悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

18.急転直下(2)

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「ご無事ですか、ブランシュ様」

 
落ちると思った体はしっかりとした何かに包まれ、ギュッと閉じていたまぶたをゆっくりと開けると、

「……マルク?」
「はい。遅くなって申し訳ありません」

 なんと、私はマルクの腕にすっぽりと収まっておりました。
 え、どこから来たの?マルクも飛べるの?

「あの、バングルは発動していませんよね?」
「え?これ?」

 シルヴァン兄様のバングルはいつものようにキラキラと輝いているだけです。

「大丈夫、壊れていないわ」
「…よかった。それが発動していたらどうしようかと。私の命は本日で終了かと思いました」
「そう、お揃いね」

 だって、私もさっき死ぬかと思いましたから。

「まさかミュリエル様が魔力を使うとは思わず、お助けするのが遅れてしまい本当に申し訳ありません。怖かったでしょう」

 それは……怖くなかったとは言えませんでした。
 だってまだ心臓がバクバクしています。

「ブランシュさん、怪我は無い?」

 そういうリシャール様の方が血の気が引いて顔色が悪いです。

「助けようとしてくれてありがと」
「…でも届かなくて……君が死んじゃうかと思った」

 力が抜けたのか、ドサッと座り込んでしまった姿は、いつも姿勢の良い彼にはありえない格好で、本当に心配を掛けたのだと申し訳なくなりました。

「あの、」
「いい加減にしなさいっ、この馬鹿娘っ!!」

 え?

 リシャール様に話し掛けようとした声をかき消すかのように、ナタリーの大声が回廊に響き渡りました。

「わ、わたし、ワザとじゃなくてっ」
「まずはごめんなさいでしょうっ!!」
「ひいっ!」

 ナタリーは怒った魔人のような形相で、むんずとミュリエルを捕まえると、思いっきりスカートを捲りあげました。

「きゃあっ!」
「ナタリーッ?!」

 驚く私と、怯えるミュリエルの声。そして、グルンっと反対の方を向くリシャール様とマルク。

 そこからの、

「悪い子はこうですぅ──っつ!!」

 パンッパンッパーンッ!!

 なんと、ナタリーはミュリエルのお尻を思いっきり叩き始めたのです。

「やぁっ!いたいいたいやめてよぉっ!」
「貴方はっ!ブランシュ様にもっと痛いことをしようとしたんですぅっ!!」

 パンパンパンパンッ!!!

「ちょっとっ?!マ、マルク下ろして!ミュリエルが!」

 ジタジタと藻掻いているのに、なぜかマルクが放してくれません。

「痛みを知るのは必要だと思いますので」
「あんなに叩いたら座れなくなっちゃうわっ!」
「それほどのことをしたのですよ」

 そうだけど!このままだとナタリーが叱られてしまうじゃないっ!!

「ごめんなさいっ!ミリが悪かったから許してよぉ!」
「泣いて謝ったくらいで許せるものですかっ!!」

 スパーンっ!と一番大きな音が響き渡りました。

「……どうしてです?ブランシュ様は、あなたにこんな悪いことをさせるために命を救ったわけではないでしょうっ!!」

 ボロボロと大粒の涙を零しながらナタリーが訴えました。

「喧嘩くらいなら許します。でも、大きな怪我や、もしも死んじゃったりしたらっ!それはもう取り返しがつかないんですよ?!本当に分かっていますかっ!!」
「……ごめんなさっ」
「あなたはっ!人殺しとして生きたいの?!」
「ちがうっ!」
「姉を殺して!牢獄で暮らしたいのでしょうっ?!」
「……ごめ、っ、ひっ、っごめんなさいっ」
「謝る相手は誰ですかっ!」
「ブラっ、ブランシュ姉様!ね、姉様!ごめんなさいっ!ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさい~~っ!!!」

 ミュリエルの謝罪が響き渡り、それからようやく回廊が静かになりました。どうやらナタリーのお仕置きが終わったようです。
 えぐえぐと泣きじゃくるミュリエルと、同じくひぐひぐと泣きじゃくるナタリー。

「えーっと。もう振り向いても大丈夫かな」

 男性陣はスカートを捲くられたミュリエルのためにずっと明後日の方向を向いたままでした。

「…もう大丈夫だと思いますよ?」

 まだ二人は泣きじゃくっているけど、それでも少し落ち着いてきたかな。

「あー、まずはミュリエル。自分が何をやってしまったのか分かっているか」
「…っぐ、っはひ」

 ああ、もう、泣き過ぎでぐちゃぐちゃです。

「そこのメイドは罰しない。不服はあるか」
「ありましぇんっ、ひぐっ」

 よかったわ。ナタリーの罰はないのね?!

「だが、さすがにこの件は私の手には余る。父上達に報告がいくことは覚悟するように」

 ………本当は止めたい。でも、リシャール様の立場を考えると……。

「リシャール様。未然に防げたのだと。お伝えいただけますか」
「……未然じゃないだろう。事件は起きた。ただ、君の護衛が優秀だっただけだ」





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