悪虐氷姫の幸せな結婚

nao

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トルティア帝国-2

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『玉座の間』を出ると扉の外には王妃宮から来たという侍女が待っていました。

「初めてお目にかかります、シルビアリリィ王女殿下。私は王妃宮で侍女長をしておりますエマ=ワルトルと申します。これより私がシルビアリリィ王女殿下のお世話をさせていただきます。今日よりお使いいただくお部屋へご案内いたします。どうぞこちらへ」

厳格そうな侍女長という女性が冷たいグレーの瞳で私を見つめています。
突然の事に私が驚いているとリオが

「エマ、私は聞いていないぞ、シルビアは私の宮へ連れて行く。王妃宮にはやらない。そう、王妃に伝えろ。」

「恐れながらシルビアリリィ王女殿下はまだ15歳。婚約者とは言えまだ未成年です。王太子宮に留め置かれるのは外聞が悪いでしょう。王妃様の好意を無下に断るおつもりですか?」

「父上に…」

「陛下には既にお伝えしております。」

「リオ…」

私がリオと呼び捨てにした途端エマのこめかみに青筋が浮かぶのを見てしまいました、私は慌ててリオネル様と呼び直しました。

「リオネル様、私は構いません。それに王妃様のおっしゃる事も尤もです、私はまだ未成年ですから、リオネル様の宮に留まるのは外聞が悪いと言われればその通りですから、心配しないで下さい。私なら大丈夫ですから、私は王妃宮へ参ります。」

まだ納得出来ない様子のリオですが、仕方がないというように一つため息をついて

「シルビア、毎日様子を見に来るから、何かあったら連絡して。とりあえず今日は従者にエリオを付けるから。」

リオは私を心配してエリオ様を従者兼護衛として付けて下さいました。

「エリオ、シルビアを頼む」

「了解しました!お任せ下さい、殿下」

「リオネル王太子殿下、勝手に王妃宮に男性を入れられては困ります!護衛はこちらで用意しておりますのでご心配なく!」

「黙れ、エマ。私の婚約者に私が護衛を付けるのは当たり前だ。それに彼女はノースウッド王国からお預かりした大切な王女だ。護衛はいくら付いていても多いと言う事はない!」

不機嫌を隠そうともせず、リオはピシャリと侍女長に言い返しました。

「わかりました。この事は王妃様にお伝えいたします。では、王女殿下、参りましょう。王妃様がお待ちです。」

「シルビア」

リオが私を抱き寄せて耳元で小さな声で

「シルビア、すまない。きっとなんとかするからしばらく我慢してくれ。」

そう言いました。

私は抱き締めてくれるリオの背中を撫でながら

「心配しないで下さい。私なら大丈夫です。リオネル様が会いに来てくれるのを待ってますね。」

そうして私はリオと別れ、エリオ様を連れて王妃宮に向かいました。

王城は、本城を中心に左側が王太子宮、右側が王妃宮、王妃宮のさらに右奥に奥宮と言って王子王女の宮があるそうです。現在、王子王女の宮には誰もいないとの事でした。
本城を出てしばらく外廊下を行くと、王妃宮の扉が見えてきました。白と金で統一されたインテリアが目を引きます。
とても贅を尽くした豪華な宮です。
キラキラしていて目に眩しいです。
でも、私が案内された部屋は北側の日当たりの悪い部屋でした。
窓から見える景色は大きな木が無造作に植えられており、まるで森のようでした。木々の影が部屋を覆っていて暗くなっているようです。
部屋は充分な広さがありますが、家具は古びた物ばかり、ベッドに使われているリネンはなんだかジメッとしています。カーテンもカーペットも暗い濃い緑色で暗い部屋を余計に暗くしています。
リビング、寝室、バスルーム、キッチン、洗面所、ドレスルームなど全て揃っていて、まるで部屋に監禁されても困らないだろうと思うほど設備が整っています。
まさか本当に監禁部屋なのかしら?
そんな考えが頭に浮かびます。

「1時間後王妃様がお会いになられます。それまでに謁見のご準備をしておくように。後ほどお迎えに上がります。こちらはシルビア王女殿下の専属侍女となりますキャロル=スミスです。キャロル、ご挨拶を」

「キャロル=スミスと申します。」

20歳を少し超えたくらいでしょうか?
綺麗なカーテシーをして挨拶してくれた女性は水色の瞳で私を冷たく見つめました。
どうやらここでは私は歓迎されていないようです。
エマとキャロルの態度にエリオ様がピリピリしているのがわかります。
私は視線でそれを制して、侍女二人に向き合い

「これからよろしく頼みます」

と、声をかけました。

王妃様との謁見の為、私は急いで身支度を整える事になり、エリオ様は部屋の外に出されました。
手早く「湯浴みを」と言われ、浴室に向かいます。
浴室は冷え切っていて、浴槽にはお湯どころか水さえ張られていません。
桶に入れた水をいきなり頭の上からかけられて、驚く私を無視して無造作に頭からシャンプーをかけられてわしゃわしゃと洗われます。
目にシャンプーが入るのもお構いなしです。
そのまま身体も洗われ、まるで野菜でも洗うような手荒さです。
馬だってもう少し丁寧に洗われるでしょうに…
ゴシゴシ擦られた後はまた、頭から水をかけられて、大きなタオルでゴシゴシ拭かれ、ドレスルームに突っ込まれ、手早く下着を着けられ、コルセットを着けられて、ギュウギュウと息が出来なくなるほど締め付けられました。
ところが急に締め付ける手が止まったかと思うとコルセットが緩められました。
どうしてかと不思議に思いましたがどうやら私のウエストが細すぎてあまり締めると細い腰が強調され、スタイルが良く見えてしまうので、締めるのを諦めたようです。
少し型の古い地味な焦げ茶色のドレスを身に着けて、濡れた髪もそのままに王妃様の元へ連れて行かれそうになり、私は慌てて魔法を使って髪の水分を飛ばし、リオと揃いで買った組紐で緩くハーフアップにしました。
私が髪を整えるのをチッと舌打ちしてキャロルが忌々しげにこちらを見ています。

