77 / 102
ヘーゲルツ王立学園
再警戒
しおりを挟む
結局武道会に関する会議は次の朝まで続いた。
教頭先生によると毎年こんな感じで、それぞれが頃合いを見て仮眠を取っているようだ。
職員室の天井にハンモックがある理由も今なら頷ける。あそこで睡眠をとる先生がいるのだろう。
しかし僕は他の多くの先生と違い、生物・魔獣学を騎士科にしか教えていないので僕にできることがあれば積極的にやらせて頂いている。
そんな中、夜寮部屋の机の上でスケジュールを立てていると、部屋に何度か見たあの靄が現れ、思わぬ客がきた。
「久しぶりだな。番殿。いや、今はどう呼べばいいんだ?」
「そんなことを私に聞かないで下さい、殿下。」
第二王子殿下だ。隣にはレナードさんがいる。
立ち上がり礼の姿勢をとる。
しかしすぐに崩すよう指示が入った。
「お久しぶりです。何かあったのですか?」
「いや、特に大きな事件はない。こちらは万事好調だ。そちらはもう少しで武道会か?」
「はい。」
「そうか、おいレナード、先に話せ。話があるのだろう。」
「えぇ、まぁ。」
久しぶりに出会ったレナードさんは何処か思い詰めたような表情でぼくに聞いた。
「シヅル君、最近何か変わったことはありませんか?特に対人関係など。急に近づいてきた人がいるとか。」
「え?」
そんな人はいない。
最近確かに色んな先生と話すようになったが、それは武道会についてだしよく話すという訳でもない。
だけど、こう聞いてくるってことはもしかしてすでに教師として潜り込んでいる敵がいて、僕の存在を把握している人がいるかもしれない…っていうことか?
それなら大変だ。
「特に心当たりはありませんけど…。」
「もう人間じゃなくても動物でも植物でもなんでもいいんです。」
「あぁそういえば黒い鳥に懐かれました。」
僕がそういった瞬間、殿下とレナードさんが少し表情をかえた。
「そ、それで、危険なことはありませんでしたか?」
「え?ありませんよ。」
「そうですか…」
この二人、絶対何かを隠している。
やっぱりこの学園に第二王子殿下派の敵が、もしくは生徒たちに危害を加える敵がいるのだろう。
「あの、何かお役に立てることがあるのなら教えてください。」
「シヅル君がここにいてくださるだけで、十分助けて頂いています。」
「そうだ。聞けば、ひとりであのヒドラを退治したのだろう?番殿がここにいるだけで大方生徒の安全は確保されている。」
「えぇ。ですから、シヅル君にはこのままここで教師をお願いします。それと、もし何かありましたらすぐ力になりますので危ないと思ったらお願いですから逃げて下さいね。」
「…はい。ありがとうございます。」
結局濁らされてしまった。
それだけ信用がないということなのだろうか。
何処か寂しいような納得できないような感じがした。
「まぁその件はひとまず置いておこう。いずれ分かることだ。それよりも武道会だ。聞いているとは思うが武道会は不特定多数の民が学園に入ってくる。学園に侵入するには絶好の機会だ。その前にケリをつけられるようこちらでも調整はしてみる。が、あまり期待しないでくれ。」
「わかりました。そうですね。武道会では僕も多めに警備の役割を回してもらおうと思っています。」
「そうか。あまり無理をせずにな。生命の危険を感じたらすぐに自分の身を守り逃げること。我々にとっても番殿の命が今は一番と言っていいほど大事だからな。」
「?どういうことですか?」
「い、いや、なんでもない。」
第二王子殿下にしては珍しくしどろもどろといった様子だ。
怪しい、が、僕が死ぬと何か不都合があるようなことを言っていた。
もしかしてだけど、可能性はひくいけれど、アレフガートさんが僕のことをまだ番として大切に思ってくれていたりしているのか…?だから僕が死ぬとまずい、っていうことか?
