ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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30.誰が為の贖罪か

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「俺はお前の為に生きると言っただろう。もう忘れたのか?」
「私を嫌っていたわけではないのだな?」
「嫌っている奴の為に働く気は無いぞ」
「……なら、いい」

なんだよ。本当に怖かったのか。ちゃんと心があるじゃないか。ただ、気付いていなかっただけだ。

「待てよ、何も良くないだろう。そいつは国王を暗殺しようとしたんだぞ!」
「殺す気など無い」
「視力を失っただけだと言いたいのか?こいつは!もう、ずっと霞んだ世界で生きていかなきゃいけないんだぞっ!!」
「仕方がない。お前達が皆でコイツの罪を隠したのだから」

なに……罪を隠したから?

「……セレスティーヌのことか」
「そうだ」
「だが、王妃様は陛下の為に!」

そう。あの時は騒ぎにならない様に仕方なく……

「こいつの為?違うだろう。国の為であり、ひいては自分達の為に隠したんだ。
そうして罪を隠しておきながら、陰ではお前が悪い、最低だ人でなしだと罵るののし。だが、表では善良な国王として働き続けろと言う。
酷いのはどちらだ?罪を突き付けるくせにあがなわせはしないだなんてそれこそ最低の行いじゃないのか。
そのくせ、罪の証であるあの女は与えるんだ。どんな地獄だよ。
だから俺が贖罪のチャンスを作った。アロイスは喜んで己の目を捧げた。贖罪とは罪を犯した人間が救われる為のものだ。誰にも文句は言わせんよ。
コイツは立派に妻の為、息子の為、国の為に耐えた。視力を無くしたこいつが退位して野垂れ死にしてもお前達は何も困らない。これでお前達も満足だろう」

罪に問われない陛下が狡いと思っていた。だけど、違ったのか。罰せられない方がよっぽど……
そうしてセレスティーヌを与えられる。どうせ心の無い陛下は楽しんでいると思っていた。だからずっと……いや、陛下が正式に愛妾に迎えてからセレスティーヌを抱いたのは初日だけだ。それ以降は、ただ、揶揄って楽しんでいるのかと思っていた。

だけど……陛下に心はある。

だってセレスティーヌを愛した。セレスティーヌの家族を思い遣っていた。友人に嫌われることを恐れた。

罪を犯したのは本当に陛下だけなのか?


「ブラス、お前は馬鹿だな。私が命令を出す前に意識を失っていたら、お前は殺されていたのかもしれないんだぞ。忠誠心はありがたいが、もっと自分を大切にしてくれ」
「違う。これは、俺の贖罪でもある。だから本当は殺されて良かったんだ」
「お前の?」
「……ああ。あの女がああまで頑なになったのは俺のせいだ。俺が……正しく伝えなかったから」
「ブラス。例え何があったとしても間違えたのは私だ。お前に罪など有りはしない……」
「待て、気分が悪いのか」
「……少し」

5日も意識が無かったんだ。まだ休養が必要に決まっていたのに。

「すまん、話はまたにしよう」
「ん、悪い……」

そう言うと、あっという間に眠りに入る。かなり無理して話していたようだ。

「ブラスはアロイスを守るのだったな」
「ああ、昔決めただろう」
「罪を犯しても?」
「だから償わせたかった」
「……悪い」
「悪くない。お前は『国王』を守る人間だから。ただ、一人くらい『アロイス』の味方がいてもいいだろう?」

そうだな。誰も陛下の味方などしなかった。だって咎人だ。だけど……。

「ありがとう。あいつを守ってくれて」
「殴ったくせに?」 
「あれも必要だったからな」 
「フンッ」

たった一人だけの陛下の味方か。

「お前の罪は何だ?」
「……まだアロイスに言えてない」
「真面目か」
「あの女には言った」
「セレスティーヌ?」
「そう。あのじゃじゃ馬だ。そもそもアイツだっておかしいからな」




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