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第二章
17.急転直下(1)
しおりを挟むそれは突然のことだった。
「姉様なんか大ッ嫌い!消えちゃえっ!!」
その言葉と共にミュリエルから何かが放たれ、私の体は背後に押されてしまった。
「え」
気を付けていたつもりだった。だってミュリエルの苛つきがだんだんと強くなっているのを感じていたから。
でも、まさかこんなことになるとは──
「ブランシュっ!!」
リシャール様の手がこちらに伸ばされた。
でも、それは虚しく空を切り、私は階下に放り出された。
私の後ろは階段だった。
双子がいなくなってから、ベルティーユさんの態度が変わりました。
授業中、ミュリエルが不貞腐れても庇うことなく、もう一度やってみようと励ますか、後ろ向きな発言を聞いても、それは気のせいだと笑い飛ばし、とうとうミュリエルが涙目になってしまっても、「簡単に泣く子は王子様に会えないのですって」と、必殺技を繰り出して、リシャール様のようにニッコリ笑って終わらせてしまった。
これを言われると我慢するしかないミュリエルは、グッと涙を堪え、その後は大人しく授業を受けていました。
そして、ベルティーユさんから私に謝罪もありました。
「初めてお姉さんになれたのが嬉しくて、対応を間違えてしまいました。申し訳ありません!」
しっかりと頭を下げ謝られてしまい、逆に慌ててしまいましたが、誤解が解けたようでホッとしました。
気が付けば周囲の反応が変わって行き、これでシルヴァン兄様にもいいこと報告ができると、つい油断してしまったのです。
「もしかしてリシャール様がベルティーユさんに話をしてくださったのですか?」
「ん?何のこと?」
ニッコリ。とってもいい笑顔でそれ以上は聞いては駄目だと圧を掛けるのは止めて。
「もう。お礼くらい言わせてくれたらいいのに」
「ベルが自分で気付いたことにしてあげてよ」
ああ、なるほど。ベルティーユさんのためなのね。
「大泣きさせちゃったんだ」
「……何をしたの」
「笑顔で怒るのが怖いってさ」
「やだ、何それ!」
つい、二人でクスクスと笑い合い、ミュリエルが近付いて来たことに気づかなかったのです。
「……姉様のせいだったの?」
突然ミュリエルの声がして驚いて振り向くと、青褪めた顔のミュリエルが立っていました。
「待て。ベルティーユを叱ったのは私だ」
「だって姉様のためでしょう?なんで?どうしてみんなみんな姉様が大好きなの?!私は?なんで私のことはだれも好きになってくれないのよっ!!」
その言葉に、私はここまでミュリエルが傷付いているなんて気付いていなかったと驚く反面、どうしてここまで不安になっているのか理解ができなかった。
「何を言っているの?双子達はあなたを一番に愛してるし、お母様達だって」
「うそっ!だって兄様は姉様のことも心配するもん!母様だって姉様のせいで泣いたもんっ!私にはあんな顔しなかった!!」
「そんな、あれはっ」
あの涙は何だったのか。それは私にも分からない。
どんな感情からお母様が涙を流したかなんて、きっと一生分かりはしないでしょう。もしかすると、お母様にすら分からないものではないのかしら?
「それでも、この6年間愛されて来たのはあなただったし、私は誰に知られない存在だったわ」
「じゃあ、そのままでいてよ!何で出てきちゃったの?!」
「……あなたの命を救えと言われたからよ」
確かに私が仕組んだことだった。
それでも、こんな子どもに縋ってでもあなたの命を救おうとしたのは、結局あなたが愛されていたからでしょう?!
「ミュリエル、止めろ。君が大切にされないのは、君自身が誰も大切にしないからだ」
「……うるさい」
「周りを見ろ。勝手に相手を拒んでいるのは君自身だろう」
「うるさいうるさいうるさいっ!どうして王子様みたいな顔してるのにミュリエルに意地悪なの?!どうせ姉様が側にいるからでしょ!」
双子の不在が彼女を追い詰めているのか、それともお母様を断罪した時からずっと追い詰められ続けていたのか。
……私は、何か間違えたのかな。
私にとって、もともといないも同然の親だった。でも、ミュリエルにとってはずっと大切な家族で、あの時はばいばいと言っていたけど本当は後悔していたの?
「消えちゃえっ!!」
それは魔力の塊。でも、私を傷付けるほどの威力はなく、でも、私を突き飛ばすだけの威力があった。
──落ちるっ!!
リシャール様の届かなかった手と、触れることのできなかった自分の手がなぜかスローモーションのようにはっきりと見ることができた。
だめ、バングルが壊れちゃう。
落ちる瞬間私が思ったのは、何とかこの宝物を守りたい。そんなことでした。
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