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トルティア帝国-3
しおりを挟むリオは私を王妃様のサロンから救い出した後、私を部屋まで送ると言って王妃宮の奥まで使用人達が止めるのも聞かず私を腕に抱いたままズカズカと乗り込んで来ました。
私とリオとエリオ様。
3人が部屋に入った途端、リオの機嫌がますます悪くなりました。
薄暗い部屋
古びた家具
型遅れのドレス、掃除されていない浴室
「こんな所に あの女… 今すぐ部屋を変えさせよう」
寒さに震えて意識も朦朧としていた私をリオがそっとソファに降ろしてくれました。
「リオ、わたしは大丈夫です。ここには何でもそろっていますし、ここは王妃様の部屋からも遠く離れています。いっそ良かったのですよ。」
「シルビア…」
リオの顔が辛そうに歪みます。
「せめて私の手の者を入れよう。必ず何とかするからもう少し待っていてくれ。来週には魔術学園への留学手続きも完了する。学園に通う様になれば私が毎日迎えに来よう。」
「リオだって忙しいでしょう?私にはエリオ様も付いていてくれるし大丈夫ですよ?」
「頼むよシルビア、それくらいはさせてくれ。」
「ありがとうございます。リオ」
そう言うと、リオはまた辛そうに私を引き寄せ、ギュッと抱き締めました。
「まだ、冷たい…」
「リオネル王太子殿下、そろそろお帰りください。シルビア様にはこの後王妃様との晩餐が控えておりますので早く仕度をしませんと…」
侍女のキャロルが冷たくリオに言い放った。
「シルビア様だと?シルビア王女殿下であろう!そのように私の婚約者を軽んじるのは許さない!」
「それは、申し訳ありません。ですがここは王妃宮でございます。リオネル王太子殿下には申し訳ありませんがもうお帰りいただきませんと…間もなく王妃宮から男性は全て出ていくのがこちらの規則となっておりますので。そちらの護衛も一緒に連れてお帰りください。」
「お前…」
「リオ、私なら本当に大丈夫です。」
(危なくなったら返り討ちにしますから…)
私はリオの耳元でそう言って悔しそうに握っているリオの拳を両手で包み、チュッとキスをしました。
そして、もう一度リオの目を見て
「大丈夫、安心してください。」
と、言いました。
「わかったよシルビア。明日また来るから」
「はい、お待ちしていますね」
「おい!お前。今すぐ浴槽に湯を張れ。これは命令だ。」
リオが厳しい口調でキャロルに命令しました。
「かしこまりました。」
キャロルが悔しそうな顔をして浴室に入って行くのを見届けたリオは
「シルビア、とにかくゆっくりと温まるんだ。こんなに身体が冷たい…」
「わかりました」
「王妃との晩餐もなにが起こるか分からない、気をつけてくれ。」
「はい、大丈夫。気をつけます。」
「明日も来るからそれまでなんとか耐えてくれ。」
「はい、リオ。待っていますね。」
「リオネル王太子殿下、あとは私がやりますのでどうぞ王太子宮にお戻りください。」
キャロルに言われてリオとエリオ様は何度も私に振り返りながら帰っていきました。
リオを見送ると、浴室から出て来たキャロルが
「王太子殿下が付いているからと言っていい気にならない事です。所詮王妃宮では殿下に出来ることはありません。それよりさっさと着替えて晩餐に備えるように」
言いたい放題言って、キャロルは部屋を出て行きました。
そして、カチリと外鍵をかけて行ったのです。
どうやら私はこの部屋から勝手に出る事も許されないようです。
取りあえず、リオのお陰で湯浴みは出来そうです。
早く温まって晩餐の支度をしましょう。
浴室に入り、少ないお湯に身を浸しました。
なんとか温まって浴槽から出て、気を取り直して私はドレスルームに入りました。
ドレスの数は5着。
どれも型遅れで黒、茶、紺、緑と地味な色の濃いドレスばかりです。
何とか晩餐に着ていけそうな紺のドレスを取り出し、自分で着ました。
私は元々ガリガリなのでコルセットもいっぱいまで締めてもブカブカです。
前で結んでクルッと回します。ドレスの背中のボタンをかけたままこちらも上からスポッと被りました。
ブカブカして見苦しい部分は、タオルを詰めて何とか誤魔化しました。
取りあえず恥ずかしくないくらいには身なりを整えて最後に長い銀の髪に組紐を編み込んで三つ編みにして左の肩から前に流しました。
「うん、いい感じじゃない?」
自分で自分を褒めてチョット虚しくなります。
