駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

実地訓練5

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最初は殿下を焚火のそばに座らせ、自分は入り口に立って護衛をしようとした。しかし、殿下がフラフラの僕を戦力外だと思ったのか「お前も座れ」、とおっしゃった。

「すみません。」

それでも万が一魔獣が襲ってきたときのことを考え剣を左手でつかみながら座る。

「殿下、お怪我はありませんか?」
「あぁ。お前は…。」
「僕は大丈夫です。」

自分の体を見るとところどころ血がにじんでいるのがわかる。だけどどれもかすり傷だ。

「はぁ………」

殿下が無意識かわからないが溜息のようなものをつく。これは殿下の今のこの状況に対する感情だろうか。

「殿下、満足にお守りすることができなく、申し訳ありませんでした。」
「…いや、違う。俺はお前がいなかったら今頃あの怪物に食われていただろうからな。」

そこでずっと気になっていたことを思い出した。今なら聞ける。

「…そういえば、あのヒドラ、殿下ばかり狙っていたようにみえたのですが…」
「………あぁ。」

殿下もわからないというように言う。だけどどこか寂しげな諦めた表情をした殿下の顔をみて気づいた。
自分の命が狙われているということを殿下は知っていたのかもしれない、と。
確かにそう考えれば説明がつく。カーチェスが学園は危険といったことも、騎士科の生徒の異常な実力主義的思想も、このタイミングでの合成魔獣キメラの出現、対峙も。そして王太子争いとも関係があるのだろう。
いつから耐えていたのだろうか、この子は。
考えると胸が苦しくなり鼻がツンとしてくるので話題を変える。

「しかし、あのヒドラ相手に傷なしで生き残れるのは素晴らしいです。」

そうだ。あのヒドラ相手にわずか14歳の子供が生き残ったのだ。

「そうか。」

相変わらず殿下の顔は冷めている。それをじっと眺めているとあることに気が付いた。
どこかで見たことがあると思ったら僕の顔にそっくりなんだ。
昔の僕の顔に。
僕は最近この顔を見ていない。なぜなら自分がそんな顔をしなくなったからだ。そりゃあ僕の顔は見つめられたもんじゃないだろう。だけどこんな空虚な諦めきった顔はしていない。
僕を今のこの顔にしたのは、間違いなく彼だ。アレフガートさん。僕の大切な人。
それにこの世界にきてから僕に親切にしてくださった周りの皆。
この時の僕はどうかしていたのだろう。目の前の殿下の表情を、暗い眼を、なんとか変えたいと思った。

「殿下、友達はいますか?」
「は?」

突然の質問に殿下はいきなりなんだといった顔をした。しかしそれに構わず話し続ける。

「友達っていいものですよ。普通に会話をして、笑いあって、困ったときに助け合えるんです。別に友達でなくてもいいんですよ。兄弟でも婚約者でもなんでも、なんでもないくだらないことで笑いあえるそんな人。そんな人がいるだけで人生楽しいはずです。」

僕は楽しくなった。この世界に来るまで、自分でも何をしていたのかわからないまさに”空”の時間だった。だけどこの世界では友達ができた。頼れる仲間ができた。気になる人もできた。めちゃくちゃになってしまった縁もあるけれど、僕はそれでもここにいる、教師として。
殿下は僕の話を聞いて眉を潜めた。

「まぁ難しく考えないで下さい。」

やばい、頭がふわふわしてる。何言ってるのか自分でもよくわかっていない。だけど思ったままに言葉はするすると出て来た。
静寂が訪れる。放った竜巻の音がかすかに聞こえる。魔獣の気配はない。

「俺は、駄目だ。そんなもの、できない。」
「…え?」
「できない、といったんだ。」

できない、とはどういうことなのか。聞きたかったけれど僕が踏み込んでよい範囲なのか、唯聞かなくても大丈夫だと思ったのかわからないけれど、口が勝手に動いた。

「—大丈夫ですよ。僕でさえできたのだから。」
「……お前は、わかっていない。」
「そうですね…。僕はわかっていないのでしょう。」
「……。」
「だけど、僕は殿下のことを少しでも、1パーセントでもいいからわかりたいと思います。」

僕と似た殿下。
でも僕じゃない。殿下は愛される人だ。さっきの戦いでだって僕に迷惑をかけないように、といった行動をしていた。あれが自然と行動に出る人はすごい。

「………人間として何かが欠落している気がするんだ。死に対する恐怖とか」
「でも、謝れるじゃないですか。」
「…?」
「さっき、殿下の第一声が“すまない”だったこと、覚えてますか?ふふっ。それだけで、もう立派な人間だと思います。」

殿下の言葉を遮り僕がそういうと殿下は驚いた顔をした。
僕の顔を見つめて顔を赤くしたかのように見えたがすぐに殿下はあちらに顔を向けた。

「……そ、そういえばお前は…一体、何歳なんだ。教師だから20は超えていると思ったが外見から違うと思った。ならば妖精族かと思ったが、めったに姿を現さない妖精族がわざわざ人に勉強を教えに来るとは思えない。」
「今は、17歳です。一応言っておきますが妖精族ではありませんよ。人間です。ふふっ」
「は⁉」

なんだか疲れたのか頭がふわふわしてきた。
それにしても僕が妖精…。ふふっ、ありえないでしょ、僕を見て妖精って……。
笑っている僕と驚いている殿下。
その時の殿下の顔が今日一番おもしろくてますます笑ってしまった。



――

結局日が変わってしまった……。
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