駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

事情聴取

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早朝、窓から差し込む朝日で目覚めた。
まだ寝ていたかったが事情聴取があるのでノロノロと身体を起こし、黒のズボンと白いワイシャツに着替える。そしてエメラルドのカラーストーンの入ったループタイをつけ、ローブを片手にとる。
意を決し鏡の前に立とうとすると、肩に何かがふわりと乗った。

「うわっびっくりしたぁ…」

昨日の黒い鳥だ。
その衝撃のおかげか鏡に映った自分の姿も一瞬吐き気を催したが意外とすんなりと受け入れられた。
あとは見苦しくないように寝ている間に癖のついた髪の毛を直すだけだ。
癖毛は癖毛だから毛先とか方向は直らずともいつも通りなので諦めだ。
部屋を出ようと鳥を肩から降ろす。今日も部屋にいたな、懐いてくれたのか?
もしかしたら群れからはぐれてしまったのかもしれない。どんな鳥種なのかわからないから群れる鳥なのかわからないがもしそうだとしたら可哀そうだ。
それにこんな僕を助けてくれた子だ。このままここにいてくれるようだったら使い魔だとか言えばドリトン先生も使い魔らしき猫がいたしどうにかなるはずだ。

そうして昨日すでに見られてるんだから大丈夫と唱えながら部屋を出、教頭先生の部屋へ向かい、深呼吸をしてから扉をノックする。

「失礼します」

そこにはすでに幾人かの騎士団員と教頭先生がいた。嬉しいことにカーチェスもいる。遅れたのかと思い部屋の水時計を確認すると大丈夫そうで安心する。教頭先生と騎士が僕に言った。

「早朝から呼び出して申し訳ありません。アサギリ先生。怪我の方は大分良いと聞いたのですがその後体調などいかがですか?」
「お気遣いありがとうございます。教頭先生。もうすっかり大丈夫です。」
「我々黒曜騎士団からは詫びと感謝を。救助に時間がかかった事、そして聴取がこのように性急となってしまった事、まことに申し訳ありません。」
「いえ、本当に大丈夫です。それより日々魔獣を討伐してくださっている黒曜騎士団の皆様には感謝してもしきれないです。」
「噂に聞いていた通りの方だ。改めてご協力、感謝する。」

噂に聞いていた、って何⁉だけど嫌な感じはしなかったから好意的なものとしてとらえていいのだろう。
それからはすぐに事情聴取が行われた。僕と教頭先生が座った向いに黒曜騎士団の人が二人座り後ろにカーチェスなど他の騎士が控えている形だ。僕が言うのは経緯はすでにギオツク先生やドリトン先生が話しておいてくださったらしいので主にヒドラとの戦闘についてだ。

「……見つけたキメラの背に剣を突き刺し、討伐できたかと思えばそれは10本首のヒドラになりました。変化中に生徒たちを非難させましたが生徒が一名逃げ遅れておりましたので…」
「ちょっと待ってください。キメラの背に突き刺して倒したのですか⁉」
「いえ、先ほど申し上げましたように他の教師が応戦中のところ飛び込む形だったので」
「いやっでも…いえ、なんでもないです。どうぞ続けてください。」
「…その後は、ヒドラが暴走し始めたので最初は剣で対処しました。しかしヒドラが紫色の炎を吐いたのと何より体力が限界に近づいていたので、風魔法で動きを封じました。あとはおそらく皆様が発見したものの通りかと。」
「えっあれって風…むぐっ」

書記をしている騎士から何度か突っ込みが入ったが、最終的には横に座る質問役の騎士に口を塞がれていておもしろかった。

「すみません。まだ新人で。」
「すみません!考えるよりも先に体が動いてしまう性質で…」
「いえ、僕こそ慣れていなくてたどたどしい説明で申し訳ありません。」

それからその騎士が言っていることをまとめると今回のを普通の魔獣の事件として扱うという事だった。表沙汰にしたくないのだろう。ということはやはり王太子争いに関連しているのだろうか。
少しもやもやを抱えながらも聴取は無事終わり、騎士たちは退出していった。
二人になると突然教頭先生が僕の手を握りながら深く頭を下げてきた。

「教頭としてアサギリ先生には感謝しています。大事な生徒を救ってくださって、ありがとう。」
「いえ、当然のことをしたまでです。それに最後は気を失ってしまいましたし。」
「いいえ、生物教師として雇ったというのにこんなことに巻き込んでしまった。何か体に不調があればすぐに私に言ってくださいね。それと授業時間も変更可能ですので構わず言ってください。」
「あっありがとうございます。」

そもそも僕が付いていきたいといったのに謝られてしまう。身から出た錆とはこのことだ。
教頭先生の部屋から出るとカーチェスが待ち構えていた。

「カーチェス」
「お前!大丈夫なのかよ!」

僕をみるなり肩をつかみ、食い気味に聞いてくる。どうやら心配をかけたようだ。

「全然大丈夫だよ。魔力の枯渇でちょっと寝ちゃっただけ」
「ったくよ、お前が魔力枯渇になるって相当だろ。」
「あははっ僕の魔力を買いかぶりすぎだよ。」
「だってあのシヅルが剣で戦うの止めてあの馬鹿でかい旋風だろ………」

話しながら授業中の人気のない廊下をしばらく歩いてカーチェスが言った。

「前髪、切ったんだな。」
「あぁうん。実はヒドラと闘ってるときにヘマをしちゃって焼けたんだ。変?」

動揺が悟られぬように僕のありったけの演技力でなんでもないことのように言う。

「いや、その方が良く眼が見えていい。めっちゃ似合ってる。つーか焼けたって大丈夫なのかよ」
「うん、ローブが少し焼けただけだから。」
「ならいいけどよ」
「というかカーチェス凄い目立ってたね。一人だけ赤の騎士服だったから」
「はぁ?そこは俺がかっこいいからだろ」

やっぱりカーチェスといると楽しい。
しかしすぐにカーチェスを探すほかの騎士に回収された。やっぱり無理を言って来てくれたんだろう。
一人だけ魔獣のことについては管轄外の赤燐騎士団の隊服着てるなんておかしかったからな。
申し訳ないと思う反面嬉しくなった。



寮に戻りベッドに身体を鎮める。
誰も僕の姿を笑わなかった。顔を顰めなかった。醜いと言わなかった。
僕がこの世界に来て変わったからか、今日会った彼らが他人に優しい人間だからか、僕に優しい人間だからか、なんでもいい。形が気持ち悪いと言われていた僕の奥二重の眼をみて嫌悪感を顔に示さなかった、なによりもこの事実が僕を少し元気にさせた。

「ねぇ、誰も笑わなかったんだ、僕の眼を」

いつの間にか僕の顔の横に座っている鳥に言った。すると僕の言葉がわかっているかのように頬ずりをしてきた。
かわいいな。あっそうだ、この子が何の鳥か調べなきゃ。

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