愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う

ましろ

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12.読まれない手紙

 マチルダさんに案内されて、とうとう食堂についてしまった。
 待って、心の準備を! と言う前に、あっさりと扉が開けられる。

「さあ、お嬢様。どうぞ中へお入りください」

 マチルダさんは優しそうに見えて案外笑顔でゴリ押すタイプのようだ。私の躊躇などなかったかのように背中を押される。

 一歩中へ入る。そこには……。

 あれ? 人数が多くない? もしかして、おじさんの言っていた人達全員集まっているの?
 おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん、おじさんの息子さんと娘さん、総勢六人の視線が私に集中する。
 でも、レイさんはいない。ようするに私の味方はゼロだ。

「フィリシア、すまん。いっぺんに紹介したほうが早いかと思ってな」

 おじさんが少し申し訳なさそうに言った。
 でも、そうね。お家にお邪魔したのだから、皆さんにちゃんとご挨拶しなくては!

「はじめまして、ソフィアお母さんの長女でフィリシアといいます。こんな時間に来てしまってすみませんでした。素敵なお部屋を貸してくれてありがとうございます」

 貴族の正しい挨拶は分からない。でも、心を込めて言えば大丈夫なはず! 声が震えないように、笑顔で、でも、早くなりすぎないようにと気をつけて、感謝の気持ちを伝えた。
 でも、おじいちゃんは怒っているのかな。眉間にぎゅっと力を入れ、お口もムンッ! とへの字口だわ。
 そろそろお年だからもう寝る時間だったのかも。申し訳ないことをしてしまった。
 どうしよう。もう、休んでくださいと言うべきか。
 そんなことをつらつらと考えていると。

「……なんだ、そのみっともない髪は」

 おじいちゃんの言葉に、頭の中が真っ白になる。

「父上っ!」
「お前はソフィアと同じで考えなしなのか。そんな行き当たりばったりな行動を取らずとも、まずは手紙を送ればよかったであろう」

 おじいちゃんの言葉に、私の今日一日の行動が酷く愚かだと思えた。
 分かってる。分かっていたじゃない。おじさん達が優しかったから、つい、気が緩んでしまった。
 ……手紙。何となく思考が止まりかけた頭に、ポツンとその単語だけ残る。

「……だって、読まないでしょ」

 ポロッと言葉がこぼれた。
 あ、敬語……。でも、本当の気持ちだし、嫌われているならもういいかな。

「なんだと?」
「だって、ずっと探さなかったでしょ。それなのに、そんなお母さんの娘からの手紙が届いたって絶対に読まないよね? だから来たの」

 視線は外さない。嫌われているのは知ってる。それでも来たの。分かっているけど来たんだよ。

「でも、あなたはお母さんのお父さんだよ。まだ教育の義務があるうちに放っちゃった、二つ隣の町なのに探さなかったお父さん」

 お母さんが家を出たのは十六歳の成人を迎える一ヶ月前。成人とともに発表される婚約から逃げたのだ。

「だから、残りのひと月分だけでいいです。ちゃんとお母さんを叱って。もう、大人になるのだからって。いつまでも子どもでいるなって叱って。お嫁に出すときに伝えるはずだった言葉をちゃんと伝えてください!」

 お向かいのおばちゃんが言っていた。
 あの子はちゃんと両親とお別れができていないかもしれないねって。
 どこまでもわがままを言って逃げ出した女の子のまま。
 だから、いつまでも娘気分が抜けない甘ったれなのさと笑っていたから。

「孫の私に口を出す前に、まずは娘への言葉を言って……」

 そこで止まってしまった。だって、おじいちゃんが傷ついているのが分かったから。
 ぎゅっと口をつぐみ、目を逸らす。

 ……だめだ。こんなはずじゃなかったのに。こんな、意地悪な言い方したくなかったのに。本当はもっと──

 かたりと音がした。コツコツと歩く音が近づいてくるけど、顔を上げられない。だって、少しでも動くと涙がこぼれそう。

「フィリシアさん」

 優しい声。でも、それでも動けない私を、その人が優しく抱きしめてくれた。

「ごめんなさいね、あなたにここまで言わせてしまって」

 背中をそっと撫でられる。まるで大丈夫だと慰めるように。

「いくつになっても素直になれない、プライドばかり山のように高い、困ったおじいちゃんで本当に申し訳ないわ」
「おいっ!」
「おだまりなさい。どうして心配したのだと素直に言えないのですか」

 ……心配? ……えっと、この人はおばあちゃん、だよね?
 おそるおそる顔を上げると、目があった。

「いらっしゃい、フィリシア。会えてうれしいわ、私のことはおばあちゃまと呼んでくれる?」

 おばあちゃま? ……ちゃま? ん?




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