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9.馬車は揺れる (引退宣言)
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馬車の中でも、時々ネックレスを弄って嬉しそうにしている姿を見ると、微笑ましい気持ちと、もしかすると誕生日プレゼントすら貰えていなかったのかもしれないという怒りで胸がジリジリする。
彼女の為にも聞かない方がいい。そうやって過去の事など我が家での生活で塗り替えてしまいたいと思った。
だが──
(3年間だけなのに、手放したく無くなりそうで)
そう言われて、とてもショックだった。
よく考えれば当たり前の事だ。
忙しかったからとはいえ、結婚前に一度しか顔を合わせず、更には初夜にあんな酷いことを言った。それなのにアリーチェはただ同情心で契約妻になってくれただけ。
3年間のごっこ遊びだと思われても仕方がない。
私は彼女の心の傷を見誤っていたのだ。
少し優しくしたくらいで癒えるようなものでは無いだろう。
それでも。これからの日々を、本当に愛すべき娘として大切に守っていけば、いつかは信じて貰えるだろうか。
私こそ3年後、この娘を手放すことが出来るのだろうか……
「ねぇ、どうしたの?なんで泣きそうなのよ」
「……3年後を想像したら……別れがつら過ぎる……すまん、無理かもしれん。泣き縋ったらどうしようか」
「フハッ!あなたは本当に!」
人が真剣に思いを伝えたのに爆笑するとは。
何となく腹が立ったので、「今すぐ笑うのを止めないと大変なことになるぞ」と警告を放つ。
だが、余程ツボに嵌ったのだろう。笑いが止まらない。
おもむろに彼女の横に移り、ヒョイッと抱え上げ、膝に乗せた。
「何してるの?!」
「馬車が揺れるからな。私が支えてあげよう。君は軽過ぎるから」
嫌がらせは成功したようだ。
嫌というより恥ずかしいらしい。
「あなたは私を何歳だと思っているの?7歳じゃないの、17歳!分かったら下ろしなさいよ!」
真っ赤な顔をして怒っている。だが、この子が本気で嫌がったら肘鉄を食らわせるくらいはするだろう。
「少しだけ。7歳のアリーチェを抱っこさせてくれ」
「~~っ、ばか!」
どうやらお許しが出たようだ。
本当に7歳から守れたらどれだけいいか。
いまでもすっぽりと腕の中に収まってしまう。どれほど小さい頃から苦労して来たのだろう。……7歳とはどれくらいだ?半分くらいか?
「……ねぇ、モニカさんは子供を望んでる?」
「どうかな。……若い頃は子供の話をよくしたよ。最初は女の子がいいとか、一緒に料理をするから失敗しても私は残さず全部食べるように!だとか。
だけどね、残念ながら神様は私達に子供を授けてくれなかったんだ。
こればかりは仕方がないな」
「……そっか、仕方が無いね」
そう言って私の手を優しく撫でる。
最近では子供の話はタブーであるかの様に避けて会話する様になっていた。
それだけではない。結婚の話だって父上があんなことを言わなければずっとあのままだっただろう。本当に進退窮まっていた。
だから、彼女の無謀な提案を受け入れてしまったのかもしれない。
「ここだよ」
愛する人の住む家。
呼び鈴を鳴らす。
何故だろう。少し緊張している。
「エミディオ、久しぶりね」
そう言って、モニカが優しく迎えてくれた。
不安は杞憂だったらしい。
「ずっと会いに来れなくてすまない」
「分かっているから大丈夫よ」
いつもと変わらない。なぜ変わっていると思ったんだ?
「モニカ、この子がアリーチェだ。私達に協力してくれた。……アリーチェ?」
「うわ、美女と野獣……」
「……本当に素直な口だな?」
相変わらず脳と口が直結している。
わざとグシャグシャと頭を撫でてやった。
「ちょっと!初めてお会い出来て緊張してるのにやめてよ!バカ!」
アリーチェの最近の口癖はこの「バカ」だ。
可愛いが人前ではやめて欲しい。
「淑女の挨拶は?」
「あなたのせいでしょう!
んんっ、はじめまして。アリーチェと申します。3年間だけ契約妻になる事になりました。
間違ってもエミディオ様に手を出したりはしませんし、期限が来たら即刻立ち去ることをお約束します。
どうか信じて下さい。よろしくお願いします」
……即刻立ち去るのは止めて欲しい。
アリーチェの挨拶を聞いたモニカは、何故か黙ったままじっとアリーチェの顔を見ている。
「モニカ?」
「っ、あの、ごめんなさい。こんなに可愛らしいお嬢さんだとは思わなくて。……17歳……なのよね?」
「はい。ですので契約は私の20歳の誕生日までです。もし、エミディオ様がもっと早くに伯爵としての実権を握ることが出来たら、その時に離婚します」
「……そう……ごめんなさい。私達のことに巻き込んでしまって……」
「いいえ。私は実家が貧乏な上に、残念ながら愛されていませんでした。ですから、伯爵家に住まわせていただけて天国ですよ!」
やはり、モニカも今更ながらに私達のやったことがどれほど酷いことだったかを自覚しているようだ。
「……そうなの。大変だったのね……
でも、エミディオとはずいぶんと仲良くなれたのね?あなたのそんなに楽しそうな顔は久しぶりだわ」
「そうか?」「そうなんですか?」
「ふふっ、やぁね。同時に返事しないで。
アリーチェさんありがとう。心から感謝するわ」
よかった。険悪な空気にならなくて。
「これで心置きなくさよならできる。
エミディオ、私と別れてほしいの」
……え?
