐらい恐ろしい表情でシリル様を睨みつける。一方のシリル様も精霊王らしい威圧感を放っている。僕に放っているわけでなく、正確に彼に向けているけど余波みたいなものを感じる。
張り詰めた空気が漂う。
違うのに。
なぜ最初からアレフガートさんはシリル様に剣を向けているんだ?
なんでシリル様はわざと挑発するようなことをいうんだ?
この場をどうにか収めたいが、どうにもできない自分が歯がゆい。
そう思っていると、真っ暗なはずの野原にふわりと幾数の光が寄ってきた。
そう、精霊たちだ。
「これは、精霊…⁉」
『へぇ、わかる奴もまだいるんだ。まあさすが竜の子ってとこかな?』
そこでようやくアレフガートさんの手がゆるむ。足が地面につき、ホッとする。
「アレフガートさん。そのっこの方、精霊王様なんです」
「精霊王…⁉」
『そう、僕は風の精霊王、シリル。』
「精霊はまだ、いたのか。精霊王も…」
驚愕というより信じられないというような顔になるがさすがアレフガートさん。
すぐに冷静さを取り戻す。
剣をゆっくりおろすが、態勢は変わらないままだ。
シリル様が精霊たちに何かを言う。そうすると、精霊たちが僕の顔あたりに近づいてくる。
『まあ、信じられずともそういうものだ。』
「いや、にわかには信じがたいが、シヅルが言うのならそうに違いない。」
『ふーん、愛はあるってこと?』
「何のことだ。」
シリル様のお願いで精霊たちにより耳をふさがれた僕には何を話しているのか見当もつかない。しかし、またもや険悪なムードが漂っていることはわかる。
あぁ、この時間が早く終わりますように。
『いや?こっちの話。まぁいいや、早く話をしよう。』
「……」
『お前、シヅルのこと、どうする気でいる?』
「…貴殿が口を出すことでない。」
『うーん。違うよ?口、だすよ。シヅルは僕のだからね。』
「⁉…お前のモノだろうが、何だろうが関係ない。」
『…ほら。そういうとこだよ。竜の番にだけに向く支配欲?独占欲っていうのかな?俺のモノってやつ。それってさぁ、ほんとにシヅルは幸せなの?』
「……」
『なーんも言えないじゃん。シヅルは僕の愛し子だよ。必ず、幸せにする。それを妨害するのなら、だれであろうと、どんな理由があろうと、制圧する。』
「…確かに、俺はシヅルを支配したい。閉じ込めたい。できるならば、シヅルには俺以外の者を見てほしくないし、みせたくない。考えても欲しくない。…だが、それでも、シヅルのしたいようにさせている、つもりだ。俺はシヅルを害する者すべてから守り抜く。」
『……』
「シヅルは自分に向けられる好意に鈍い。俺が下手なのもあるが、そこは態度で示す。全力で伝えて、わからせる。」
『…それでも、もし、逃げられたらどうする?』
「追いかけて、捕まえて、理由をきく。そして、二度と離れたくないと思ってもらえるくらいの男になる。」
『へぇ。最後に聞いてもいいか。シヅルに対する執着はどこから来たものだ。やはり竜人として番に感じる本能?』
「おそらくそれもあるのだろう。初めて会った時の衝撃はそれもあったはずだ。だが違う。どれだけ口に出しても伝わらないだろうが、俺は、シヅルを心の底から愛している。」
『…ふん!今日は見逃してやるよ。』
パチンっ
耳の自由が返ってくる。
ようやく解放された。途中から精霊たちがくすぐってきて大変だったのだ。
気づくと話は終わっていたようだ。よかった。戦闘にならなくて。
「シヅル。帰ろう。」
「あっはい!」
自然な動作で馬に乗せられる。手つきがなめらかでまた顔が赤くなる。
『じゃあね。シヅル。また、気軽においで。』
「はい!ありがとうございました。」
『ふふっ。こちらこそ。楽しかったよ。』
アレフガートさんが会釈をし、馬が走り出す。
―――
馬が走り出してすぐ、シリルはアレフガートに向かって念話を飛ばす。
『そうだ、言うのを忘れてた。おい、過ぎた執着と慢心は相手を壊すぞ。くれぐれも、気をつけろ。』
「…あぁ」
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