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17話 悲しい覚悟

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「今日はやけに機嫌がいいですね。なにかあったんですか?」
「べっつに~。なにもないよ~?」

 本当はめちゃくちゃいいことがあった。
 昨日ノルくんの過去を聞いて、私の目的を再認識することができた。
 絶対に、ノルくんは私が守ってみせる。

 死亡フラグを全部へし折って、みんなが幸せになる世界線を作るんだ。

「お、ギルドが騒がしいな」

 そんなわけで、今日もダンジョン攻略をするために冒険者ギルドに向かってたんだけど……。 
 ノルくんが言う通り人だかりができて、なんだかすごく騒がしい。

 ……嫌な、胸騒ぎがする。

「お、俺のダチがダンジョンに行ったまま帰って来ねえんだ! 戦えねえのに、なんだってあんな場所に……!」

 ふと、そんな声が聞こえてきた。
 この声は確か……昨日、私たちを悪者扱いした大工のおじさんかな。
 と、いうことはこの人の友だちってことは、昨日彼のことを心配してた鍛冶屋のおじさんのことかな。

 取り乱して、うまく言葉がまとまらないみたいだったから私が代わりにまとめてみるけど。

 今日ふたりとも仕事をして、休憩がてらお昼ご飯を一緒に食べてたんだって。
 そんなとき鍛冶屋のおじさんの様子が、急におかしくなったみたい。

 目が虚ろになって、ぼそぼそと呟きながら歩き始めたって。
 どれだけ止めても止まる様子を見せなくて、そのまま向かったのがダンジョン──しかも〝ユナイトダンジョン〟だったってわけ。

 だから誰か助けてほしい、っていう話になったんだけど、誰も取り合おうとはしなかった。

 決して、大工のおじさんを見捨てるわけじゃなくて、行きたくても行けないんだよ。
 ユナイトダンジョンといえば、数あるダンジョンの中でも攻略難易度が段違いに高い。

 私たちが潜っていたダンジョンとは比べ物にならない。
 出現する魔物だって、並の冒険者が太刀打ちできる相手じゃない。
 ここにいる冒険者の中で、挑めるパーティーがどれだけいるんだろう。
 
「俺、あの人のことを見捨てられない」
「あなたならそう言うと思いました。当然そのつもりで腹を括ってましたよ、私は」

 うん。それでもね、ノルくんはそういう人なんだよ。
 無茶でも無謀でも、一度決めたら自分の意思は絶対に曲げない。
 そういうところに、私は惹かれたんだもん。
 きっと、それはグラさんだって同じはず。

 ノルくんが私たちに頷き、一歩踏み出した瞬間だった。
 その歩みは何者かの手によって阻まれた。

「こういうことは俺らの専門だろ?」

 颯爽と現れたのは、バドさん率いるサグズ・オブ・エデンの面々だった。
 驚くノルくんに振り返ることなく、バドさんはそのまま大工のおじさんの方へと歩いて行った。

「……いったい、どういう風の吹き回しなんだ?」

 昨日、濡れ衣を着せられたバドさんが、ダンジョン攻略を引き受けるって言ってるんだもん。
 大工のおじさんとしてはなんで……って話かもしれないけど、それでも動いちゃうのがバドさんなんだよ。

「どうもこうもねえっての。そのダンジョン攻略、俺らサグズ・オブ・エデンが引き受けるって言ってんだ。誰も行ったことない未開のダンジョン、どんな魔物がいるかもわかんねえときてる。いいじゃねえか、ゾクゾクすらあ」

 相変わらず、軽い調子で言葉を並べていくバドさん。
 後ろにいるサグズ・オブ・エデンメンバーだって、否定する素振りすら見せない。
 それどころか、全員楽しみにしてるみたいだった。

「それに、俺らが死んだって誰も文句は言わねえ。そうだろ?」

 これは、本心で言ってる言葉じゃない。
 家族を大事にするバドさんのことだもん。

 きっと、確実に自分たちがダンジョン攻略へ向かえるようにするためについたウソ。
 バドさんの言葉を聞くのが、本当にすごく悲しい。

 ただ、私よりもノルくんの方が何倍も辛いはず。
 だって、推しが目の前で自分の身を犠牲にしようとしてるんだよ?
 私だったら絶対に耐えられない。

「よう」

 バドさんはいつものように私たちに話しかけきた。
 私とグラさんに視線を送り、最後にノルくんの方へ。

「ノーブル、お前が命張ることねえんだ。ここは俺らが行くからさ」
「バドさん……」

 すがるように、ノルくんが声を漏らした。
 きっと言葉にならないんだよね。
 今、なんて声をかけたらいいのかわからないんだよ。
 だから色んな思いを乗せて名前を呼んだんだと思う。

「お前が俺らのことリスペクトしてくれたの、死ぬほど嬉しかった」

 バドさんから告げられたのは、感謝の言葉だった。

「じゃあな」

 まるでそれは、別れのあいさつを告げているようで。

 〝またな〟じゃなくて〝じゃあな〟。
 その、次がない言葉に、バドさん含めサグズ・オブ・エデンのみんなが覚悟を決めているように感じられた。

 私たちはただ、バドさん率いるサグズ・オブ・エデンの背中をただ見つめることしかできなかった。
 このまま引き留めてしまえば、バドさんが示した男気を踏みにじることになってしまう。
 
「……ッ!!」

 だから、ノルくんは拳を握り肩を震わせた。
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