いや、ないない。
一瞬あまりに突飛な望みが脳内をかすめた。
あんな別れ方をしたのにそんなことを思ってもらえるなんて自己中心的すぎるだろ、僕。
きっと疲れてるんだ。早く寝て明日に備えよう。
「わかりました。武道会では誰の命も失われることのないよう、全力を尽くします。殿下も、レナードさんも、お気をつけて。」
「えぇ。もちろんですよ、シヅル君。ありがとうございます。」
「あぁ。」
そう言うとレナードさんが紙切れを出して魔術を構築し始めた。恐らく帰える用の靄を出そうとしているのだろう。
その間に殿下がすっと僕のそばに寄ってきた。
「番殿、弟の件に関しては感謝の言葉しかない。弟があの状況から生還できたのは番殿がいたからこそだ。このような複雑化した状況でなけば大体的に礼をしていたのだが。」
第二王子殿下がジルのことをいかに大切に思っているのかがわかる。顔が違うのだ。
「いいえ、僕は何もしていませんよ。」
僕がそういうと「そんな訳ないだろう」と笑いながら言ってレナードさんとともに去っていった。
二人がいなくなると部屋の静かさが際立つ。
武道会が危ない。わざわざ伝えてくるってことはほぼ確かな情報だ。
「僕にできるかなぁ」
クロに言う。そうそう、あれからも僕のところに来てくれるあの鳥を勝手に「クロ」と名付けたのだ。
安直すぎるかと思ったけれど拒否されるようでもないし僕も案外気に入っている。
僕がそういうとまるで猫のように頭に羽ごと押し付けてくる。
撫でてやると気持ちよさそうに眼を細める。まるで人間みたいだ。
しばらくそうしていたが、ふと録音機のことを思いだし引き出しの中から出し見つめる。
アレフガートさんのお屋敷から無断で出て来る時に手伝ってくれた人たちにもらったものだ。
もらったというのに、未だにメッセージを吹き込んでいない。
やっぱりあの時すぐに何かしら謝罪メッセージを送っておくべきだったんだ。
「ん?どうした?気になるの?」
クロは録音機が気になるようで僕をツンツンと突っついてくる。
「これはねぇ、録音機だよ。言伝を吹き込んでその人のところに届けるとその人は音声を吹き込んだ人の声が聴けるんだ。おもしろいよねぇ。」
しかし聞きたいのはそれじゃない、というように僕をまずます突っつく。
痛くないけれどくすぐったくて笑ってしまう。
だけどもう寝なければ。
クロとのじゃれあいもそこそこに僕は床についた。
教頭先生によると毎年こんな感じで、それぞれが頃合いを見て仮眠を取っているようだ。
職員室の天井にハンモックがある理由も今なら頷ける。あそこで睡眠をとる先生がいるのだろう。
しかし僕は他の多くの先生と違い、生物・魔獣学を騎士科にしか教えていないので僕にできることがあれば積極的にやらせて頂いている。
そんな中、夜寮部屋の机の上でスケジュールを立てていると、部屋に何度か見たあの靄が現れ、思わぬ客がきた。
「久しぶりだな。番殿。いや、今はどう呼べばいいんだ?」
「そんなことを私に聞かないで下さい、殿下。」
第二王子殿下だ。隣にはレナードさんがいる。
立ち上がり礼の姿勢をとる。
しかしすぐに崩すよう指示が入った。
「お久しぶりです。何かあったのですか?」
「いや、特に大きな事件はない。こちらは万事好調だ。そちらはもう少しで武道会か?」
「はい。」
「そうか、おいレナード、先に話せ。話があるのだろう。」
「えぇ、まぁ。」
久しぶりに出会ったレナードさんは何処か思い詰めたような表情でぼくに聞いた。
「シヅル君、最近何か変わったことはありませんか?特に対人関係など。急に近づいてきた人がいるとか。」
「え?」
そんな人はいない。
最近確かに色んな先生と話すようになったが、それは武道会についてだしよく話すという訳でもない。
だけど、こう聞いてくるってことはもしかしてすでに教師として潜り込んでいる敵がいて、僕の存在を把握している人がいるかもしれない…っていうことか?
