悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第一章

14.祖父来襲

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 陛下からの沙汰が下された翌日、ダンドリュー公爵が伯爵邸を訪れました。
 今後、私達の生活の支援をしてくださるということは聞いておりましたが、まさか公爵自ら来られるとは思いませんでした。

 この方は一応、お祖父様になるのよね?

「やあ、君がブランシュかな」

 あまりにも気さくに話し掛けられて内心驚きながらも、

「初めまして。ブランシュ・ノディエと申します。ダンドリュー公爵閣下にお目にかかれて光栄に存じます」

 カーテシーで丁寧に挨拶をしました。
 ですが、顔を上げるとなぜかとても悲しそうなお顔になっています。
 あら?何か失礼なことをしてしまったかしら。

「ブランシュ、そこは『おじいちゃまに会えてうれしいっ♡』と喜んであげないと」
「エルフェ様!」
「……おい、なぜ私よりもお前のほうが喜ばれるんだ」
「人徳ですね」

 公爵様とエルフェ様は仲良しなのかな?

「ブランシュ。できれば爵位ではなく、身内として呼んでもらえると嬉しいのだが」

 意外です。公爵様はもっと怖い方かと思っていました。
 ダンドリュー公爵は30年ほど前の戦において、指揮官としてのみならず、自身が先陣を切って戦い、我が国に勝利をもたらした英雄として称えられている方です。
 今は50歳を越えているはずですが、騎士団団長として現役で活躍されており、衰え知らずの猛者なのだとマルクに教えて貰いました。

「あの、本当にお祖父様とお呼びしてもいいのでしょうか」
「もちろんだ。今まで何もしてやれなくて本当に申し訳なかった」
「いえ、お祖父様は国のために頑張ってくださっているのですもの。いつも私達を守ってくださりありがとうございます」

 これは本当の気持ちです。ただ、どうしてこんなお祖父様のもとで、あんなお母様が育ったのかが不思議ですけどね。

「オレリーからこんなことを言ってくれる娘が生まれるとは思わなかった」

 お祖父様が同じようなことを言っています。

「私はお母様から産まれましたが、育ててくれたのは乳母です。
 申し訳ありませんが、私はあの人を真実母だとは思っていません。私という人間を育て形作ってくれたのは、エマやナタリー達、別館の使用人ですわ」

 だってお母様は私に触れることはなかった。
 お父様は抱っこしてくれたり、手を繋いでくれたりしたけれど、お母様はただ微笑みながら当たり障りのない話をしてお茶を飲んで終わりの人でした。

「……アレは親には成れなかったのだな」
「お兄様達のお気持ちは分かりませんが、私にとっては『お母様』という名前の人。それだけです」
「……そうか」

 それだけ呟くと、お祖父様は私の頭をワシャワシャとかき混ぜました。もしかして撫でているつもりなの?

「公爵!せっかく可愛く結ってあったのに、そんな撫で方ではだめですよ」
「あ?ああ、すまんすまん。いかんな、昔もこうやって叱られたのに、またやってしまった」

 申し訳なさそうに謝るお祖父様はどこか寂しそうです。
 もしかして、その昔というのはお母様のことなのかな。

「さて。しっかりと引導を渡さねばな」

 お祖父様のお顔が変わりました。これはきっと、国を守る剣としてのお顔なのでしょう。



「私は幸せになれるはずだったのに!」

 お母様の叫び声がとても耳障りです。
 お祖父様が来たことを聞きつけ、応接室に駆け込んで来たお母様が半狂乱で喚き散らしています。

「お前が勝手に不幸になったのだろう。家族すらも巻き込んで、お前は一体何がしたかったのだ」

 ダンドリュー公爵の質問は、たぶん皆が聞きたかったことだと思います。

「私は!ただこの家のために努力しただけです!」
「生まれたばかりの娘を隔離することはどのようにこの家のためになったのだ」
「……嫡男を守るためでした。そのためにほんの少しだけ避難してもらうつもりで」
「素人のお前が指導するより、魔法塔で教えられたほうが良かったと思うがな。
 それに、ならばどうしてミュリエルを身篭った。なぜ避妊を怠ったのだ。まさかお前は理性の働かない猿だったとでも申すのか」

 理性の働かない猿ってどういう意味?
 ちらりとエルフェ様に視線を向けると、苦虫を噛み潰したようなお顔をしています。

「公爵。子どもの前でそのような発言はお止めください。教育上よろしくありませんよ」
「おお、悪かったな。許せ」

 よく分かりませんが良くない表現だったみたい。あとでナタリーに聞くことにしましょう。

「ロドルフと子ども達を連れてきなさい。今後の話がある。
 オレリー。お前は癇癪を起こした幼子のように喚き立てるのは止めろ」
「酷いわ!」
「酷いのはお前のその幼児返りだ。それとも、ただ成長できていないだけなのか?」
「!!」

 中々辛辣ですね。でもやっとお母様が静かになりました。

「ブランシュ、オレリーから謝罪や謝辞は受け取ったか」
「いえ。ミュリエルを治療して倒れてからお会いしておりませんでした」
「……そうか」
「お…お父様、」
「黙れ、二度手間になる。皆が揃うまで待ちなさい」

 お祖父様からビリッと痺れるような圧が放たれました。
 思わずビクリと体が震えてしまいましたが、隣に座っているエルフェ様がソッと手を握ってくれました。

 うん、大丈夫。この怒りは私に向けられたものではないわ。

 ……これから家族が集まるのね。それはきっと最初で最後の家族での語らいになるのでしょう。
 何とも殺伐とした話し合いになりそうだと、エルフェ様の手のぬくもりに縋りたくなりました。






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