ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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29.その罪の名は

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薬を飲んだあとも中々熱が下がらず、意識が戻ったのは5日後のことだった。

「アロイス!」
「……アンヌ?っ、グッケホッ」
「待って、お水をっ」

吸い飲みから少しずつ水を含む。よかった、生きてる!
侍従が慌てて医師を呼びに行った。

「よかった、もう目覚めないかと……」
「泣いているのか?馬鹿だなあ」
「貴方にだけは言われたくないわ!……ねぇ、見えてる?」

王妃様が恐る恐る聞いた。

「案外ね。もっと真っ暗かと思っていたけど、明暗は分かるし、多少物の形も分かる。ラッキーかな」

……それは、日常生活すら厳しいレベルだ。

「……あの駄犬を処分して」
「駄目。まだ話を聞いていないし」

焦点の合わない瞳。どうしてそんな目に合わされて笑っていられるんだ?

「……診察が先よ」
「はいはい」

診察の結果、視力低下だけでなく、右手にも痺れが残っている事が分かった。

「でも、感覚はあるし物も掴める。問題無いよ」

陛下だけがあっさりと現状を受け入れているけど、王妃様含めご家族はまだまだ冷静にはなれない状況だった。

「看病してくれてありがとう。もう大丈夫だから君はゆっくり休んで。ビニシオ、アンヌを頼む」
「……分かりました」

セレスティーヌのことがあってから、ずっと疎遠になっていたお二人だ。陛下はまだしも王太子殿下は未だ複雑なのだろう。それでも、母君である王妃様の憔悴した姿に放っておくことも出来ず、殿下ご自身もこの5日間とても心配していたのに、何ともぎこちない返事だ。

「ブルーノとブラスを呼んでくれ」
「すぐに来るでしょう。陛下が目覚めるのをずっと待っていましたから」
「そうか。最後の仕事をしないとね。あ、お前はトリスタンか」
「……はい。猿のトリスタンですよ」

俺のそんな言葉に陛下がクスリと笑う。
あまりに柔らかな雰囲気に、ただ、午睡を楽しんだだけのように感じた。

「セレスティーヌはどうしてる?」
「伝言は伝えました。陛下に会いたいと言っていましたよ」
「そう。喜んでた?」

…………本当にこういう所!

「セレスティーヌは悪魔か魔女ですか。人の不幸を喜ぶはずないでしょう!」
「ああ……うん……そうか、悪かった」
「……いえ、こちらこそ申し訳ありません」
「一度くらい喜ばせたかったんだけどな」
「陛下は本当にズレてますね」
「お前は本当に生意気になったな。私がまだ国王だと知っているよね?」

って。どうして──いや、分かってるけど!

「一人で決めると王妃様が悲しまれます」
「おや、トリスタンの攻撃力が上がったな」
「少しでも効いたなら良かったです」

暫くして団長と隊長が来た。 
隊長の頬の痣はまだ消えていないし、唇の傷も治りきっていない。陛下が気を失ってから団長がぶん殴った痕だ。

「陛下、体調は如何ですか」
「問題無いよ。それより報告を頼む」
「……本当に見えていないのですね」

見えていたら、殴った痕跡を見て何か言うはず。

「ん?もしかして何かあったか?」
「いえ、大したことはありませんので。まずはベレニスは現在貴族牢に入れてあります。尋問も開始しておりますが」
「尋問?必要ないだろう。証拠がしっかりしているなら早くに処罰しろ。以前、私が貰ったお茶でも振る舞えばいい。きっと喜ぶ。
レアンドロはどうしている?」
「意外なことに大人しくしています」
「後継者教育を急ぐように伝えて。第二子のレイモンだ。それが唯一生き延びられる道だと伝えろ」
「かしこまりました」

怖いわー。お茶って毒入りのことだよね?
公爵は命は助けるから早くに隠居しろってことだよな。この人がこんなにハッキリと誰かの命を奪う命令をするのを初めて聞いた。………王太子殿下の為か。今後困らないように。

「プレヴァンからは礼状が届いております」
「これで恩が売れたな」
「宰相からは苦情が来てますよ」
「ん?うちのか?」
「はい。事後報告はお止め下さいとのことです」

プレヴァンとの同盟の件かな。もしかして宰相も誰も知らなかったのか。

「仕方がない。当日までどの程度のことをやらかすか分からなかったんだ。まさかあそこまでやられるとは思わなかった。おかげで完全に潰せるから良かったけどね」
「……何も良くないですよ。いい加減ブラスを処罰して下さい!もう少しでアンタは死ぬところだったんですよ!」
「そうだなあ。聞かないと駄目だよね」

なんでそんな反応なんだよ。もしかして、理由を知るのが怖いのか?だって数少ない友人だって……

「ブラス」
「はい」
「ブラスは……私のことが憎かったのか?」




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