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毒-2
しおりを挟む【アリシア】
どうしてあの子が幸せそうにリオネル殿下の手を取るの?
お母様を殺したあの子が幸せになるなんて絶対に許さない!
薄暗い部屋
鏡には悔しそうに唇を噛み締め、拳を強く握り締める私が映っている。
シルビアが生まれたせいで、敬愛するお母様はまだたった26歳という若さでこの世を去った。
お母様を殺して生まれてきたくせに、誰よりも大きな魔力と、お母様と瓜二つの容姿を持って生まれ、お父様に誰よりも愛されている妹。
憎いあの子さえ生まなければ、お母様が死んだりしなければ、私がこんな風になる事は無かったかもしれない…
鏡台の引き出しから美しい青いガラスの小瓶を取り出す。
ダイアナお母様からいただいた、一瞬で死に至る毒。
お母様を殺しておいてあの子が幸せになるなんて絶対に許さない。
私の名前はアリシアローズ=ノースウッド
ノースウッド王国の第一王女だ。
お母様は我が国の筆頭公爵家の令嬢だった、マリエルヴィオラ=ノースウッド。
お父様の第二妃として18歳の時に嫁いできた。青銀色のフワフワとした長い髪、銀色の混じる青い瞳。
美しいだけでなく、優しく慈愛にあふれ、頭脳明晰、学園首席卒業を果たした才媛でもあった。
公務をロクにこなせないダイアナお母様の補佐をする為迎えられた妃だった。
ダイアナお母様の数ある失敗を尻拭いする事に疲れ果てていたお父様は、やがて、公私にわたって完璧な妃であったお母様の事をダイアナお母様以上に愛する様になっていた。
お母様は王家に嫁いで2年後第一王女である私を生み、その3年後現王太子である弟アリステアを生んだ。
元々身体の弱かったお母様は2度の出産で随分と体力が落ちていた。それでも第二妃として公務をこなし、3人目のシルビアを身ごもったのだった。
3度目の妊娠はお母様の身体を確実に蝕んだ。
医者には覚悟しておくようにと言われていたらしい。
それでもお母様は愛しそうにご自分の腹を撫でて、
「元気で生まれてきてね。」
そう言って微笑んでいた。
でも、赤子の魔力が非常に大きく、お母様の身体はその魔力の大きさに耐えられなかった。
シルビアを生んだ後、お母様は寝たきりとなり、あの美しかった容姿は痩せ細り、やつれ果てて最後は老婆の様になって1年後死んでしまった。大好きなお母様の命を奪って生まれてきた赤子はお母様に生き写しだった。
お母様は最期の時、枯れ木のように細くなってしまった手で私とアリステアの頬を撫でながら…
「あなた達の妹よ、大切にしてあげてね。」
そして小さなシルビアを枕元に寝かせて
「シルビア、育ててあげられなくてごめんね。幸せになってね。こんなに小さいあなたを残していくお母様を許してね…」
そう言いながら息を引き取った。
「嫌よ!お母様、目を開けて、お願い、お母様、死なないで、お母様…お母様…」
私達が、どんなに泣いても、呼んでも、お母様の瞳が開く事はなかった。
お母様は死ぬ最後の瞬間までシルビアの事を想っていた。
お母様が死んで1年が過ぎた頃、いよいよ公務に支障が出始めたお父様は、2人の妃を娶る事を決めた。
ダイアナお母様が公務をこなせない限り、お父様の補佐を出来る妃は、絶対に必要だった。
仕方がないとは思う。
でも、まだ小さかった私の心は複雑だった。
新しい第二妃は、王国序列3位のアレイス公爵家の長女、ユリアーナレイン=アレイス様20歳。
ミルクティー色の美しいストレートヘアにヘーゼルの瞳。
知的で、落ち着いた雰囲気の美しい方だった。
そして、側妃には、エンダリオ侯爵家の次女でリリルアイビー=エンダリオ様19歳。濃い金色の緩くウェーブのかかった髪にエメラルドの瞳の華やかで美しい方だった。
お二人ともお父様の公務を補佐できるだけの教養があり、2人同時に娶ったのはダイアナお母様の気持ちを慮り、政略結婚である事を強調する為だった。
政務に追われ、忙しいお父様は残された3人の子供達の事に手が回らなくなり、次期国王となる王太子アリステアの教育を国の重鎮であり、私達の伯父でもある宰相が担う事となり、王太子宮で養育される事になった。
私はダイアナお母様に是非にと請われて正妃宮で養育されることになった。
そして生まれたばかりで魔力暴走を起こしたシルビアは魔術師団団長のダリウスダン=ローレル伯爵に預けられ、彼の妻であるイレーネサクラ=ローレル夫人が乳母としてつけられた。
ダイアナお母様はとても優しかった。
お母様を失った私に寄り添い、いつだって私を1番に考えてくださった。
異母兄のキースロイドお兄様と共に、私は正妃宮に入った時からダイアナお母様と呼び、甘やかしてもらって子供時代を過ごした。
正妃宮では私が
「シルビアのせいでお母様が死んでしまった」
「シルビアなんて生まれなければ良かったのに」
そう言っても、誰にも咎められる事はなかった。
「ああ、アリシア可哀想に、こんなに可愛いあなたをこれほど悲しませるなんて、シルビアはなんてひどいのかしら」
ダイアナお母様は、そう言って、泣いている私を優しく抱き締めてくださった
「ダイアナお母様はこんな酷い事を言う私を叱らないのですか?」
そう言うと
「あなたは何にも悪くないわ、だってあの子が生まれなければ、マリエルはきっとまだ生きていたはずだもの。」
そう言って、私の全てを肯定してくれた。
それからも私が泣くたびに
「シルビアさえ生まなければマリエルも可愛いあなたを置いて死ぬ事はなかったのに…」
「こんなに美しく成長したあなたを見られないなんて、マリエルもきっとシルビアを無理して生んだ事を後悔しているでしょうね。」
いつだってダイアナお母様の言葉は甘く優しくささくれだった私の心を慰めてくれた。
シルビアのせいで、あれほど美しかったお母様は、まるで枯れ木の様に痩せ細り、老婆の様になって死んでしまった。
シルビアのせいで、私は愛するお母様を永遠に失い、忙しいお父様にも構ってもらえない。
それなのにお父様はお母様の顔を知らないのは可哀想だからとお母様の肖像画をシルビアに贈ったのだ。
私だって欲しかった。
お母様と瓜二つの容姿に生まれたおかげで、お父様に気をかけてもらい、大切にされている。
お母様を殺して生まれてきたくせに、私よりもお父様に愛されている。
あの膨大な魔力のせいで、生まれた時から問題ばかり起こしているくせに。
お父様があの子を離宮に移したのだって、わたしやダイアナお母様からあの子を守る為。
あの子が傷付いて魔力を暴走させないように、お父様が囲い込んだって分かっているわ。
そして、今回の求婚に乗り気でいる事も。
お父様はいつだってシルビアの事ばかり。私の事はどうでもいいのよ。
ダイアナお母様に預けたきりで気にかけてもらった事なんてない。
「せめて朝食だけでも一緒に」
なんて言いながら、よくて1週間に1回程度しかご一緒したことがない。
お父様は嘘つきだ。
これを飲ませればこの世からあの子を消してしまえる。
鏡の中に暗い目をした私が映っている。
「あの子が幸せになるなんて許さないわ…」
私は手の中の小瓶をギュッと握りしめた。
次の日、王族を集めたシルビアの婚約を発表する為のお茶会は穏やかに進んだ。
幸せそうにリオネル殿下の隣で笑っているシルビアが憎くてたまらない。
化粧室に行くからと席を立ったあの子を追いかけた。
化粧室から出てきた所を捕まえていつもの様にあの子を責めた。
苦しそうに顔を歪めるあの子を見て溜飲を下げる。
そこにリオネル殿下がやって来て逆に私が責められた。
愛おしそうにあの子を見つめるその顔も許せない。
リオネル殿下に言いたい放題言われて私は悔しくてそのまま正妃宮に残されている私の部屋に戻り、『影』を呼んだ。
『影』は私が12歳になって学園に通う様になった時、護衛としてダイアナお母様が私に付けてくれた男だ。
「この男はあなたの忠実な下僕よ。あなたの命令なら何でも聞くわ。あなたが死ねと言えば躊躇いなく自分の命をあなたに捧げるわ。優秀な護衛だから安心して。」
ダイアナお母様はニッコリ笑ってそう言った。
『影』を呼び、
「この薬をシルビアの食事に混ぜて。」
『影』は小瓶を受け取り、静かに部屋を出て行った。
見てなさい、絶対に幸せになんてさせないから。
私は爪が掌に食い込むほど強く拳を握りしめていた。
その手はほんの少し震えていた…
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