彼女の為にも聞かない方がいい。そうやって過去の事など我が家での生活で塗り替えてしまいたいと思った。
だが──
(3年間だけなのに、手放したく無くなりそうで)
そう言われて、とてもショックだった。
よく考えれば当たり前の事だ。
忙しかったからとはいえ、結婚前に一度しか顔を合わせず、更には初夜にあんな酷いことを言った。それなのにアリーチェはただ同情心で契約妻になってくれただけ。
3年間のごっこ遊びだと思われても仕方がない。
私は彼女の心の傷を見誤っていたのだ。
少し優しくしたくらいで癒えるようなものでは無いだろう。
それでも。これからの日々を、本当に愛すべき娘として大切に守っていけば、いつかは信じて貰えるだろうか。
私こそ3年後、この娘を手放すことが出来るのだろうか……
「ねぇ、どうしたの?なんで泣きそうなのよ」
「……3年後を想像したら……別れがつら過ぎる……すまん、無理かもしれん。泣き縋ったらどうしようか」
「フハッ!あなたは本当に!」
人が真剣に思いを伝えたのに爆笑するとは。
何となく腹が立ったので、「今すぐ笑うのを止めないと大変なことになるぞ」と警告を放つ。
だが、余程ツボに嵌ったのだろう。笑いが止まらない。
おもむろに彼女の横に移り、ヒョイッと抱え上げ、膝に乗せた。
「何してるの?!」
「馬車が揺れるからな。私が支えてあげよう。君は軽過ぎるから」
嫌がらせは成功したようだ。
嫌というより恥ずかしいらしい。
「あなたは私を何歳だと思っているの?7歳じゃないの、17歳!分かったら下ろしなさいよ!」
真っ赤な顔をして怒っている。だが、この子が本気で嫌がったら肘鉄を食らわせるくらいはするだろう。
「少しだけ。7歳のアリーチェを抱っこさせてくれ」
「~~っ、ばか!」
どうやらお許しが出たようだ。
本当に7歳から守れたらどれだけいいか。
いまでもすっぽりと腕の中に収まってしまう。どれほど小さい頃から苦労して来たのだろう。……7歳とはどれくらいだ?半分くらいか?
「……ねぇ、モニカさんは子供を望んでる?」
「どうかな。……若い頃は子供の話をよくしたよ。最初は女の子がいいとか、一緒に料理をするから失敗しても私は残さず全部食べるように!だとか。
だけどね、残念ながら神様は私達に子供を授けてくれなかったんだ。
こればかりは仕方がないな」
「……そっか、仕方が無いね」
そう言って私の手を優しく撫でる。
最近では子供の話はタブーであるかの様に避けて会話する様になっていた。
それだけではない。結婚の話だって父上があんなことを言わなければずっとあのままだっただろう。本当に進退窮まっていた。
だから、彼女の無謀な提案を受け入れてしまったのかもしれない。
「ここだよ」
愛する人の住む家。
呼び鈴を鳴らす。
何故だろう。少し緊張している。
「エミディオ、久しぶりね」
そう言って、モニカが優しく迎えてくれた。
不安は杞憂だったらしい。
「ずっと会いに来れなくてすまない」
「分かっているから大丈夫よ」
いつもと変わらない。なぜ変わっていると思ったんだ?
「モニカ、この子がアリーチェだ。私達に協力してくれた。……アリーチェ?」
「うわ、美女と野獣……」
「……本当に素直な口だな?」
相変わらず脳と口が直結している。
わざとグシャグシャと頭を撫でてやった。
「ちょっと!初めてお会い出来て緊張してるのにやめてよ!バカ!」
アリーチェの最近の口癖はこの「バカ」だ。
可愛いが人前ではやめて欲しい。
「淑女の挨拶は?」
「あなたのせいでしょう!
んんっ、はじめまして。アリーチェと申します。3年間だけ契約妻になる事になりました。
間違ってもエミディオ様に手を出したりはしませんし、期限が来たら即刻立ち去ることをお約束します。
どうか信じて下さい。よろしくお願いします」
……即刻立ち去るのは止めて欲しい。
アリーチェの挨拶を聞いたモニカは、何故か黙ったままじっとアリーチェの顔を見ている。
「モニカ?」
「っ、あの、ごめんなさい。こんなに可愛らしいお嬢さんだとは思わなくて。……17歳……なのよね?」
「はい。ですので契約は私の20歳の誕生日までです。もし、エミディオ様がもっと早くに伯爵としての実権を握ることが出来たら、その時に離婚します」
「……そう……ごめんなさい。私達のことに巻き込んでしまって……」
「いいえ。私は実家が貧乏な上に、残念ながら愛されていませんでした。ですから、伯爵家に住まわせていただけて天国ですよ!」
やはり、モニカも今更ながらに私達のやったことがどれほど酷いことだったかを自覚しているようだ。
「……そうなの。大変だったのね……
でも、エミディオとはずいぶんと仲良くなれたのね?あなたのそんなに楽しそうな顔は久しぶりだわ」
「そうか?」「そうなんですか?」
「ふふっ、やぁね。同時に返事しないで。
アリーチェさんありがとう。心から感謝するわ」
よかった。険悪な空気にならなくて。
「これで心置きなくさよならできる。
エミディオ、私と別れてほしいの」
……え?
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