部屋を出るとエリオ様が心配そうに私の前に立ちました。
私は大丈夫だからとエリオ様に告げて王妃様の元へ向かいました。

エリオ様は私の着けているドレスを見て顔をしかめましたが黙って私の後ろに付いてくれました。

「お初にお目にかかります。シルビアリリィ=ノースウッドと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」

王妃様の前でカーテシーをして、そのままの姿勢で10秒、20秒、30秒………1分

「顔を上げなさい。」

やっと声をかけていただきました。

既に足はプルプルして姿勢を保つのがやっとです。

王妃様のサロンには中心に王妃様。
後ろに侍女長のエマと私に付けられた専属侍女のキャロル。
テーブルを挟んで王妃様の派閥の貴族夫人でしょうか?6人の夫人が左右に3人ずつ並んで座っていらっしゃいます。

皆さんニヤニヤと嫌な笑い方でこちらを値踏みするような視線をよこして来ます。

「リオネル殿下の婚約者になったそうね」

「はい、ありがたい事です」

「お前の噂は聞いています。傲慢、わがまま、母親殺し、ああ…男狂いなんて言うのもあったわね。婚約者のいる男性に次々と言い寄っていたそうね。」

私を汚い物でも見るような目で見てバサリと扇を広げ、口元を隠しました。

「根も葉もない噂ですわ。そのような事はありませんのでご心配いりません。」



「本人が言ってもねぇ」

「本当かどうかなんて私達が確認出来る術はありませんものねぇ」

「火のない所に煙は立たないと言いますし」

「リオネル殿下を手玉に取るなんて噂通りなのでは?」

「本当に、大した手管をお持ちですのね?」

「王妃様もご心配ですわね?このような王女を王妃宮に入れなければいけないなんて…」

取り巻きの夫人達が次々と嫌味を重ねていきます。
これはまるでリンチね。
心の中でため息を一つつきました。
勝手に逃げ出せないのも達が悪いです。

サロンに入ってそろそろ30分。
立ちっぱなしで夫人達に吊るし上げられ、反論も許されない。
どこに行ってもこんな事をする人はいるんだなぁと、相手が暴言を吐くのを飽きるまで私はただ時間が過ぎるのを待っていました。

すると、扉の向こうが急に騒がしくなりました。

「失礼しますよ、義母上」

開いた扉の向こうからリオが入って来ました。

「随分楽しそうなお茶会を開いておられるようだ。私も参加してよろしいか?」

そう言いながらリオは私の隣につかつかと歩いて来て私の腰を引き寄せました。

「シルビア、大丈夫かい?遅くなってすまない」

そうして小さな声で私の耳元で囁きました。
私はリオの顔を見た途端ホッとして気が緩んで涙が出そうになってしまいました。
でも、こんな人達の前で涙なんて見せたくありません。
私はグッと拳を握って我慢しました。

「作法がなっていませんね、リオネル殿下。」

「作法ですか?お茶会に呼んだ人間をいつまでも立たせておくのもこちらの作法ですか?」

「もう、けっこう。話はありません。不愉快です、さっさと連れて行きなさい。」

「行こう、シルビア」

「でも…リオネル様…」

「それではこれで失礼しますよ義母上。あぁそれと2度とこんな吊るし上げの様なことは辞めていただきます。この茶会の事は父上にも報告させてもらいます。勿論ご婦人達の事もね」

リオの言葉にその場がざわつきます。

そんなざわめきなどリオは無視してさっさと私をサロンから連れ出してくれました。

「はぁ…」

扉の外に出た途端、リオが大きなため息をついて言いました。

「シルビア、すまない。何とか君を王妃宮から出せるように今頑張っているからもう少し待っててくれるか?」

「リオ、どうか無理しないで下さいね、私は平気ですから」

「私が嫌なんだ。シルビアに一つも嫌な思いをさせたくないんだ。」

そう言いながらリオが私を抱き締めてくれました。

「あたたかい…」

「シルビア?」


極度の緊張が解けたせいでしょうか?
私はそのままリオの腕に身を預けて立てなくなってしまいました。






【リオネル】


抱き寄せたシルビアの身体は氷のように冷たかった。
エリオが機転を利かせて自分を呼びに来てくれて良かった。
王妃の事も、その取り巻きも許せない。

王妃が付けた侍女も信用ならない。
何とかしないと、せめてエリオの他にももう2~3人、侍女も護衛も出来る女性をシルビアの側に送りたい。

私はシルビアを守る為、何が出来るかを必死で考えた。
あのずる賢い王妃の事だ、何だかんだ言って懐に入れたシルビアを簡単に手放すとは思えなかった。
あの蛇のような女からシルビアを取り戻す。
絶対に!

氷の様に冷たいシルビアの身体を抱き締め早くシルビアを温めなくてはと、部屋に急いだ。









































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