ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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19.水面に映る月を (再投稿)

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「お前には分からないよ」

さも当然のように優しく微笑む。

「言葉を伝えたら分かり合えると思っているのかい?それは幻想だ。美しいだけの幻だよ」
「そんなこと!」

まるで幼子を諭すように紡がれる言葉。

「同じ言葉でも発する人によって伝わり方は違う。また、受け取り手によっても何通りもの意味に変わってしまう。その言葉が正しく相手に伝わるなんて本当に稀だ。だから人は諍いを起こす。それが現実だよ」

どうしてそんなことを、そんなに綺麗な笑顔で言ってしまえるのだろう。

「それでも、伝える努力をしなければ一生分かり合えません」
「………お前は、水に映る月を必死に掬おうとする猿だな」

さる………猿っ?!

「あっさりと諦めたくせに今頃必死に頑張って。よく分からないな。もっと早く……、嫌、無理か」
「何を言って」

俺が諦めた?何……セレスティーヌ?

「俺は……」

確かにあのデビュタントの日。俺は何もせずに諦めた。もしあの時、諦めずにセレスティーヌに声を掛けていたら?
──いや、そんなの今更だ。どれだけ考えても変えることは出来ない。それでも。

「そうですね。俺は諦めるべきではなかったのかもしれません。でも、だからこそ、今度は絶対に諦めたくありません」

陛下に宣戦布告する俺は頭がおかしいのだろうか。力も無く口先ばかりだ。それでも覚悟は伝えたい。

「お前の世界は美しいのだろうね。今までもこれからもずっと」

どういう意味だ?どうしてそんな笑顔で……

今日の陛下はいつもと少し違う。何か、大切なことを伝えてくれている気がするのに、どうして俺は理解出来ないんだ。もう少し、あと少しで──

「はい、時間切れ。今日はご苦労様。明日もよろしく頼むよ」

いつの間にか陛下の私室に着いてしまった。引き継ぎを待つ同僚が立っている。

アンタこそ水に映る月みたいだ。手が届きそうなのに絶対に届かない。そんな存在。陛下の心が知りたいだなんて不敬でしか無いのだけど。

「それでも、俺は諦めたくありません」
「お前は本当に馬鹿だね。お猿さんはさっさと山におかえり」

そう言うと、もう興味を失ったかの様に振り返ることなく部屋に入って行かれた。






自室に戻ってベッドに転がる。

今日は月が明るいな。

手を延ばせば届きそうな、でも絶対に触れることはできない美しい月。それは───セレスティーヌ?

でも、陛下はセレスティーヌを手に入れたじゃないか。それとも、体だけではなく心も欲しいのか?
それならどうしてあんなに酷いことをしたんだ?

もし俺が誰かを、セレスティーヌを無理矢理───駄目だ。想像すらしたくない。
俺は故意に人を傷付けたいと思ったことなんか無い。

だって傷付けばたとえその傷が治っても傷跡が残る。それは完全には癒えていないということだ。その傷跡が消えるまでにはどれ程の歳月が必要なのか。

それでも傷付けたかったのは何故だ。

「忘れられない存在になりたかったとか?」

でもなぁ、国王なんて忘れようも無い人間だろう。

「もー、分っかんないな!どうして俺がこんなに悩まないといけないんだっ!!」

いかん。最近ひとり言が増えた気がする。ヤバイ人になってないか?ヤバイ陛下の事で悩み過ぎなせいなのか。

分かっていることは、陛下がすべてを諦めていること。
言葉が伝わらないことも当然だと思っている。

──なぜだ?

これまでの国王としての人生で得た持論なのか。
それは、何だか凄く寂しい考えだ。それでも平然と笑っているのは全てに興味がないから?

『お前の世界は美しいのだろうね』

どういう意味だ。陛下の世界は綺麗じゃないのか?国王として人生を注いで築き上げた国なのに。

今まで何にも興味を得られなかった陛下が初めて見つけた宝物。月の光。それがセレスティーヌだ。
40近いオッサンの重い執着に絡めとられた哀れな少女。
だけど、その思いが嘘じゃないことだけは、あの場に居合わせた俺は知ってしまっている。あの時だけは絶対に演技じゃなかった。それ程の熱量だった。

「好きなら大切にしろよ」

結局ここに行き着く。なぜ傷付けた。どうして愛する人を泣かせるんだ。
俺には絶対に理解出来ないよ。






──────────────────────

申し訳ありません。誤操作で削除してしまった為、書き直ししました。バックアップを取っていないので思い出しながら書いたのですが、確実に違う自信があります(泣)
記憶力の無さが憎い……
だいたいの流れは同じかと。前の方がよかったと思われたら本当に申し訳ありませんが、ちょっとした味変だと思っていただけると幸いです。



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