婚約破棄された私は【呪われた傷跡の王子】と結婚するように言われました。

微笑みの約束

メアリーはジョロモを睨みつけながら声を絞り出した。

「それでは。じゃあ、ジョロモ様は、私のことを決して好きになってくれないんですね」

感情があふれて止まらなかった。
た。

「私はたとえ身分が違っても、見た目がどうでも、愛のある家庭を築きたいんです…っ！」

彼女の中で長年押し殺してきた“願い”を思わず口に出していた。

「それなのに、あなたは最初から、私を“お飾りの妻”としてしか扱うつもりがないと、おっしゃるじゃないですか！
だから、アルバー様の無礼を償おうなんて思わなくて結構です！」

そう言い終わった瞬間、メアリーは自分でも驚くほど胸が熱くなっていた。

一方、ジョロモは目を見開いたまま、言葉を失っていた。
しかしメアリーの予想に反して、ジョロモはわずかに表情を和らげて初めて、微かに笑った。

「……すまなかった。君は私に似ているんだな」

「どういうことですか？」

メアリーは、強く聞き返した。

「私も本当は、愛情を求めていたのかもしれない。けれどこの見た目のせいで、それを諦めていたんだ」

ジョロモは、ゆっくりと自らの傷に触れた。

「両親でさえ、私ではなく、美しいアルバーの方ばかりを見ていた。
私が使用人に勝手なことをする弟を諫めても、『醜いお前が嫉妬しているだけだ』と、そう言われた。
それで私は誰かに期待すること自体を、やめてしまっていた」

「え…？」

メアリーは息をのんだ。
この国の第一王子が、自分と同じように“愛されなかった子ども”だったのだ。

「だから、さっきのことは撤回させてくれ。
偽装結婚ではなくて私と、少しずつでいい。
仲良くしてくれないか？」

ジョロモは照れた様子で真っ直ぐにメアリーを見つめた。

メアリーは、はっと息を吸い込み、ゆっくりと頷いた。

「…はい。よろしくお願いします」

そう言った瞬間、胸の奥から温かいものがじんわりと広がっていった。

（これはたぶん、はじめて“本心”で誰かと繋がった瞬間なのかもしれない）

メアリーはそう思った。