推しが死んでショック死したけど、目を覚ましたら推しが生きてる世界に転生したんだが?~せっかくなので、このまま推しの死亡フラグをへし折ります~

八雲太一

文字の大きさ
18 / 32

18話 爆ぜる気持ち

しおりを挟む

 ダンジョンへ向けて駆ける最中、ノルくんが落ちこんだように下を向いた。

「ごめん。俺、冷静じゃなかったよな。いつも応援してくれてるみんなのことを怒鳴るなんて」
「ノーブル……」

 ノルくんの気持ちは痛いほどにわかる。
 一緒にいた時間が長いからこそ、グラさんも言葉選びに悩んでるみたい。

「なに言ってるの? あそこで怒らなきゃ、ノーブルじゃないよ」

 私の口から、言葉が出てきたのは本当に自然なこと。
 グラさんも、ノルくんでさえ目を丸くしてる。
 うん、私だってびっくりしてるもん。

「ノーブル、あなたはサグズ・オブ・エデンに憧れて冒険者になった。そうだよね?」
「ああ、そうだよ」
「そんなに大事な人たちを目の前で蔑ろにされたんだよ? 今日だけでなく、これまでに何度もね」

 ここ数日、ずっと。
 誰かに操られてからというもの、バドさん含めサグズ・オブ・エデンのみんなが街の人から攻撃対象になる機会が増えた。
 その出来事は、私でさえ気持ちのいいものじゃなかったもの。

 それが、ノルくんだったらどうだろう。
 絶対に、私以上に不快だったはず。

「今まで溜まり続けてたフラストレーションが、たまたま今日爆発した。ただそれだけの話だと思うの」
「コヤケさん……」

 私の言葉を聞いて、ノルくんは驚きと安堵がまざったような顔で私に視線をくれた。
 私の気持ち、届いたみたい。
 それはグラさんも同じだったみたいで。

「まさか、コヤケさんに発破をかけられるなんて思ってもみませんでしたよ……。まあ、誰にだって触れられたくない部分や、繊細な部分があるということです。それに、あなたが本当にいかるべき相手は他にいるんじゃないんですか?」
「……! そう、だな」

 バドさんが言っていた、裏で高見の見物をしている誰か。
 サグズ・オブ・エデンを陥れて、最終的にはノルくんの命を奪おうと狙っている今回の黒幕。

「ええ、そうです。だから、そんな奴らは全員ぶっ飛ばして平和を取り戻しましょう」
「なんていうか、お前にしては珍しい言葉選びだな」
「ええ。だって、今の言葉は全てコヤケさんが言っていたことですから」
「わ、私!?」

 思ってもない方向から火が飛んできてびっくり。
 多分、グラさんなりにこの場を和ませようとした結果だと思うけどね。

「あなたも気張らなければいけないんですよ? 今回のダンジョン攻略、間違いなく正念場なんですから」

 そう、ノルくんにとって大きな敵だけど、それは私にとっても同じこと。
 目的はわからないけど、ノルくんの命を奪おうとした犯人。
 その人を倒すことが今、私がこの場所にいる理由。

 なにも話していないのに、グラさんは私にとって大事な戦いになることを悟ってた。
 ほんと、どこまで察しがいいの……。

「……は、はは! ほんとにその通──」

 返事をして、言葉と一緒に一歩踏み出そうとしたときだった。
 私たちの足元に、魔法陣が展開された。

「はい、到着です。そんなことでウジウジしている暇があったら、さっさとダンジョンを攻略するエネルギーにしてくれません?」

 再び目を開いたとき、私たちはダンジョンの前まできていた。

「お前な……。先に言えよ……」

 いつも振り回されがちなグラさんだけど、たまにこうやって私たちに仕返しをする。
 もちろん、仕返す気持ちもあるんだろうけど、今回は違う。

「まあ、でも──」

 迷って、気持ちの定まらないノルくんを鼓舞するためのもの。
 まあ、やり方がむちゃくちゃなのは突っ込みどころだけど。

「──おかげで、いい喝が入ったよ」
「そうでしょう? 感謝してくれたっていいんですよ」
「このダンジョンから無事帰れたら、いくらでもするよ」

 いつも通りのやりとりに、思わずほっこりしちゃう。うん、いつものふたりだ。
 すると、ノルくんの視線は私の方へ。

「コヤケさんも。ありがとな、おかげで元気出た」
「う、うん! これぐらいお安い御用だよ。いくらでも頼って?」

 私の言葉に笑みを浮かべ、視線を前へ。
 一度大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。
 眼前にはダンジョンの入り口。

 見ている私たちを吸い込んできそうだった。
 正直、ものすごく怖い。
 だって、みんなが恐れて攻略をためらうようなダンジョンだよ?
 そこに、私たち三人で行こうってなってるんだもん。

 ふたりとダンジョン攻略ができることはすごく嬉しい。
 でも、この世界に来てまだ日が浅い私が今、最強に難易度に高いダンジョンへ向かおうとしてるんだもん。
 原作を知っているからこそ、一層恐怖を感じるっていうこともあるのかもしれない。

 ──それでも。

 私は、絶対に負けられない。
 相手はノルくんの嫌がることを、なにひとつわかってないんだよ?
 そんな奴に、絶対負けないんだから……!

「──よし! 行くぞ!!」

 全てを吹き飛ばすように、ノルくんが声をあげる。
 先頭を歩くその背中は、本当に頼もしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...