66 / 102
ヘーゲルツ王立学園
実地訓練5
しおりを挟む
最初は殿下を焚火のそばに座らせ、自分は入り口に立って護衛をしようとした。しかし、殿下がフラフラの僕を戦力外だと思ったのか「お前も座れ」、とおっしゃった。
「すみません。」
それでも万が一魔獣が襲ってきたときのことを考え剣を左手でつかみながら座る。
「殿下、お怪我はありませんか?」
「あぁ。お前は…。」
「僕は大丈夫です。」
自分の体を見るとところどころ血がにじんでいるのがわかる。だけどどれもかすり傷だ。
「はぁ………」
殿下が無意識かわからないが溜息のようなものをつく。これは殿下の今のこの状況に対する感情だろうか。
「殿下、満足にお守りすることができなく、申し訳ありませんでした。」
「…いや、違う。俺はお前がいなかったら今頃あの怪物に食われていただろうからな。」
そこでずっと気になっていたことを思い出した。今なら聞ける。
「…そういえば、あのヒドラ、殿下ばかり狙っていたようにみえたのですが…」
「………あぁ。」
殿下もわからないというように言う。だけどどこか寂しげな諦めた表情をした殿下の顔をみて気づいた。
自分の命が狙われているということを殿下は知っていたのかもしれない、と。
確かにそう考えれば説明がつく。カーチェスが学園は危険といったことも、騎士科の生徒の異常な実力主義的思想も、このタイミングでの合成魔獣キメラの出現、対峙も。そして王太子争いとも関係があるのだろう。
いつから耐えていたのだろうか、この子は。
考えると胸が苦しくなり鼻がツンとしてくるので話題を変える。
「しかし、あのヒドラ相手に傷なしで生き残れるのは素晴らしいです。」
そうだ。あのヒドラ相手にわずか14歳の子供が生き残ったのだ。
「そうか。」
相変わらず殿下の顔は冷めている。それをじっと眺めているとあることに気が付いた。
どこかで見たことがあると思ったら僕の顔にそっくりなんだ。
昔の僕の顔に。
僕は最近この顔を見ていない。なぜなら自分がそんな顔をしなくなったからだ。そりゃあ僕の顔は見つめられたもんじゃないだろう。だけどこんな空虚な諦めきった顔はしていない。
僕を今のこの顔にしたのは、間違いなく彼だ。アレフガートさん。僕の大切な人。
それにこの世界にきてから僕に親切にしてくださった周りの皆。
この時の僕はどうかしていたのだろう。目の前の殿下の表情を、暗い眼を、なんとか変えたいと思った。
「殿下、友達はいますか?」
「は?」
突然の質問に殿下はいきなりなんだといった顔をした。しかしそれに構わず話し続ける。
「友達っていいものですよ。普通に会話をして、笑いあって、困ったときに助け合えるんです。別に友達でなくてもいいんですよ。兄弟でも婚約者でもなんでも、なんでもないくだらないことで笑いあえるそんな人。そんな人がいるだけで人生楽しいはずです。」
僕は楽しくなった。この世界に来るまで、自分でも何をしていたのかわからないまさに”空”の時間だった。だけどこの世界では友達ができた。頼れる仲間ができた。気になる人もできた。僕のせいでめちゃくちゃになってしまった縁もあるけれど、僕はそれでもここにいる、教師として。
殿下は僕の話を聞いて眉を潜めた。
「まぁ難しく考えないで下さい。」
やばい、頭がふわふわしてる。何言ってるのか自分でもよくわかっていない。だけど思ったままに言葉はするすると出て来た。
静寂が訪れる。放った竜巻の音がかすかに聞こえる。魔獣の気配はない。
「俺は、駄目だ。そんなもの、できない。」
「…え?」
「できない、といったんだ。」
できない、とはどういうことなのか。聞きたかったけれど僕が踏み込んでよい範囲なのか、唯聞かなくても大丈夫だと思ったのかわからないけれど、口が勝手に動いた。
「—大丈夫ですよ。僕でさえできたのだから。」
「……お前は、わかっていない。」
「そうですね…。僕はわかっていないのでしょう。」
「……。」
「だけど、僕は殿下のことを少しでも、1パーセントでもいいからわかりたいと思います。」
僕と似た殿下。
でも僕じゃない。殿下は愛される人だ。さっきの戦いでだって僕に迷惑をかけないように、といった行動をしていた。あれが自然と行動に出る人はすごい。
「………人間として何かが欠落している気がするんだ。死に対する恐怖とか」
「でも、謝れるじゃないですか。」
「…?」
「さっき、殿下の第一声が“すまない”だったこと、覚えてますか?ふふっ。それだけで、もう立派な人間だと思います。」
殿下の言葉を遮り僕がそういうと殿下は驚いた顔をした。
僕の顔を見つめて顔を赤くしたかのように見えたがすぐに殿下はあちらに顔を向けた。
「……そ、そういえばお前は…一体、何歳なんだ。教師だから20は超えていると思ったが外見から違うと思った。ならば妖精族かと思ったが、めったに姿を現さない妖精族がわざわざ人に勉強を教えに来るとは思えない。」
「今は、17歳です。一応言っておきますが妖精族ではありませんよ。人間です。ふふっ」
「は⁉」
なんだか疲れたのか頭がふわふわしてきた。
それにしても僕が妖精…。ふふっ、ありえないでしょ、僕を見て妖精って……。
笑っている僕と驚いている殿下。
その時の殿下の顔が今日一番おもしろくてますます笑ってしまった。
――
結局日が変わってしまった……。
「すみません。」
それでも万が一魔獣が襲ってきたときのことを考え剣を左手でつかみながら座る。
「殿下、お怪我はありませんか?」
「あぁ。お前は…。」
「僕は大丈夫です。」