でも、きっちりと準備をして待っていたのに私は晩餐に呼ばれる事はありませんでした。
どうやら王太子のせいで王妃様が気分を害されたと言って晩餐は中止。
私には部屋にキャロルがやって来てわずかばかりの夕食を乗せたトレーを無造作にテーブルに置いて出て行きました。
鍵をかける事も忘れません。
硬いパンが一つ、野菜くずの様な物が入った薄いスープと目玉焼き…
「これは…」
取りあえず食べ物があるだけありがたいと思ってゆっくりと噛み締めるようにして食事を摂りました。
さすがに、この食事が続くのかと思うと心が折れそうです。
こんな時はさっさと寝るに限ります。
ジメッとしたお布団に魔法をかけてふんわり、カラッとさせてベッドに潜り込みました。
「おやすみなさい、リオ」
そう呟いて眠りにつきました。
翌朝、私は一人で起きて冷たい水で顔を洗い、一人でコルセットを付け、ドレスを着てキャロルが来るのを待ちました。
朝遅く、やって来たキャロルは夕べと全く同じメニューの朝食を無造作にテーブルに置いて
「さっさと朝食を済ませてください。食事の後すぐに王妃様の王太子妃教育が始まります。」
「王太子妃教育ですか?」
「1時間後お迎えに上がります。それまでにきちんと身なりを整えておくように。」
キャロルは私の着ているドレスを上から下まで見回して、こちらの返事も待たずに言いたいことだけ言ってさっさと部屋を出て行きました。
ガチャン
鍵をかける音だけが静かな部屋に響きました。
はぁ…
身なりを整えてって言う事は今のドレスではダメだって言う事かしら…
ドレスルームに入って数少ないドレスを見渡してみましたが何を着てもあまり変わらないと思います。
諦めかけた時、外が騒がしくなっている事に気がつきました。
ドアに近づいて外の様子を窺います。
「これは王命である!さっさとそこをどけ!!」
リオ?
どうやらリオがこの部屋に入ろうとして、エマとキャロルの二人に入室を邪魔されて揉めているようです。
ガチャン…
そうして扉が開きました。
「あ…」
リオにドアに張り付いていたのを見られて、チョット恥ずかしいです。
「シルビア!」
気まずくてどうしようかと思いかけた時、私はリオの腕の中にいました。
リオは部屋に入るなり、ドアの前にいた私をギュッと抱き締め、苦しそうに一言
「すまない」
そう言いました。
「リオ、私なら大丈夫ですよ。」
私は少しでもリオを安心させたくて、リオの背中を大丈夫だと言いながら撫でました。
リオは私を腕の中に囲ったまま、部屋の外にいるエマとキャロルを睨みつけて
「何故部屋に鍵をかけている!シルビアは罪人ではない!私の婚約者だぞ!この事は父上にもきっちりと報告する!お前達は自室に戻って謹慎していろ!」
「王太子殿下と言えどこの王妃宮で勝手な事は許されません。殿下は王妃様に逆らうのですか?!」
「これ以上お前達と話す事はない。さっさと部屋に戻れ!お前達の処分は追って下知する。」
悔しそうに唇を噛み締め二人は黙って引き下がりました。
きっと王妃様のもとへ向かうのでしょう。
「リオ…」
見上げるとリオの顔が今にも泣きそうな表情になっていて、私は慌ててリオの頬に手を伸ばし、そっとその顔を包み込みました。
「リオ、私は大丈夫です。だからそんな顔をしないで下さい。あなたの方がずっと辛そうです。」
「王妃の言いなりになるしかない自分の力のなさに絶望してるんだ。シルビアをこんな目にあわせてどんなに謝っても足りない…」
「そんな事ありません。リオはこうして私を助けてくれたじゃないですか、さすが私の未来の旦那様です。」
そう言うとリオは私の肩に顔を埋めて更にギュッと抱き締めました。
「リオネル殿下、そろそろ姫様を離して私達を紹介していただけませんか?」
リオの後ろから女性の声がしました。その声を聞いてリオはやっと私を離して後ろを振り返り、
「お前達も入れ」
そう言って扉のそばに立っていた女性二人を部屋に招き入れました。
女性の後ろからエリオ様も入って来ました。
「シルビア、紹介するよ。今日から君の世話をする専属侍女のビビアンとシンディだ。」
「お初にお目にかかります。ビビアン=ハートライトと申します。」
海のような青い長い髪をポニーテールにして、サファイアの瞳は力強く、背の高い女性が綺麗なカーテシーで挨拶してくださいました。
そして、もう一人…
「お初にお目にかかります。シンディ=ローファンと申します。どうぞよしなに。」
私とあまり変わらない身長の可愛らしい女性が挨拶してくださいました。