それなら大変だ。
「特に心当たりはありませんけど…。」
「もう人間じゃなくても動物でも植物でもなんでもいいんです。」
「あぁそういえば黒い鳥に懐かれました。」
僕がそういった瞬間、殿下とレナードさんが少し表情をかえた。
「そ、それで、危険なことはありませんでしたか?」
「え?ありませんよ。」
「そうですか…」
この二人、絶対何かを隠している。
やっぱりこの学園に第二王子殿下派の敵が、もしくは生徒たちに危害を加える敵がいるのだろう。
「あの、何かお役に立てることがあるのなら教えてください。」
「シヅル君がここにいてくださるだけで、十分助けて頂いています。」
「そうだ。聞けば、ひとりであのヒドラを退治したのだろう?番殿がここにいるだけで大方生徒の安全は確保されている。」
「えぇ。ですから、シヅル君にはこのままここで教師をお願いします。それと、もし何かありましたらすぐ力になりますので危ないと思ったらお願いですから逃げて下さいね。」
「…はい。ありがとうございます。」
結局濁らされてしまった。
それだけ信用がないということなのだろうか。
何処か寂しいような納得できないような感じがした。
「まぁその件はひとまず置いておこう。いずれ分かることだ。それよりも武道会だ。聞いているとは思うが武道会は不特定多数の民が学園に入ってくる。学園に侵入するには絶好の機会だ。その前にケリをつけられるようこちらでも調整はしてみる。が、あまり期待しないでくれ。」
「わかりました。そうですね。武道会では僕も多めに警備の役割を回してもらおうと思っています。」
「そうか。あまり無理をせずにな。生命の危険を感じたらすぐに自分の身を守り逃げること。我々にとっても番殿の命が今は一番と言っていいほど大事だからな。」
「?どういうことですか?」
「い、いや、なんでもない。」
第二王子殿下にしては珍しくしどろもどろといった様子だ。
怪しい、が、僕が死ぬと何か不都合があるようなことを言っていた。
もしかしてだけど、可能性はひくいけれど、アレフガートさんが僕のことをまだ番として大切に思ってくれていたりしているのか…?だから僕が死ぬとまずい、っていうことか?
いや、ないない。
一瞬あまりに突飛な望みが脳内をかすめた。
あんな別れ方をしたのにそんなことを思ってもらえるなんて自己中心的すぎるだろ、僕。
きっと疲れてるんだ。早く寝て明日に備えよう。
「わかりました。武道会では誰の命も失われることのないよう、全力を尽くします。殿下も、レナードさんも、お気をつけて。」
「えぇ。もちろんですよ、シヅル君。ありがとうございます。」
「あぁ。」
そう言うとレナードさんが紙切れを出して魔術を構築し始めた。恐らく帰える用の靄を出そうとしているのだろう。
その間に殿下がすっと僕のそばに寄ってきた。
「番殿、弟の件に関しては感謝の言葉しかない。弟があの状況から生還できたのは番殿がいたからこそだ。このような複雑化した状況でなけば大体的に礼をしていたのだが。」
第二王子殿下がジルのことをいかに大切に思っているのかがわかる。顔が違うのだ。
「いいえ、僕は何もしていませんよ。」
僕がそういうと「そんな訳ないだろう」と笑いながら言ってレナードさんとともに去っていった。
二人がいなくなると部屋の静かさが際立つ。
武道会が危ない。わざわざ伝えてくるってことはほぼ確かな情報だ。
「僕にできるかなぁ」
クロに言う。そうそう、あれからも僕のところに来てくれるあの鳥を勝手に「クロ」と名付けたのだ。
安直すぎるかと思ったけれど拒否されるようでもないし僕も案外気に入っている。
僕がそういうとまるで猫のように頭に羽ごと押し付けてくる。
撫でてやると気持ちよさそうに眼を細める。まるで人間みたいだ。
しばらくそうしていたが、ふと録音機のことを思いだし引き出しの中から出し見つめる。
アレフガートさんのお屋敷から無断で出て来る時に手伝ってくれた人たちにもらったものだ。
もらったというのに、未だにメッセージを吹き込んでいない。
やっぱりあの時すぐに何かしら謝罪メッセージを送っておくべきだったんだ。
「ん?どうした?気になるの?」
クロは録音機が気になるようで僕をツンツンと突っついてくる。
「これはねぇ、録音機だよ。言伝を吹き込んでその人のところに届けるとその人は音声を吹き込んだ人の声が聴けるんだ。おもしろいよねぇ。」
しかし聞きたいのはそれじゃない、というように僕をまずます突っつく。
痛くないけれどくすぐったくて笑ってしまう。
だけどもう寝なければ。
クロとのじゃれあいもそこそこに僕は床についた。
17
あなたにおすすめの小説
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?
銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。
王命を知られる訳にもいかず…
王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる?
※[小説家になろう]様にも掲載しています。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる