明日は明日の恋をする

春野いろ

文字の大きさ
24 / 85
進藤さんの婚約者

ストーリー24

しおりを挟む
「これは社長、偶然ですね」

 一瞬でその場の空気を読んだのか、仕事モードの進藤さんを前に高瀬さんも仕事モードのスイッチが入った。久しぶりに社長と秘書の会話を聞いた気がする。

「それに有栖川財閥の美玲みれい様も……ご無沙汰しております。今日は美術館でデートですか?」

 高瀬さんは進藤さんの横にいる女性に深々とお辞儀をする。有栖川財閥って、それじゃあ彼女が進藤さんの婚約者……。

 私は彼女をチラッと見る。艶のあるふんわりとした黒髪、小顔に大きな瞳……とにかく美人という言葉がぴったりくる。

 そして何より、圧倒的なオーラで存在感が半端ない。進藤さんと並んでいてもとてもお似合いだ。

 私は思わず彼女から目を逸らした。

「高瀬さんお久しぶりですね。ふふ、様付けはしなくていいですよ。今日はお祖父様の付き添いで進藤さんと美術館に参りました」

 なんて品のある微笑み方……彼女が微笑むと背景に花が飛んでるみたい。

「ねぇ進藤さん。そちらの女性はどなたかしら?水沢さんと仰ってましたけど」

 彼女が私の方を見て尋ねる。彼女は気づいてないが、私達三人の間にピシッと異様な空気が流れた。

 まさか住み込みで仕事しているとは言えないし、ましては私は会社の人間でもない。私の存在をどう説明するか、一瞬の間で考えようとする。

「こちらは水沢 明日香さんと言って……僕の彼女です。社長にも先日彼女を紹介したところですよ」

 口を開いたのは高瀬さんだった。にっこりして私を紹介する。

 私が高瀬さんの彼女? なるほど、それなら私と進藤さんが顔見知りでも納得がいく。それにしても高瀬さんの頭の回転の速さには尊敬するの一言だ。

「まぁそうでしたの。初めまして、有栖川 美玲と申します」

 美玲さんはにこやかに挨拶してきた。

「は、初めまして。水沢 明日香です」

 私は少し引きつった笑顔で挨拶を返した。

「高……ナオ君、そろそろ……」

 私はとにかくこの場から離れたい一心で、高瀬さんの服の袖をツンと掴み彼女のフリして名前呼びした。

 突然の名前呼びに高瀬さんは一瞬驚いた表情をしたが、何故だかクスッと笑い私の頭にポンッと手を乗せた。

「そうだね。ではデート中ですので、これで失礼します」

 私と高瀬さんはペコっと頭を下げて美術館を後にした。そして車に戻る。

「高瀬さんもすぐに仕事モードのスイッチが入るんですね」

「スイッチが入るきっかけは名前の呼び方かな。ケイスケは仕事モードの時には『高瀬』って呼ぶから、そう呼ばれたら仕事かと思って俺も『社長』って返すようにしているよ」

「へぇ」

「それより、もうナオ君って呼んでくれないの? 明日香ちゃん」

「えぇ!? あ、あれはお芝居で……つい」

「せっかくだからこのままデートしようか? 今日一日、俺の彼女やってよ」

 高瀬さんがにっこりしながら私の返事を待つ。私の頭の中には進藤さんと美玲さんの姿が映し出された。そして胸の奥がキュッと締め付けられてるみたいになった。

「……良いですよ。ホントに今日だけですからね」

「ありがとう。じゃあまず映画でも見に行く?」

「良いですね、行きましょう」

 行き先が決まると、高瀬さんは車のエンジンをかけて出発させた。

「あ、そうだ。今日はナオ君、明日香ちゃんって呼び合おう。そして敬語禁止ね。OK?」

「えっと分かりました……じゃなくて、分かった」

 私はすっかり高瀬さんのペースに巻き込まれていた。でもデートなんて久しぶりだし、私は今日を楽しむ事にした。

「映画どれ見ようか?明日香ちゃん何か見たいのある?」

「う~ん」

 私達は映画館へ着き、見る映画を選んでいた。恋愛映画見たいけど、高瀬さんはアクション系とか好きそうなイメージ……悩むなぁ。

「俺さ、これ見たいんだけど」

 私が迷っていると、高瀬さんは少し照れたように指をさした。高瀬さんが選んだのは意外にも恋愛映画だった。

「私に合わせてくれてる?」

「俺好きなんだ、恋愛系」

 恥ずかしそうにそう言う高瀬さんが何だか可愛く見えた。もしかして、私が今使わせてもらっている部屋にあった恋愛系のブルーレイって高瀬さんのかも。だとしたら、本当に恋愛系が好きなんだな。

「私も恋愛系が見たかったからこれにしよっか」

 見る映画も決まり、二人でラブストーリーを堪能する。薄暗い館内、大きなスクリーンに映し出されるラブストーリー。

 ドキドキしながらスクリーンを見ていると、隣に座っている高瀬さんが私の手を握りしめてきた。

 私は慌てて高瀬さんの方を向く。

「恋人っぽいでしょ?」

 恋人繋ぎをしながら、高瀬さんは私の耳元で囁いた。

 私は握られた手にドキドキしてしまい、映画にはあまり集中出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...