ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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18.嵐の前の

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「愛しているよ、セレスティーヌ」

ストレートに愛を囁いたり。

「どうしてそんな男の名前を呼ぶんだ!お前もだ、トリスタン!今後セレスティーヌの名前を呼ぶことを禁じるっ!!」

嫉妬深い男になったり。

「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」

懇願したり。

「今日も綺麗だね、セレスティーヌ。君の美しさはこの薔薇さえも恥ずかしさに消えてしまうだろう」

意味不明な褒め言葉を使ってみたり。

「……………」

最近の陛下は色々なパターンの恋人?を試しているらしい。これも笑顔を引き出す為なのだろうか。
だけど、セレスティーヌはそれが不快なようで、ここ数日ずっと無言で通している。どうしても話さなくてはいけない時は俺を通して陛下に伝えさせる。お陰様で俺の休日が無いような気がするのは気のせいではないと思う。

「あれ、これも駄目か。トリスタン」
「はい」
「はいじゃない。お前の役目は?」

……いえ、私はただの護衛です。通訳では無いのですよ。知ってますよね?

「あのですね、なぜ陛下は演技をなさるのですか?」

だってさ、色々やってるけど結局は演技だ。それってどうなの?俺だったら本気の言葉を貰った方が心に響くし嬉しいけど。いや、たまにストレートに愛しているとは言ってるか。

「演技?」
「本心が見えないといいますか」

はっきり言って胡散臭いです。

「本心?私の?」
「はい」
「だって無駄だろう。必要ないよ」
「……は?」
「お前は最近生意気だね。私は友人か何かか?」
「……大変申し訳ございません」

いやだってさ、本心は無駄だっていう意味が分からない!

「セレスティーヌは難しいなぁ。さてと、そろそろ会議の時間だ。行ってくるよ」
「…………」
「どうやらその口は喋る用では無いらしい。挨拶すら出来ないなら別の用途に使おうか?」

そう言って顔を近付ける。挨拶しないならキスするぞという脅しだ。

「……いってらっしゃいませ」
「うん、いってくる」

久しぶりの挨拶に陛下が嬉しそうに笑うと、セレスティーヌ頬にそっと口付けた。

「!!」
「挨拶を無視した罰だよ」

不快を顕にするセレスティーヌの頭をクシャッと撫でつける。本当に嬉しそうに。
それは俺が仕えるようになってから、セレスティーヌに出会う前には見ることの無かった笑顔だ。
陛下がセレスティーヌを愛しているのは真実なのだろうと、その笑顔を見ると伝わってしまう。そんな顔。だから余計に分からなくなる。
なぜ、あんなに酷いことが出来たんだ?

俺なんかが陛下の本心を知ろうなんて無理なんだろうけど。




あれから、まるで何事も無かったかのように日々は過ぎていった。王妃様とはお互いに笑顔で会話をし、団長とも警備の最終確認を。建国記念式典まであと3日となった。

「明日には各国の大使や国賓の方々が到着される。それぞれ担当する人物だけでなく、侍従や護衛等の顔、名前、特徴も覚えろよ」

まさに嵐の前の静けさといった感じ。
駄目だ。そういうことを言っていると絶対に何かが起きるのだから。





「陛下、少しよろしいでしょうか」
「ビニシオ。珍しいね、お前が話しかけてくるなんて」

………ほら。来ちゃったんじゃないの。

「……パーティーに陛下の愛妾が出席するとは本当ですか?」
「お前は情報管理が出来ていないね。もう少し早くに知れるように側近達の教育をしなさい。命取りになるぞ」
「そんなことを聞いているんじゃない!」

以前はこんなにギスギスしていなかったのに。
陛下がセレスティーヌを囲ってからすっかりと敵認定されてしまった。

「困ったね。感情の制御すら出来ないのか」

それ以上煽らないで下さい!

「……何故貴方は恥ずかしげも無くそんなことが出来るんだ!母上に申し訳ないと思わないのか?!」
「どうして?別に私がエスコートして歩くわけでは無いし、愛妾に対するルールは守っているよ」

確かにね。愛妾をエスコートするのはルール違反だけど、愛妾が公的な催しに参加することは認められている。だって本来愛妾は役職名であって立場は一応夫の妻。何らはばかることの無い立場だ。
調べたところ、他国でも愛妾持ちはいるし、何なら堂々と隣に侍らせている国もある。だから、国賓の多い今回のパーティーでも特に問題にはならない。

「どうやらお前は勉強不足のようだ。もう少し精進しなさい」
「……私は貴方のようにはならない」
「成れないでは無く?」

やだー親子喧嘩を目の前で繰り広げないで!

「貴方のように妻以外に手を出す様な汚い人間にはならないと言っているんだっ!」

ごめんね、俺ですらキツイと思うのに、自分の父親だもんな。まだまだ潔癖な年頃だろうし。

「ではお前は王太子として考え直さなくてはいけないかもしれないね」
「……何?」
「もしお前に子が出来なくても、側妃を持ちたくないと言うことだろう?王になるならそれは困るんだよ」
「それとこれとは違うだろ?!側妃は妻だ!愛欲以外に何も役に立たない愛妾とは違うっ!!」
「素晴らしい。妻なら何人でも愛することが出来るのだな。もちろん、お前の婚約者には理解が得られているのだろうね?」
「それはっ、理解しているはずです」

……何だろう。この腹立たしい感じ。
どちらにも苛立ちしか感じられない。頑張れ俺。抑えろ。

「だそうだよ。トリスタン、何か意見があれば正直に言って構わない」
「!」

どうして………どうしてこの人はっ!!

「……王太子殿下にお願い申し上げます。私の妻をおとしめる発言は控えて下さるとありがたいです。彼女は与えられた職務を全うしているだけですので」
「…っ、」
「セレスティーヌも、国の為に頑張って働いている国民の一人だと理解して下さると信じております」

そうだよ。この王宮で与えられた仕事を頑張っているだけだ。侍女やメイド達と何ら変わらないんだ!

「……すまなかった」
「ありがとう、トリスタン。行こう」



ただ、静かに廊下を歩く。先程の会話が頭から離れない。なぜ彼女が責められる?そうしたのはアンタ達だろうに。

「不満そうだな」
「……はい」

素直に返事してしまった。だって全部全部この人のせいだ。

「私にも言わなくてよかったのか?」
「陛下はもうご存知でしょう」
「どうだろうね」
「……後悔はしていないのですか?彼女を暴行したこと。何故あそこまでしないといけなかったんですか!」




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