悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第一章

16.変われない人

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「どいつもこいつもっ…、子どもを何だと思っているんだっ!この子達はお前らの欲望を満たすための道具ではないのだぞっ!!」

 エルフェ様がお父様達を睨み付け、私を庇うように抱き締めながら怒鳴りつけました。

「……エルフェ様、そんな人達のために怒らなくてもいいですよ」
「だがっ!」
「好意の反対は嫌悪じゃないって本当ですね」

 こんなにもくだらない人達のために命懸けで頑張ったのかと思うと、ただ虚しいだけです。

「私はお母様のくだらない野望も、お父様の破滅願望も全く興味がございませんの。
 どうぞお二人でお好きになさって?」

 そうよ。どこまでも勝手に堕ちていけばいい。
 私の手さえ離してくれたらあなた達なんかもうどうでもいいわ。

「……そんな顔をして言うものではないよ」
「ふふ、悪女への道は厳しいわね」

 エルフェ様が私を抱き上げた。
 マルクといい、どうして皆気軽に持ち上げるのかしら。

「公爵。早めに済ませましょう。子ども達が心配です」
「……陛下に進言して刑罰を変えてもらった。オレリー、お前は辺境に送る」
「お父様?!」
「命の重みが分からぬお前にはピッタリの場所だ。そこで下働きとして生きなさい」
「この私に平民に混ざって仕事をしろと言うの?!」
「お前とロドルフは離縁させる。お前は平民になるのだ」

 それはかなりキツイでしょうね。貴族の中でも王族に次ぐ高貴な存在だということを誇りに生きてきたのに、ただの平民になるだなんて。

「……いやっ、いやよ!」
「あそこは魔獣の侵入を防ぐ大切な場所だ。そこで命の重さと人としての尊厳とは何かを学び、子供達と前伯爵夫人に侘び続けろ」
「なぜ私が!?子ども達はまだしもお義母様のためなんて絶対に嫌よ!」
「……彼女は唯一お前を心配し、受け入れてくれた人だったよ。
 お前のその傲慢さは妻の教育のせいだと哀れんでくださった。今からでもやり直すのは遅くないと、自分の娘として愛情を持って立派な伯爵夫人に育て上げてみせると言ってくれた人だったんだぞっ!」

 ノディエのお祖母様は情の深い立派な方だったのね。それでもお母様は変われなかったのだ。

「……何よ……何を偉そうにっ!お父様だっていつも私を放ったらかしにしてお母様に任せきりだったじゃない!今更父親面をしないでっ!
 ブランシュを放置したのが何よ。あなただって何年も会いに来なかったじゃない!!
 私が本当に助けてほしいときに、お父様はいつだって側にいてはくださらなかったじゃないのっ!!」
「……そうだな。お前がそうなったのは私の罪でもあるのだろう。だから陛下に進言したのだ。
 領地で蟄居させても何も変わらぬ。領民達の血税をお前などに使うわけにはいかんだろう。
 生きるということが、誰にも顧みられないということがどれほど辛く大変なのか、身を持って知ることのできる場所に閉じ込めるべきだとな」
「……ひどい、ひどい、だいっきらいよ……お父様はやっぱり私を守ってくれない……わたしがきらいなのよ……ひどい……きらい……」

 それはまるで幼い子どもの繰り言のよう。

「このままオレリーは辺境に運ぶ。準備をしてくれ」

 もう二度と会うことはないのね。でも、ちょっと許せないかな。

「お祖父様、ひとつだけお願いをしてもいいですか?」
「うん?どうした」
「上だけでいいので服を脱いでください」
「ブランシュ?」

 あら、エルフェ様が驚いています。
 べつに痴女になったわけではありませんよ?

「ブランシュよ。そんなことは、」
「ダメです。このまま被害者気分でいられるのは業腹ですわ。お祖父様も腹を決めたのでしょう?」
「……うちの孫は手厳しいな」

 そう言ってため息をひとつ吐いてから、お祖父様は上着を脱いで下さいました。

「な……なんですの、それは……」

 お母様が悍ましいと言わんばかりの表情で呟きました。お祖父様のお体にはたくさんの傷跡が残されていました。
 刀傷らしきものや火傷のような痕も。

「分からないのですか?お母様達を守るために戦場で負った傷でしょう?」

 お祖父様は本当に最前線で戦っていたのですね。それはどれほどの恐怖と痛みだったのか。

「お祖父様は帰らなかったのではありません。戦を終えるまで帰れなかったのです。
 国のために、何よりも家族のために何年も戦ってくれていたのですもの。
 でも、お母様はどうしてそんなことも知らないの?子供の私ですら知っているのに。
 あ、だからお母様は王太子殿下に選ばれなかったのですね!さすが王家のお方です、慧眼ですわ!」

 満面の笑顔で言って差し上げました。
 あなたの愚かさを笑っているのだと理解してくれるかしら?

「……なんかがっ!」

「母様、きらい」

「え?」

 それは、思いもよらない人物からの言葉でした。

「……ミュリエル?」
「母様はどうしてみんなをいじめるの。姉様にずっと意地悪して閉じ込めてたの聞いたもん。
 母様が嘘ついたせいで兄様達は1年も遠くに行っちゃうのでしょう?
 父様だって、母様のせいでもう会えなくなっちゃうのよね?ぜんぶ母様が嘘つきでいじわるだから。嘘もいじわるもとっても悪いことよ。ちゃんとみんなにごめんなさいして!」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら母親を詰る姿に驚きしかありませんでした。
 私はミュリエルという子を初めてちゃんと見た気がしました。



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