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6.愛妾生活スタート
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とうとう明日からセレスティーヌは正式に陛下の愛妾になる。
俺は結局何も出来ないままの残念夫だ。
「セレスティーヌ、よかったらこれを受け取って欲しい」
それでも、勇気を出して用意してみた。
「……どうして」
「結婚指輪。式は挙げられないけど、これくらいはプレゼントしたかったんだ」
俺は剣を握るのに邪魔になるから鎖を通して首に掛けている。
「左手、出して?」
華奢な手だな。少しドキドキしながら薬指にはめる。よかった、ピッタリだ。サイズはお世話係のメイドに聞いたけど、少し心配だった。
「ん。似合ってる……と、思うけどどうかな」
一緒に見に行く事は出来ないから勝手に選んでしまった。イメージを伝えて店員さんと悩み抜いたんだけど。
「なぜここまでしてくださるのですか?」
「え、だって俺の奥さんだし」
駄目だっただろうか。だって形だけだろうが結婚は結婚だろ?女の子は憧れるんじゃないの?
「……すごくうれしい」
あっ!
「俺も凄く嬉しい!」
「なぜ貴方が?」
「だってさ、あの時の笑顔がもう一度見たいって思ってたんだ。今、その願いが叶った」
あの、踊っていた時みたいな幸せな笑顔が見れた。それだけで、この後も続くであろう団長の特訓にも耐えられる気がする。
「あの時って?」
「え、デビュタントの──あっ、」
駄目じゃん、嫌なこと思い出させたら!
「どうして?全員を覚えているの?」
「いやいやいや、そんな若い子チェックしてるみたいに言わないで!たまたまっ!なんか凄く笑顔が可愛いなっ~~~っ、違うから。変質者じゃないから!」
何で言うのよ、俺の馬鹿。10歳も年下の女の子をヘラヘラ見てる変態になっちゃったよ。
「ううん、嬉しいの。貴方が汚れる前の私を知っててくれて嬉しいわ」
その言葉に俺はすっごく腹が立った。
「ねえ。俺の奥さんは凄く綺麗なんですけど。どこも汚れてなんかいないし、これからだって何一つ汚れない。
汚れているのはね、酷いことをした奴だけだ」
だからいつかその報いを受けるんだよ。
「……私の夫は格好いいわね」
たぶん納得はしていないだろう。それでもいいよ。何回でも伝えるから。
「だろ?」
たぶん、明日からはこんなふうに気軽に離せなくなる。だから今日で最後だ。
「俺は力が足りなくて何も出来ないけど、セレスティーヌが頑張って戦う姿をちゃんと見てるから。一人じゃないから」
こんなことしか言えなくて本当にごめん。
「そうね。一人じゃないから頑張れるわ」
ほら。セレスティーヌはやっぱり綺麗じゃないか。あの時よりももっと綺麗になったよ。
「やっぱり俺の奥さんは綺麗だ」
「……馬鹿ね」
こうして、最後の1日が終わった。
「待っていたよ、セレスティーヌ」
「本日より愛妾として仕えさせていただきます。よろしくお願い申し上げます」
「ずいぶんと堅苦しいな。まぁいい。おいで」
まるで俺に見せつけるように彼女を抱き寄せる。
「ああ、やっとだ。今日の為に公務は全て終わらせた。これで一日中一緒にいられる」
昼間っから押し倒さないでね。
節度ある大人の対応をお願いしますっ!
「大丈夫、怯えないで。今日はのんびりと過ごそう」
お、さすが王様。エスコートはとてもスマートですね。
いきなりベッドじゃなくてよかった。
「甘い物は好き?」
「はい」
「チョコレートは好き?」
「はい」
「紅茶はストレートとミルクどちらが好き?」
おい。絶対に今、好きって言葉を言わせようとしてるだろう。子供か。ウザいんですが。
「契約書第4項を履行致します」
「ん?4項って何かな」
「……」
「セレスティーヌ?」
「……」
「私が何かしたかい?」
「……」
「おーい」
「……」
あ、やっぱり不快だったのね。
凄いな、開始3分でもう無言を貫くとは。
「……トリスタン。契約書第4項とは何だ」
「は。会話において不満や不快と感じる時は無言で返答することを許す、という内容です」
「今の会話のどこが?!」
「……」
「お前に無言の権限はない。さっさと答えろ」
「……好き、という言葉を強要されていると感じたのではないでしょうか」
あれ?セレスティーヌが無言になると、俺が答えることになるのか?
