上 下
3 / 33

3. 初めての二人の朝 (2回戦・ドロー)

しおりを挟む
「おい、アリーチェ。いい加減起きてくれ」
「……へ?」


せっかくぬくぬくと気持ちよく寝ていたのに起こされてしまった。もう誰よ……


「おはよう。そろそろ離してくれないか」


……離す……何を……


「あれ、エミディオ様?」


ぎゃ!なんでこんなにくっついてるの?!


「私襲われてる?」
「違うから。襲ったのは君だ」


確かに。どうやら私が抱きついていたらしい。しっかりと彼に腕を回しているではないか。ぬくぬくの正体がまさかのエミディオ様だとは……


コンコンコン


「旦那様、お目覚めでしょうか」
「あぁ、入ってくれ」


え、なんで?


「失礼致します。洗顔用のお湯を持ってきましたが、お風呂を準備した方がよろしかったですか?」
「そうだな、そうしてもらおう。入浴後に軽い食事を準備してくれ」
「かしこまりました」


私がエミディオ様にくっついたまま固まっていると、侍女さんと目が合う。微笑ましそうにニッコリとされてしまった。


「奥様、お食事は召し上がれそうですか?」


え、どういう意味?


「そうだな、とりあえずはフルーツを用意してやってくれ」
「かしこまりました。お風呂の支度が整いましたら呼びに参ります。失礼致します」


パタン


 
「……ねぇ、どうして部屋に入れちゃうのよ」
「君が言ったのだろう。既成事実を見せ付けなくてはと」


言った。確かに言ったわ。でも!


「こんな状態を見せなくてもいいじゃない!」


こんな、こんなエミディオ様に抱きついてる所を見られるなんて!
固まっていた体を動かし、エミディオ様から離れる。なぜあんなにしっかりと抱きついていたのか……


「どうみても仲良し夫婦だったから問題ない」
「……そうですね」


何か大切なものを失った気がするわ……


「あ、そうだ。ナイフか何かありませんか?」
「ペーパーナイフならあるが」
「貸して頂いても?」
「もちろん、だが何に使うのだ?」


それはですね、よっと


「ちょっと待て!何をする気だ!」
「え、破瓜の血の偽装工作をしようかと」


チェックするかは分からないけどあった方がいいよね?


「……貸しなさい」
「え」


え?どうして貴方がやるの?!


「ちょ、どうしてっ」
「どうしてはこちらの台詞だ。女性が簡単に体に傷を付けようとするんじゃない。本当に危なっかしい娘だな」
「別にこれくらい」
「絶対に駄目だ。もっと自分を大切にしなさい」
「……はい」


そんなこと言われた事がない。


「……本当に父親みたい」
「光栄だよ」


「旦那様、お風呂の準備が整いました」
「ありがとう。さて少しだけ我慢してくれ」


え、えぇ~っ?!
なぜお姫様抱っこするの?!


「な、何を!」
「しーっ、初夜の後だ。すたすた歩くのはおかしいだろう」


え、そういうものなの?だからって!


「はは、生意気な君が真っ赤になっているのは可愛らしいな」
「!」


恥ずかしいっ、後で絶対に仕返ししてやる!



「君達は下がっていい。彼女のことは私がやろう」
「かしこまりました」


え、なぜ。あなたが何をするのよ。


「ねぇ、どうして彼女達を下げたの?」
「ん?知らないのか。お風呂も夫婦の楽しむ場のひとつだ」


ギャーッ!大人って不潔!お風呂は体を洗う場所です!!


「君は……そんなに純情で、よく初夜を誘ったな。絶対に無理だったのじゃないか?」
「む、無理じゃないです!全然余裕ですよ!」


本当は無理だったかもしれない。でも売られた喧嘩は買わなければ!


「そうか。ではダメ押しの一手を追加しても大丈夫だね?」


ダメ押しって何?


「イイデスヨ」
「じゃあ、遠慮なく」


え、なんで近寄って……ちょ、首に息が!


ちゅっ


「んっ」


何、首にキスされた?なんかちょっと痛いし!


「へ、変態!娘だって言ったくせに!」
「はいはい、お子ちゃまには手を出しませんよ。とりあえずコレはキスマークな。これくらいやれば愛されている妻だと思われるだろう?」


キスマーク?信じられない!


「う~っ、このエロ伯爵!」
「ハハッ!悪かったよ。これ以上は何もしない。ゆっくり湯に浸かってくれ。あと、残念ながら私はまだ伯爵令息だよ」


悔しい!めっちゃ嬉しそうに出て行った!


鏡をそっと見る。

首すじに赤い跡がついてる。
これがキスマーク……
恥ずかしい、何これ。
こんな所に付けたら皆に見えちゃうじゃない!あ、見せる為なのよね。
妻がこんなに恥ずかしいものだったなんて、完全に誤算だわ……







「悪かった。機嫌を治してくれよ」
「……初心者相手に酷いです」
「すまない、君があんまりにも可愛い反応をするからつい」
「か!可愛いとか言わないで!」
「いや、うちの子は可愛いよ。うん」


なんで?最初の冷たさはどこ行ったの!
強面こわもての癖に娘は溺愛するタイプか。


「もう黙って。コレでも食べてなさいよ!ほら」


エミディオ様の口にフルーツを突き付ける。


「え」
「ほら、あーんして」


……あら?これはおかしな状況になってないか?


侍女さんがキラキラした目で見ている。


ぱくんっ


「……美味しいよ。君も食べなさい」
「……はい」






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貧乳は婚約破棄の要件に含まれますか?!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:596pt お気に入り:231

銀色の幸せ~金色の魔法使い~

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:276

浦島太郎異伝 竜王の嫁探し

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:300

セックスがしたくてしょうがない攻めVSそんな気分じゃない受け

BL / 完結 24h.ポイント:5,306pt お気に入り:8

ぶち殺してやる!

現代文学 / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:0

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,735pt お気に入り:29,349

自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

SF / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:76

魔女の弟子≪ヘクセン・シューラー≫

BL / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:26

男ふたなりの男子小学生の○○を見た結果……

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:17

処理中です...