ピンクのくるくるした髪を顎のラインで切り揃え、サイドを編み込みにしています。瞳は晴れた日の青空のような綺麗な水色です。
「ビビアンは騎士でもあるんだ。今後エリオと共に君の護衛もしてもらう。シンディは私の影の一人だ。こう見えて腕は一流だから安心してくれ。夜はエリオが付けないからこの二人がずっとシルビアに付いてくれる。何かあれば頼るといい。」
「ビビアン様、シンディ様、よろしくお願いしますね。」
「姫様、どうぞ私達の事は呼び捨てでお願い致します。身命を賭してお守り致します。どうぞよろしくお願い致します。」
そう言って二人はもう一度頭を下げました。
紹介が終わるとリオはたくさんの荷物を部屋の中に入れました。
シンディが次々と箱をドレスルームに運んで行きます。
シンディがドレスルームを見て、粗末なドレスを見た途端プンプンと怒り出しました。
「なんて失礼なのかしら!殿下の婚約者様にこんなドレスを用意するなんて!エリオ!こんなドレス全部捨ててちょうだい!!」
そう言って、元からあったドレスを外し、リオが持ってきたたくさんのドレスを次々と箱から出して並べていきます。
鏡台にはたくさんの化粧品が並べられ、キッチンの食器棚にはティーセットが何セットも収納されていきます。
ビビアンが部屋のリネン類を明るい水色の可愛らしい物にどんどん交換して、地味で暗かった部屋はあっという間に明るく可愛らしく生まれ変わりました。
「リオ、ありがとうございます。すごくすてきです。」
「気に入ってもらえて良かったよ」
リオに笑顔が戻りました。
「殿下、姫様、ばたばたして申し訳ありません。落ち着きましたので新しいティーセットで早速お茶でも入れましょうか。姫様、美味しいお菓子も用意していますよ。」
シンディの言葉に私は嬉しくなって
「食べたいです」
と、ちょっと大きな声が出てしまいました。
朝食も少なかったので嬉しいです。
リオと二人でティータイムを楽しんでいると、扉がノックされ、キャロルが入って来ました。
「シルビア王女殿下、王妃様がお呼びです。」
キャロルの顔を見た途端リオが不機嫌になりました。
「部屋にいろと言ったのになぜお前がここに来る?私がいるというのに不躾だな、 ここの侍女はどんな教育を受けているんだ?」
「恐れながら、私は王妃様の侍女、殿下に私をどうこうする権利はございません。それよりも王太子妃教育の時間は先日から決まっていたものです。王妃様を待たせる方が余程不躾ではございませんか?」
キャロルは王太子殿下相手に一歩も引きません。
「わかりました、すぐに参ります。リオ、王妃様を待たせる訳には参りません私は行きますね。」
そう言うと
「では私も行こう。シルビアの教育課程も把握しておきたい。」
「殿下にはご遠慮いただきとうございます」
「お前に私を止める権利は無い。私に命令出来るのは父上だけた。王妃にも何も言わせる気はない。」
「くっ…」
キャロルが悔しそうにうつ向きます。
「かしこまりました。ではシルビア殿下ご案内致します。」
「お待ちください、王妃宮でご用意いただいたドレスはとても王妃様の前に着て出れるものではありません。先程新しいドレスを用意しましたので今しばらくお時間をいただきます。さぁ姫様お召し替えをいたしましょう。」
シンディの言葉にキャロルが反発します。
「勝手な事をされては困ります。これ以上王妃様を待たせるなど…」
「そちらの用意したドレスが酷い物だったせいでしょう、こんなドレスしか用意出来ないなんて王妃宮侍女として恥ずかしいとは思わないんですか?」
「王妃宮を馬鹿にするおつもりですか?」
「王妃宮を馬鹿にしているのではありません。あなたを馬鹿にしているのですよ。見習いでもこんなドレス姫様に相応しくない事ぐらい分かりますよ。」
シンディとキャロル、二人の間にバチバチと火花が散っています。
今にも掴み合いが始まりそうな雰囲気のまま、リオは面白そうにニヤニヤと二人のやり取りを見ています。
私は居た堪れなくなって、
「これ以上王妃様をお待たせする訳にはいきません、シンディ、ビビアン、手伝ってもらえますか?早く着替えましょう。キャロル、もう少しだけ待ってください、すぐですから。」
私はシンディとビビアンを連れてドレスルームに入り、急いで着替えました。
そして、リオと一緒に王妃様の元へ向かいました。
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