悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

19.急転直下(3)

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 これはずいぶんとリシャール様に心配を掛けてしまったみたいね。

「リシャール様、今回のことは事件ではなく事故ですわ」
「……ブランシュ」
「駄目ですよ。本当は分かってるくせに」

 だって私は突き飛ばされたのではありません。
 ミュリエルから漏れ出た魔力に弾かれただけですもの。もちろん、『消えちゃえ』と思ったせいで起きたことだとは思いますが、それでも、思うだけでは罪には問えません。
 今回は魔力暴走による事故。これが正解なのです。
 まあ、だからといって優しく許す気はないのですけど。

「ねえ、ミュリエル。あなたから見た私ってどんな人間なのかしら。悩みのない強欲な姉とか?
 それで?消えちゃえってどうしたいの。人間はね、消すことなんかできないの。どうしてもと言うなら殺すしかないと思うのだけど。
 それで?あなたは私に死んで欲しかったのかな。
 それなら、私はあなたに死を望まれるほど、どんな酷いことをしてしまったのか教えてほしい。だって、まったく心当たりがなくて困ってるのよ?」

 ナタリーに思いっ切り叱られて泣き過ぎでボロボロだけど知ったことではない。

「ねえ、どうして?私が何をしたの?」

 そろそろ逆恨みを止めていただかないと迷惑極まりないのですよ。

「……だって、みんな姉様ばかり大切にするんだもん」
「それで?」
「え…?あの、だから悲しくて」
「誰がどう思おうとその人の自由じゃない?
 それなのになぜいちいちあなたをおもんぱかる必要があるの?
 そんなことを言っちゃうあなたは何様だったかしら。私から見たおなたは、お勉強の足りない、我慢の効かない、ワガママで、更には問題だらけの伯爵家の幼女でしかないのだけど」

 本心からの言葉だったけど、ミュリエルはショックだったらしく、しくしくと泣き出してしまいました。
 面倒臭っ、と思いつつも、仕方なく最後まで面倒を見ることにする。

「えっと、こっちかな?」 

 適当に近くの部屋の扉を開けると、お目当ての物が見つかりました。


「おいで、ミュリエル」

 探していた物は鏡です。

「見て。何が見える?」
「……私と…姉様」
「そうね。どう?あなたはお姫様かしら」

 鏡に映るミュリエルは、泣き過ぎで目も鼻も赤くなり、髪も乱れ、かなりの残念仕様です。
 でも、本人はここまで酷いとは思っていなかったようで、顔が赤くなりました。

「ここに映っているのがあなたの本当の姿。
 悪さをしてお尻を叩かれて大泣きした残念な子どもだわ。
 分かる?あなたはお姫様なんかじゃない。自分の気持ちすら上手くコントロールできず、人に八つ当たりしてるお馬鹿さんよ」

 鏡の中のミュリエルがポロポロと泣いている。
 彼女の中では泣いている自分はもっと可愛いと思っていたのかな。そんなはずないのに。

「ね、ここが最終ラインよ」
「………え?」
「事故だと言ってもらえるのは最初だけ。次にやったら、それは犯罪だから」
「あ」
「覚えておいて。あなたも私も没落寸前の貴族令嬢よ。親兄弟の悪評はずっと付いて回るの。ちょっとのミスで、『やっぱりあの親の子供だから』って言われると思う。
 今のままだと、ミュリエル。あなたはお母様と同じになっちゃうわよ?いいの?」
「……かあさまと、おなじ」
「そう。義母の死を高笑いして、大した理由もなく自分の子どもを別館に追いやって、自分に似た娘はお人形のように扱って。身勝手の限りを尽くして最後は自滅したあの人と同じがいいの?それなら止めないけど」
「や!やだっ!!」
「でも、今のあなたはお母様にそっくりだよ」

 よほどショックだったのか、へたりと座り込み、ヤダヤダと呟いている。

「…どうしたらいいの?母様と一緒は嫌よ」

 ここまで嫌がられるお母様にちょっと笑ってしまうわね。

「まず、自分が特別だと思うのを止めなさいよ。
 この鏡に映ってる自分を忘れないで。ここがスタートだから」

 これは双子も悪いけどね。お姫様扱いし過ぎるからこうなるのよ。

「はい……」
「みんながあなたを一番に考えることはないわ。分かる?」
「……うん」
「何度も言うけど、私達は両親がいない。双子達もいない。崖っぷちにいたところをお祖父様が何とか助けてくれただけで、状況はあんまり変わってないの。
 だから、やってもらって当たり前じゃなくて、ちゃんと色んなことに『ありがとう』って思わないと。
 これはシルヴァン兄様も教えてくれたはずよ?」

 あなたは不貞腐れて聞いていなかったけどね。
 この世の中に当たり前なんてものは無く、それを幸運にするか不幸にするかは自分次第なのだと教えてもらって、やっぱり兄様の授業は好きだなぁと思ったのに。

「それと。貴族令嬢なんて綺麗な人はたくさんいるんじゃない?ただ可愛いだけなんてきっとそんなに価値は無いのではないかしら」
「え?!」
「すっごく可愛いいけど意地悪な令嬢と、小綺麗で優しくて知識豊富な令嬢がいたら、普通は後者を選ぶでしょ?」
「……ミュリエル馬鹿じゃないもん」
「また自分のことを名前で呼んでるわよ。
 はい、現在の王族の名前をすべて答えて。あと、四家ある公爵家の家名も言ってご覧なさい」

 黙った。やっぱり勉強が足りな過ぎるわ。

「ちゃんと先生や大人達のお話を聞きなさい」
「お姉さんの言葉もね」
「リシャール様?」
「こうやって君の駄目なところをハッキリ言ってくれるのはブランシュだけだよ。他人なら誰もそんなことを教えない。ただクスクス笑いながら蔑むだけ。
 どうしてたった一人だけの味方にシャーシャー威嚇してるの?社交界に出たら本当の敵だらけなのに。
 身内くらい味方に付けなよ。馬鹿じゃないのなら」

 ……馬鹿って。リシャール様ったらまだ怒ってるわね?





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