9 / 19
9.ままならない世の中
おじさんが目頭を押さえてうつむいた。疲れ目かしら。
「あの?」
「……すまん。我が妹ながらあまりにも情けなくて涙が……。いや、本当に申し訳ない」
あらら。涙が出ちゃったの?
そうねぇ、分かるわ。だって、私もバネッサの粗相を発見すると泣きたくなるもの。それが雨の日だったときの悲しさ! せめておねしょは晴れの日にして! と思うから。
あ、お母さんたちのやらかしとおねしょを一緒にしたらいけなかったかも?
「……ああ。いつまでもこんな外で話すべきではないな。まずは中に入ろう」
「えっ、いいんですか?」
やった! これでおじいちゃんにも会えるかも!
「ところで、彼は?」
ようやくおじさんも落ち着いたのか、レイさんのことが気になったらしい。
でも、どうしてそんな顔をするの? 不審そうに見ないで!
「レイさんはひったくりに奪われたカバンを取り返してくれたんです!」
「……ほう?」
「本当に本当で! せっかく髪を売ってお金にしたのに、もうちょっとで全部盗られるところだったんですよ⁉」
「は⁉」
ね? 酷いわよね? もう売るものなんか他にないのに! もう少しで路頭に迷うところだった。
「おい、フィリシア。その髪、本当にお金のために売ったのか?」
あれ? そっちに驚いているの? そういえばレイさんにも言ってなかったっけ。
「え、そうだよ? だって、王都までの馬車代がなかったから」
お父さんに言っても絶対にそんな大金は出せないって言われるもの。お小遣いのない私には、それ以外に方法がなかったのだから致し方ない。
「でもね、金髪は高く売れるのよ? ちょっとパサついていたから値が下がったけど、それでも」
「…………あのボンクラ共が」
私の髪がいかに高値がついたのかを自慢しようと思ったのに、おじさんから冷気が感じられそうなくらい低~い呪詛のような言葉が聞こえた。
「おじさん?」
「……分かった。叱ってやろう。この私が徹底的に叱ってやるともっ‼」
「本当に⁉」
やったわ、グレース! 心強い味方を手に入れましたっ‼
思わずぴょんっと跳ねてしまう。だって、それくらい嬉しいんだもの。
「よかったな」
レイさんがまたぽんっと頭を撫でてくれた。うふふっ、今度はちゃんと喜べるわ。
「ありがと。レイさんのおかげよ」
「まさか。お前が頑張ったからだろ」
確かに頑張った。でも、私だけだったらきっと今でも町中をさまよっていたと思う。
「ううん。絶対の絶対にレイさんのおかげ!」
レイさんの手を取って、ぶんぶんと振る。
「何やってんだか」
そう言いながらも笑ってくれた。優しい笑顔だ。
「ああ、君。その……レイと言ったか。先程は不躾に見てすまなかった」
「いえ。気にしないでください」
「君の家はどこかな。馬車で送らせよう」
「……え?」
そっか。レイさんにはレイさんの家がある。帰るのは当たり前のことなのに。
「大丈夫です。歩いて帰れますから」
「うそ、だって馬車できたのに!」
「平気平気。男だからな」
どうして? なんでそんなことを言うの?
「平気じゃないよ? 男の子だって大変なものは大変だわ。私だってお姉ちゃんだけど大変なものは大変だったもの!」
それと同じことでしょう?
思わずレイさんの手をぎゅっと握る。すると、彼が困ったような顔になってしまう。
そして一つ、ため息を吐いた。……私がわがままを言っているから?
彼に無理してほしくない。でも、嫌われるのも悲しい。どうしたら……。
「あ~~……。だからさ、言っただろ? 俺は異国の血が混ざってるって」
「……うん」
「この国ではそういうのは嫌われるんだ。だから、俺はスラムに住んでる。そんなところにお貴族様の馬車でなんて帰れないから。気持ちだけもらっとくな」
そう言ってレイさんがニカッと笑うから。私はボロボロと涙が溢れてしまったのだ。
「あの?」
「……すまん。我が妹ながらあまりにも情けなくて涙が……。いや、本当に申し訳ない」
あらら。涙が出ちゃったの?
そうねぇ、分かるわ。だって、私もバネッサの粗相を発見すると泣きたくなるもの。それが雨の日だったときの悲しさ! せめておねしょは晴れの日にして! と思うから。
あ、お母さんたちのやらかしとおねしょを一緒にしたらいけなかったかも?