思わず彼女を見ると、クスッと微笑まれた。
俺の奥さんは小悪魔だ!
「いや、そんなつもりはなかったんだ。つい、君が側にいるのが嬉しくてアレコレと聞いてしまったんだ」
陛下は今の笑顔を見なかったらしい。残念でした。
「いえ。勘違いをして申し訳ございません」
「許してくれてありがとう」
チュッ、と頬に口付ける。
……くそ。こんなのをずっと見なくちゃいけないのかよ。というか見せ付けるな。見られて喜ぶ変態め!
それでも護衛は常に警戒するべきは周囲であり、警護対象の生活には関与してはいけない。
大丈夫。今までだって王妃様との軽いくちづけとか、平気で見てきただろう。
「そういえば、この服は支給品かい?」
「はい」
「そうか。清楚でいいけれど、少し物足りないね。今度、私の色のネックレスとイヤリングを送るよ」
そう言って、チラリとセレスティーヌの左手を見る。どうやら結婚指輪がお気に召さなかった様だ。
「契約書第10項をご確認下さい」
「ん?」
「契約書第10項をご確認下さい」
「………トリスタン?」
「は。宝飾品やドレスなどの贅沢品は国庫からは一切出さない、という内容です」
「は?!どうして!」
「同じく第10項に、食事や生活用品は一般的な侍女と同じとする、と記載されております。ですので議会においてその様にご愛妾様の経費が計算されていると伺っております」
「な………」
おい。契約書をちゃんと読んでいないのかよ。
「セレスティーヌ、どうしてそんな内容にしたのだ!」
「不要だからです」
「いや、必要だろう!」
「何故ですか?では、私は美しいドレスやアクセサリーを身に着けて夜会等に参加しても良いのでしょうか」
「駄目だ。愛妾である君を夜会でエスコートは出来ない。美しい君を他の男に見られるのも許せない!」
「……ですから不要なのです」
「…………わかった。では、この部屋で着用してくれ。わたしが個人的にプレゼントするから」
「かしこまりました」
こうして、無事に初日の午前中はセレスティーヌの勝利となった。
俺は結局何も出来ないままの残念夫だ。
「セレスティーヌ、よかったらこれを受け取って欲しい」
それでも、勇気を出して用意してみた。
「……どうして」
「結婚指輪。式は挙げられないけど、これくらいはプレゼントしたかったんだ」
俺は剣を握るのに邪魔になるから鎖を通して首に掛けている。
「左手、出して?」
華奢な手だな。少しドキドキしながら薬指にはめる。よかった、ピッタリだ。サイズはお世話係のメイドに聞いたけど、少し心配だった。
「ん。似合ってる……と、思うけどどうかな」
一緒に見に行く事は出来ないから勝手に選んでしまった。イメージを伝えて店員さんと悩み抜いたんだけど。
「なぜここまでしてくださるのですか?」
「え、だって俺の奥さんだし」
駄目だっただろうか。だって形だけだろうが結婚は結婚だろ?女の子は憧れるんじゃないの?
「……すごくうれしい」
あっ!
「俺も凄く嬉しい!」
「なぜ貴方が?」
「だってさ、あの時の笑顔がもう一度見たいって思ってたんだ。今、その願いが叶った」
あの、踊っていた時みたいな幸せな笑顔が見れた。それだけで、この後も続くであろう団長の特訓にも耐えられる気がする。
「あの時って?」
「え、デビュタントの──あっ、」
駄目じゃん、嫌なこと思い出させたら!