自分の体を見るとところどころ血がにじんでいるのがわかる。だけどどれもかすり傷だ。
「はぁ………」
殿下が無意識かわからないが溜息のようなものをつく。これは殿下の今のこの状況に対する感情だろうか。
「殿下、満足にお守りすることができなく、申し訳ありませんでした。」
「…いや、違う。俺はお前がいなかったら今頃あの怪物に食われていただろうからな。」
そこでずっと気になっていたことを思い出した。今なら聞ける。
「…そういえば、あのヒドラ、殿下ばかり狙っていたようにみえたのですが…」
「………あぁ。」
殿下もわからないというように言う。だけどどこか寂しげな諦めた表情をした殿下の顔をみて気づいた。
自分の命が狙われているということを殿下は知っていたのかもしれない、と。
確かにそう考えれば説明がつく。カーチェスが学園は危険といったことも、騎士科の生徒の異常な実力主義的思想も、このタイミングでの合成魔獣キメラの出現、対峙も。そして王太子争いとも関係があるのだろう。
いつから耐えていたのだろうか、この子は。
考えると胸が苦しくなり鼻がツンとしてくるので話題を変える。
「しかし、あのヒドラ相手に傷なしで生き残れるのは素晴らしいです。」
そうだ。あのヒドラ相手にわずか14歳の子供が生き残ったのだ。
「そうか。」
相変わらず殿下の顔は冷めている。それをじっと眺めているとあることに気が付いた。
どこかで見たことがあると思ったら僕の顔にそっくりなんだ。
昔の僕の顔に。
僕は最近この顔を見ていない。なぜなら自分がそんな顔をしなくなったからだ。そりゃあ僕の顔は見つめられたもんじゃないだろう。だけどこんな空虚な諦めきった顔はしていない。
僕を今のこの顔にしたのは、間違いなく彼だ。アレフガートさん。僕の大切な人。
それにこの世界にきてから僕に親切にしてくださった周りの皆。
この時の僕はどうかしていたのだろう。目の前の殿下の表情を、暗い眼を、なんとか変えたいと思った。
「殿下、友達はいますか?」
「は?」
突然の質問に殿下はいきなりなんだといった顔をした。しかしそれに構わず話し続ける。
「友達っていいものですよ。普通に会話をして、笑いあって、困ったときに助け合えるんです。別に友達でなくてもいいんですよ。兄弟でも婚約者でもなんでも、なんでもないくだらないことで笑いあえるそんな人。そんな人がいるだけで人生楽しいはずです。」
僕は楽しくなった。この世界に来るまで、自分でも何をしていたのかわからないまさに”空”の時間だった。だけどこの世界では友達ができた。頼れる仲間ができた。気になる人もできた。僕のせいでめちゃくちゃになってしまった縁もあるけれど、僕はそれでもここにいる、教師として。
殿下は僕の話を聞いて眉を潜めた。
「まぁ難しく考えないで下さい。」
やばい、頭がふわふわしてる。何言ってるのか自分でもよくわかっていない。だけど思ったままに言葉はするすると出て来た。
静寂が訪れる。放った竜巻の音がかすかに聞こえる。魔獣の気配はない。
「俺は、駄目だ。そんなもの、できない。」
「…え?」
「できない、といったんだ。」
できない、とはどういうことなのか。聞きたかったけれど僕が踏み込んでよい範囲なのか、唯聞かなくても大丈夫だと思ったのかわからないけれど、口が勝手に動いた。
「—大丈夫ですよ。僕でさえできたのだから。」
「……お前は、わかっていない。」
「そうですね…。僕はわかっていないのでしょう。」
「……。」
「だけど、僕は殿下のことを少しでも、1パーセントでもいいからわかりたいと思います。」
僕と似た殿下。
でも僕じゃない。殿下は愛される人だ。さっきの戦いでだって僕に迷惑をかけないように、といった行動をしていた。あれが自然と行動に出る人はすごい。
「………人間として何かが欠落している気がするんだ。死に対する恐怖とか」
「でも、謝れるじゃないですか。」
「…?」
「さっき、殿下の第一声が“すまない”だったこと、覚えてますか?ふふっ。それだけで、もう立派な人間だと思います。」
殿下の言葉を遮り僕がそういうと殿下は驚いた顔をした。
僕の顔を見つめて顔を赤くしたかのように見えたがすぐに殿下はあちらに顔を向けた。
「……そ、そういえばお前は…一体、何歳なんだ。教師だから20は超えていると思ったが外見から違うと思った。ならば妖精族かと思ったが、めったに姿を現さない妖精族がわざわざ人に勉強を教えに来るとは思えない。」
「今は、17歳です。一応言っておきますが妖精族ではありませんよ。人間です。ふふっ」
「は⁉」
なんだか疲れたのか頭がふわふわしてきた。
それにしても僕が妖精…。ふふっ、ありえないでしょ、僕を見て妖精って……。
笑っている僕と驚いている殿下。
その時の殿下の顔が今日一番おもしろくてますます笑ってしまった。
――
結局日が変わってしまった……。
49
あなたにおすすめの小説
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?
銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。
王命を知られる訳にもいかず…
王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる?
※[小説家になろう]様にも掲載しています。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる