夢の続きの話をしよう

木原あざみ

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第十三話

74.

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 秋の風が少し吹いてきたころ、部誌に眼を通しながら監督が言った。

「最近、少し落ち着いてきたみたいだな」

 それが誰のことを指していたのかはすぐに分かったので、俺も小さく笑って頷いた。

「この調子なら、冬は出してやれそうだ」
「夏休みも真面目に出ていましたからね」

 本来はそれが当たり前ではあるのだが、さておいて。本人の心持ちに変化があったのは何よりだ。時枝が上手く介入したのか、一軍の中に入っても、必要以上に浮いている様子もない。

「佐野も気にかけてくれていただろうし、悪かったな」
「いや、俺は本当に、何も――」

 謙遜ではなく否定して、思い浮かんだ顔に、言い換える。

「時枝だと思います」 

 話してみようかな、と言っていた結果は聞いてはいないが、それが悪い方向へは転がらなかったと言うことだと考えていたし、現状を見る限り、そうだったのだろう。

「結局、あいつが一番、気にかけていましたから」
「生徒同士で解決してくれたのなら、何よりだ。ストレスを増やしていたら悪いなとは思ってはいたんだがな」
「嫌いだったわけではないみたいですから」

 昔はあぁじゃなかったと言っていた時枝は、そのギャップに戸惑ってもいたんだろう。
 そして、作倉も。本当にサッカーから離れたかったのなら、深山に来なかっただろう。とは言っても、感情を上手く制御できないまま、こじらせていたのだろうが。
 そう言う意味では、それも、ようやく落ち着いてきたのか。

「間に合うなら、良かったですね」
「まぁ、これが続けば、だがな。状態はそのときになってみないとなんとも言えん」
「怪我なく部活動を終えてくれるなら、本当に何よりですよ」

 怪我に悩まされる生徒は、いつも一定数いる。

「プロからの誘いは、今のところ、来てないんでしょう? 夏も出てませんし。推薦で大学に行くのか、きっぱり辞めるのかは当人次第でしょうけど」
「推薦で行けなくても、大学でサッカーをしているヤツはいくらでもいるしな。そこから大成するヤツもいないわけじゃない」
「そうですね」

 一軍でレギュラーを勝ち取っていても、必ずしも推薦を貰えるわけではない。全国大会に出場したところで、プロの誘いが来るわけでもない。
 けれど、プロになることだけがゴールではない。
 そのことは、この年になったからこそ、強く思うようになったことでもあった。

「ときに佐野」
「はい?」
「おまえ、もう少し、部活の方に関わって見る気はないか?」
「部活、ですか」

 意外と言えば意外だった言葉に、少し考える。そもそも深山に来ているコーチも外部の人だし、監督もそうだ。顧問と言っても、俺は本当に教えたりだとか、そう言ったことは何もしてはいない。

「もちろん、教員の仕事もあるだろうから、無理にとは言えんが。手伝ってくれたら、こっちは助かる」
「そうですか」
「良かったら少し考えてみてくれ。今すぐにどうのと言う話じゃない」

 そう言えば、この人、校長と仲良いんだっけ。着任前から、おまえはサッカー部の顧問だと部活動に呼び出されていた日々が懐かしい。

 ――まぁ、サッカー部のことをよく知っている人間に連絡係をさせるのが楽だったって言うだけだろうけど。

 サッカー、か。
 今更と言われると返す言葉もないのだが。こんな関わり方をするようになるとは、ここに通っていたころの俺は考えてもいなかった。
 考えるも何も、それ以前に、できる気がしない、と言うのが正直なところだ。
 これから勉強していけばできるようになるのかもしれないが、そこまで時間と労力を割いてまでしたいのかどうかとも分からない。
 サッカー部の生徒はそれなりには可愛いとは思うが、それは今こうやって関わっているからだ。担任を持っているわけでもないから、この学園の中で関わり合いが深いのが、時枝たちだっただけで。
 サッカー部だから。後輩だから。そう言った理由で可愛がっていたわけでも、面倒を看たいと思っていたわけでもない。

 ――それに。

 サッカーと言う競技に関わりたいと思っていたのなら、高校三年の時分に、そう言った進路を選択肢に入れていた。

 ――まぁ、そんなこと言っても、あのころはあのころで、今は今か。

 そう思い直して、ほんの少し意外な気がした。
 人間、多少は成長するらしい。過去は過去で今とは違うと。割り切ることが自然とできる。当たり前のことではあるが、その当たり前のことすらできていなかったのが、俺だった。
 学生の間に多少、一緒の空間で過ごしたからと言って、すべてが同じなわけがない。富原は富原で、折原は折原で。そして、俺は俺で。だから、そう言うことなのだろうとも分かっているつもりなのだけれど。
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