「どうして?全員を覚えているの?」
「いやいやいや、そんな若い子チェックしてるみたいに言わないで!たまたまっ!なんか凄く笑顔が可愛いなっ~~~っ、違うから。変質者じゃないから!」
何で言うのよ、俺の馬鹿。10歳も年下の女の子をヘラヘラ見てる変態になっちゃったよ。
「ううん、嬉しいの。貴方が汚れる前の私を知っててくれて嬉しいわ」
その言葉に俺はすっごく腹が立った。
「ねえ。俺の奥さんは凄く綺麗なんですけど。どこも汚れてなんかいないし、これからだって何一つ汚れない。
汚れているのはね、酷いことをした奴だけだ」
だからいつかその報いを受けるんだよ。
「……私の夫は格好いいわね」
たぶん納得はしていないだろう。それでもいいよ。何回でも伝えるから。
「だろ?」
たぶん、明日からはこんなふうに気軽に離せなくなる。だから今日で最後だ。
「俺は力が足りなくて何も出来ないけど、セレスティーヌが頑張って戦う姿をちゃんと見てるから。一人じゃないから」
こんなことしか言えなくて本当にごめん。
「そうね。一人じゃないから頑張れるわ」
ほら。セレスティーヌはやっぱり綺麗じゃないか。あの時よりももっと綺麗になったよ。
「やっぱり俺の奥さんは綺麗だ」
「……馬鹿ね」
こうして、最後の1日が終わった。
「待っていたよ、セレスティーヌ」
「本日より愛妾として仕えさせていただきます。よろしくお願い申し上げます」
「ずいぶんと堅苦しいな。まぁいい。おいで」
まるで俺に見せつけるように彼女を抱き寄せる。
「ああ、やっとだ。今日の為に公務は全て終わらせた。これで一日中一緒にいられる」
昼間っから押し倒さないでね。
節度ある大人の対応をお願いしますっ!
「大丈夫、怯えないで。今日はのんびりと過ごそう」
お、さすが王様。エスコートはとてもスマートですね。
いきなりベッドじゃなくてよかった。
「甘い物は好き?」
「はい」
「チョコレートは好き?」
「はい」
「紅茶はストレートとミルクどちらが好き?」
おい。絶対に今、好きって言葉を言わせようとしてるだろう。子供か。ウザいんですが。
「契約書第4項を履行致します」
「ん?4項って何かな」
「……」
「セレスティーヌ?」
「……」
「私が何かしたかい?」
「……」
「おーい」
「……」
あ、やっぱり不快だったのね。
凄いな、開始3分でもう無言を貫くとは。
「……トリスタン。契約書第4項とは何だ」
「は。会話において不満や不快と感じる時は無言で返答することを許す、という内容です」
「今の会話のどこが?!」
「……」
「お前に無言の権限はない。さっさと答えろ」
「……好き、という言葉を強要されていると感じたのではないでしょうか」
あれ?セレスティーヌが無言になると、俺が答えることになるのか?
思わず彼女を見ると、クスッと微笑まれた。
俺の奥さんは小悪魔だ!
「いや、そんなつもりはなかったんだ。つい、君が側にいるのが嬉しくてアレコレと聞いてしまったんだ」
陛下は今の笑顔を見なかったらしい。残念でした。
「いえ。勘違いをして申し訳ございません」
「許してくれてありがとう」
チュッ、と頬に口付ける。
……くそ。こんなのをずっと見なくちゃいけないのかよ。というか見せ付けるな。見られて喜ぶ変態め!
それでも護衛は常に警戒するべきは周囲であり、警護対象の生活には関与してはいけない。
大丈夫。今までだって王妃様との軽いくちづけとか、平気で見てきただろう。
「そういえば、この服は支給品かい?」
「はい」
「そうか。清楚でいいけれど、少し物足りないね。今度、私の色のネックレスとイヤリングを送るよ」
そう言って、チラリとセレスティーヌの左手を見る。どうやら結婚指輪がお気に召さなかった様だ。
「契約書第10項をご確認下さい」
「ん?」
「契約書第10項をご確認下さい」
「………トリスタン?」
「は。宝飾品やドレスなどの贅沢品は国庫からは一切出さない、という内容です」
「は?!どうして!」
「同じく第10項に、食事や生活用品は一般的な侍女と同じとする、と記載されております。ですので議会においてその様にご愛妾様の経費が計算されていると伺っております」
「な………」
おい。契約書をちゃんと読んでいないのかよ。
「セレスティーヌ、どうしてそんな内容にしたのだ!」
「不要だからです」
「いや、必要だろう!」
「何故ですか?では、私は美しいドレスやアクセサリーを身に着けて夜会等に参加しても良いのでしょうか」
「駄目だ。愛妾である君を夜会でエスコートは出来ない。美しい君を他の男に見られるのも許せない!」
「……ですから不要なのです」
「…………わかった。では、この部屋で着用してくれ。わたしが個人的にプレゼントするから」
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こうして、無事に初日の午前中はセレスティーヌの勝利となった。
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