夢の続きの話をしよう

木原あざみ

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第十三話

73.

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「おまえ、最近、折原を避けてないか?」

 中学の最後の年だ。疑問形で尋ねながらも、富原の中でそれが確信になっているのは間違いなかった。寮の部屋で課題を解いていた手を止めて、顔を上げる。

「なんで?」
「なんでも何も、避けてるように見えるから。キャプテンとして聞いているんだが?」
「……」
「おい、黙り込むな。佐野」

 困ったように言われてしまったが、答えようがない。答えようがない、と言うか、言えるわけがない。

 ――上級生を殴った理由を聞きに行ったはずが、なぜか俺がキスをしそうになっただとか。絶対、言えるわけがない。

 むしろ、白状して物理的に距離を置いた方が良いのだろうかとも思ったが保留にする。さすがに内容が内容だ。反応を見るのが怖い。

「べつに、何をどうってわけでもないけど」
「何をどうと言うわけでもないが、なんだ。折原も折原で、やたらおまえに気を使っているように見えるんだが」
「ちょっと。その、……喧嘩をしたわけでもないんだけど」
「おまえとあいつだったら、喧嘩にならんだろう。体罰になる」

 ごもっともだ。もっと古風なところに比べれば、なんてことのない部類だろうが、それでも体育会系だ。おまけに、サッカー部寮で居住している。ある程度以上、絶対的な上下の関係はある。

 ――と言うことは、いや、あれも、一種の、ハラスメントじゃ。

 違う意味で溜息を吐きたくなってきたが、俺よりずっと吐きたいのは富原であり、折原だろう。

「大丈夫」

 だから、そうとしか言いようがなかった。

「もし、あれだったら、一回、ちゃんと話すし」
「そうか?」
「うん。だから、大丈夫」
「……おまえがそう言うなら、それはそれで任せるが」

 推し量るように俺を見ていた富原が、一拍置いて了承する。

「まぁ、折原は佐野に一番懐いてるから」

 だから、大丈夫だろうと言いたいのか。だからこそ、なんとかしろ、と言われているのか。
 分かった、と頷いて、やる気の削がれたまま、ノートに視線を戻す。

 ――それにしても、と思う。

 それにしても、なんで、あんなことをしたんだろうな、と。
 あんなこと。我に返るのがあと少しでも遅かったら、キスしていた。間違いなく。

 ――俺、ホモでもなんでもないと思ってたんだけど。

 今まで生きてきた中で、そんな風に思ったことはなかったはずだ。もし揶揄ったと言うだけなら、自分でもどうかと思う。けれど、ではそうでなければなんなのだと問われれば、答えられない。

 ――何をやってんだろうな、本当に。

 部活中に態度に出しているつもりはない。となれば、寮内での話なのだろうが、……そうだな、と俺は言い訳を諦めた。
 確かに、この一週間ほど、折原と寮で話をしていない気がする。それは今までの俺たちからすれば、疑問に思われても不思議ではないことだった。
とは言え、わざわざ蒸し返してまで、弁明するのも、なぁ。
 余計な藪を突いてしまうことになりそうで憚られる。……と、思うのもまた、言い訳なのかもしれないが。

 ――と言うか、普通って、そもそも、なんだ?

 ぐるぐると考えてしまうと、もう末期だ。止めた。半ば面倒になってきて、思考を放棄する。

 ――どうせ、あいつは俺の言うことにも決めたことにも、文句言わないし。

 そんな傲慢なことを、考えていた。
 あるいは、当時から根拠のない妙な自信があったのかもしれない。どんな感情なのかはともかく、折原は俺のことを好きだと言う、そんな刷り込み。
 結局、その後、どうしたかと言えば、たった一言、交わしただけだ。

 ――何もなかったよな。

 それだけだ。今と変わらず、自分のことしか考えていないそれだったと思う。と言っても、当時はそこまで思えてすらいなかった。
 折原は、最終的には何も言わなかった。何かを言いそうな雰囲気を感じ取ってはいたけれど。それを良しとしなかったのは俺で、呑み込んだのは折原だった。
 分かってます、と言ったその顔を覚えている。けれど、徐々に、徐々に、滲み出す。
 それに気が付かない振りをすることも、正すこともできなくなって、一線を越したのは、折原が高等部に入ってからだった。一年にも満たない時間だ。その一年にも満たなかった時間が、世界を変えた。
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