「……ああ。いつまでもこんな外で話すべきではないな。まずは中に入ろう」
「えっ、いいんですか?」
やった! これでおじいちゃんにも会えるかも!
「ところで、彼は?」
ようやくおじさんも落ち着いたのか、レイさんのことが気になったらしい。
でも、どうしてそんな顔をするの? 不審そうに見ないで!
「レイさんはひったくりに奪われたカバンを取り返してくれたんです!」
「……ほう?」
「本当に本当で! せっかく髪を売ってお金にしたのに、もうちょっとで全部盗られるところだったんですよ⁉」
「は⁉」
ね? 酷いわよね? もう売るものなんか他にないのに! もう少しで路頭に迷うところだった。
「おい、フィリシア。その髪、本当にお金のために売ったのか?」
あれ? そっちに驚いているの? そういえばレイさんにも言ってなかったっけ。
「え、そうだよ? だって、王都までの馬車代がなかったから」
お父さんに言っても絶対にそんな大金は出せないって言われるもの。お小遣いのない私には、それ以外に方法がなかったのだから致し方ない。
「でもね、金髪は高く売れるのよ? ちょっとパサついていたから値が下がったけど、それでも」
「…………あのボンクラ共が」
私の髪がいかに高値がついたのかを自慢しようと思ったのに、おじさんから冷気が感じられそうなくらい低~い呪詛のような言葉が聞こえた。
「おじさん?」
「……分かった。叱ってやろう。この私が徹底的に叱ってやるともっ‼」
「本当に⁉」
やったわ、グレース! 心強い味方を手に入れましたっ‼
思わずぴょんっと跳ねてしまう。だって、それくらい嬉しいんだもの。
「よかったな」
レイさんがまたぽんっと頭を撫でてくれた。うふふっ、今度はちゃんと喜べるわ。
「ありがと。レイさんのおかげよ」
「まさか。お前が頑張ったからだろ」
確かに頑張った。でも、私だけだったらきっと今でも町中をさまよっていたと思う。
「ううん。絶対の絶対にレイさんのおかげ!」
レイさんの手を取って、ぶんぶんと振る。
「何やってんだか」
そう言いながらも笑ってくれた。優しい笑顔だ。
「ああ、君。その……レイと言ったか。先程は不躾に見てすまなかった」
「いえ。気にしないでください」
「君の家はどこかな。馬車で送らせよう」
「……え?」
そっか。レイさんにはレイさんの家がある。帰るのは当たり前のことなのに。
「大丈夫です。歩いて帰れますから」
「うそ、だって馬車できたのに!」
「平気平気。男だからな」
どうして? なんでそんなことを言うの?
「平気じゃないよ? 男の子だって大変なものは大変だわ。私だってお姉ちゃんだけど大変なものは大変だったもの!」
それと同じことでしょう?
思わずレイさんの手をぎゅっと握る。すると、彼が困ったような顔になってしまう。
そして一つ、ため息を吐いた。……私がわがままを言っているから?
彼に無理してほしくない。でも、嫌われるのも悲しい。どうしたら……。
「あ~~……。だからさ、言っただろ? 俺は異国の血が混ざってるって」
「……うん」
「この国ではそういうのは嫌われるんだ。だから、俺はスラムに住んでる。そんなところにお貴族様の馬車でなんて帰れないから。気持ちだけもらっとくな」
そう言ってレイさんがニカッと笑うから。私はボロボロと涙が溢れてしまったのだ。
あなたにおすすめの小説
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
妹に何度も婚約者を奪われましたので、神様の花嫁(修道女)になります。
ニノ
恋愛
伯爵令嬢であるシャーリーンの婚約者はいつでも妹のマデリーンに奪われてしまう。容姿、性格、爵位、年齢……新しく婚約する相手のステータスがどんなに違えども、マデリーンは「運命の恋に落ちてしまったのです」の一言でシャーリーンから婚約者を奪ってしまうのだ。
沢山の運命の恋に落ちる妹にも、直ぐに心変わりをする婚約者にも、面白おかしく自分達の噂をする貴族社会にもいい加減うんざりしたシャーリーンは思い立つ。
「そうだ!神様の花嫁になればもう妹に婚約者を奪われることはないんだわ!!」
※小説家になろう様でも投稿しております。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
【感謝】
第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。
ありがとうございます。