駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

再警戒

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結局武道会に関する会議は次の朝まで続いた。
教頭先生によると毎年こんな感じで、それぞれが頃合いを見て仮眠を取っているようだ。
職員室の天井にハンモックがある理由も今なら頷ける。あそこで睡眠をとる先生がいるのだろう。
しかし僕は他の多くの先生と違い、生物・魔獣学を騎士科にしか教えていないので僕にできることがあれば積極的にやらせて頂いている。

そんな中、夜寮部屋の机の上でスケジュールを立てていると、部屋に何度か見たあの靄が現れ、思わぬ客がきた。

「久しぶりだな。番殿。いや、今はどう呼べばいいんだ?」
「そんなことを私に聞かないで下さい、殿下。」

第二王子殿下だ。隣にはレナードさんがいる。
立ち上がり礼の姿勢をとる。
しかしすぐに崩すよう指示が入った。

「お久しぶりです。何かあったのですか?」
「いや、特に大きな事件はない。こちらは万事好調だ。そちらはもう少しで武道会か?」
「はい。」
「そうか、おいレナード、先に話せ。話があるのだろう。」
「えぇ、まぁ。」

久しぶりに出会ったレナードさんは何処か思い詰めたような表情でぼくに聞いた。

「シヅル君、最近何か変わったことはありませんか?特に対人関係など。急に近づいてきた人がいるとか。」
「え?」

そんな人はいない。
最近確かに色んな先生と話すようになったが、それは武道会についてだしよく話すという訳でもない。
だけど、こう聞いてくるってことはもしかしてすでに教師として潜り込んでいる敵がいて、僕の存在を把握している人がいるかもしれない…っていうことか?
それなら大変だ。

「特に心当たりはありませんけど…。」
「もう人間じゃなくても動物でも植物でもなんでもいいんです。」
「あぁそういえば黒い鳥に懐かれました。」

僕がそういった瞬間、殿下とレナードさんが少し表情をかえた。

「そ、それで、危険なことはありませんでしたか?」
「え?ありませんよ。」
「そうですか…」

この二人、絶対何かを隠している。
やっぱりこの学園に第二王子殿下派の敵が、もしくは生徒たちに危害を加える敵がいるのだろう。

「あの、何かお役に立てることがあるのなら教えてください。」
「シヅル君がここにいてくださるだけで、十分助けて頂いています。」
「そうだ。聞けば、ひとりであのヒドラを退治したのだろう?番殿がここにいるだけで大方生徒の安全は確保されている。」
「えぇ。ですから、シヅル君にはこのままここで教師をお願いします。それと、もし何かありましたらすぐ力になりますので危ないと思ったらお願いですから逃げて下さいね。」
「…はい。ありがとうございます。」

結局濁らされてしまった。
それだけ信用がないということなのだろうか。
何処か寂しいような納得できないような感じがした。

「まぁその件はひとまず置いておこう。いずれ分かることだ。それよりも武道会だ。聞いているとは思うが武道会は不特定多数の民が学園に入ってくる。学園に侵入するには絶好の機会だ。その前にケリをつけられるようこちらでも調整はしてみる。が、あまり期待しないでくれ。」

「わかりました。そうですね。武道会では僕も多めに警備の役割を回してもらおうと思っています。」
「そうか。あまり無理をせずにな。生命の危険を感じたらすぐに自分の身を守り逃げること。我々にとっても番殿の命が今は一番と言っていいほど大事だからな。」
「?どういうことですか?」
「い、いや、なんでもない。」

第二王子殿下にしては珍しくしどろもどろといった様子だ。
怪しい、が、僕が死ぬと何か不都合があるようなことを言っていた。
もしかしてだけど、可能性はひくいけれど、アレフガートさんが僕のことをまだ番として大切に思ってくれていたりしているのか…?だから僕が死ぬとまずい、っていうことか?
いや、ないない。
一瞬あまりに突飛な望みが脳内をかすめた。
あんな別れ方をしたのにそんなことを思ってもらえるなんて自己中心的すぎるだろ、僕。
きっと疲れてるんだ。早く寝て明日に備えよう。

「わかりました。武道会では誰の命も失われることのないよう、全力を尽くします。殿下も、レナードさんも、お気をつけて。」
「えぇ。もちろんですよ、シヅル君。ありがとうございます。」
「あぁ。」

そう言うとレナードさんが紙切れを出して魔術を構築し始めた。恐らく帰える用の靄を出そうとしているのだろう。
その間に殿下がすっと僕のそばに寄ってきた。

「番殿、弟の件に関しては感謝の言葉しかない。弟があの状況から生還できたのは番殿がいたからこそだ。このような複雑化した状況でなけば大体的に礼をしていたのだが。」

第二王子殿下がジルのことをいかに大切に思っているのかがわかる。顔が違うのだ。

「いいえ、僕は何もしていませんよ。」

僕がそういうと「そんな訳ないだろう」と笑いながら言ってレナードさんとともに去っていった。




二人がいなくなると部屋の静かさが際立つ。
武道会が危ない。わざわざ伝えてくるってことはほぼ確かな情報だ。

「僕にできるかなぁ」

クロに言う。そうそう、あれからも僕のところに来てくれるあの鳥を勝手に「クロ」と名付けたのだ。
安直すぎるかと思ったけれど拒否されるようでもないし僕も案外気に入っている。
僕がそういうとまるで猫のように頭に羽ごと押し付けてくる。
撫でてやると気持ちよさそうに眼を細める。まるで人間みたいだ。

しばらくそうしていたが、ふと録音機のことを思いだし引き出しの中から出し見つめる。
アレフガートさんのお屋敷から無断で出て来る時に手伝ってくれた人たちにもらったものだ。
もらったというのに、未だにメッセージを吹き込んでいない。
やっぱりあの時すぐに何かしら謝罪メッセージを送っておくべきだったんだ。

「ん?どうした?気になるの?」

クロは録音機が気になるようで僕をツンツンと突っついてくる。

「これはねぇ、録音機だよ。言伝を吹き込んでその人のところに届けるとその人は音声を吹き込んだ人の声が聴けるんだ。おもしろいよねぇ。」

しかし聞きたいのはそれじゃない、というように僕をまずます突っつく。
痛くないけれどくすぐったくて笑ってしまう。
だけどもう寝なければ。
クロとのじゃれあいもそこそこに僕は床についた。


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