悪虐氷姫の幸せな結婚

nao

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トルティア帝国-4

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王妃様のサロンに入って30分、
王妃様はまだお見えになりません。


「リオ、そろそろ戻らないと仕事が溜まっているのではありませんか?ここにはビビアンもシンディもエリオ様も居てくれます。私は大丈夫ですから…」

「シルビア、私は…」

「リオネル殿下、シルビア様の仰る通りです。執務も随分溜まってきていますし、殿下が戻らない限り王妃様もこちらにいらっしゃる事は無いでしょう。」

「アンドレ…確かにそうだな」

リオはため息を一つついて

「分かった、シルビア、また明日来る。ビビアン、シンディ、後を頼む。エリオは王妃宮を下がり次第私のところへ来てくれ。」

「「「かしこまりました」」」

リオは私をギュッと抱き締めて、名残惜しそうに頭にキスして、何度も何度も振り返りながら帰っていきました。


さらに30分
やっと王妃様のお出ましです。

「帝国の月にご挨拶申し上げます。」

そう言って深々とカーテシーをします。
10秒、20秒、30秒………1分

毎日毎日これだと随分下半身が鍛えられそうです。

後ろで私を見守っているビビアンとシンディが心配そうにしているのがわかります。
エリオ様からは軽い殺気が滲み出ています。
お願いします!抑えてください!
心の中で叫んでいるとやっと王妃様のお声がかかりました。

「頭をお上げなさい。」

「はい」

「今日は帝国の歴史を学んでもらいます。」

王妃様がチラリとエマに視線を送るとエマが入口の扉を開き、お年を召した厳格そうな男性がたくさんの本を侍従に持たせて入って来ました。

「王妃様ごきげんよう、お召しにより参上いたしました。」

随分親しそうです。
どの様な方でしょうか?

「こちらがシルビア王女殿下ですか…」

男性はウンザリといった表情を隠そうともせず、私を見ました。

「ええ、シルビア、今日からあなたの講師をしてくれるウィリアム=グレース伯爵です。」

「シルビアリリィ=ノースウッドです。グレース先生とお呼びしてもよろしいですか?」

「ええ、シルビア王女殿下、よろしくお願いいたします。」

「こちらこそよろしくお願いいたします、グレース先生。」

「では後はよろしくグレース伯爵。私は下がらせてもらいます。エマ、後は頼んだわよ。」

「お任せください。」

そうして王妃様はサロンを出て行かれました。

「では早速始めましょう、時間が惜しい。」

「はい、グレース先生よろしくお願いいたします。」

テーブルの上には先生が持ってきた本10冊が高く積み上げられました。

「それでは建国史から始めましょう」

「あっ、先生、少しお待ちください。ビビアン、ノートとペンをお願いします。」

そう言うとビビアンが素早くテーブルの上にペンとノートを準備してくれました。

「先生、お待たせしました。授業をお願いします。」

すると、先生が

「殿下、それは何ですか?」

先生は私の手元にあるノートを指して怪訝そうな顔をしていました。

「これは私が国で使っていた物です。大きめの植物紙を重ねて真ん中で綴じ、左右に開いて使うようにしています。」

私はノートを広げて先生に使い方を説明しました。

「なるほど、これは便利ですね」

「はい、植物紙は羊皮紙よりも薄いですし、こうして覚え書きにすると、いつでも見られて、とても便利なのです。軽くて持ち運びもしやすいですから…」

「なるほど、これは良い」

先生はノートを開いたり閉じたりしながら感心した様に見ていましたがやがてコホンと一つ咳をして、

「授業が脱線してしまいましたね。早速始めましょう。」

先生は分厚い本を開いて建国史を語り始めました。

私はノートに年代、出来事を順に書き留めていきます。

「殿下、それは?」

ノートに書き出していく様子を見ていた先生がまた、私に質問します。

「はい、年代とその年の出来事を順に書いています。年表というものです。私はこうして書いていかないとなかなか覚えられなくて、時間がかかって申し訳ありません。」

「いやいや、これは実に効率の良い勉強のやり方だと思います。実に分かりやすい。」

先生が言うには、普通は基本となる本を丸ごと写して覚えるそうです。
私は必要だと思う事だけを短く纏めて書いています。
年代順に書くことで、時系列も一緒に覚えられます。
先生に褒められて嬉しくなります。

「ありがとうございます」

そうして、授業は進んでいきました。
年代を書き、その年の出来事を先生が詳しく説明して下さいます。
戦争、疫病、大災害、飢饉、蝗害、歴代帝王の移り変わり等。
そうして、百年分ほど書いたところで先生が

「今日はここまでにしましょう。」

とおっしゃいました。
気がつけばもう既に3時間も経っていました。
帝国の歴史を説明してくれる先生の話が面白くて、あっと言う間に時間が経っていました。

「続きはまた明日にしましょう。殿下、明日は王城図書館で授業を行いたいと思います。あそこなら資料もたくさんありますし、急な疑問にも対応出来るでしょう」

「わかりました。明日もよろしくお願いいたします。」

「では、明日の午後、王城図書館で…」

グレース先生はそう言ってサロンを後にされました。

久しぶりにしっかりと勉強して、とても疲れました。
もう眠くて仕方ありません…

「姫様、大丈夫ですか?立てますか?」

ビビアンとシンディがすぐにそばに来てくれました。

「はい…」

返事をしたものの…何だかフワフワして…

「姫様、失礼いたします」

ビビアンの声がします。
ふわりと身体が宙に浮いた感覚がして、
私はそのまま意識を手放したのでした。

目が覚めたらいつの間にかベッドの中にいて、あたりは真っ暗でした。
がばっと身を起こすと、

「お目覚めですか?姫様」

そばにはシンディが私が目を覚ますのを待っていてくれたようです。

「シンディ、私… 今何時?私どのくらい眠っていたのかしら?」

王妃様のサロンで寝てしまうなんて、とんでもない失態をやらかしてしまい血の気が引きました。

「大丈夫ですよ姫様。今、夕方の6時半です。ほんの1時間ほどですよ。授業に集中しすぎてお疲れになったんでしょう。もうすぐ晩餐の支度が整いますのでそろそろ起こして差し上げようと思っていたところだったのですよ。」

「私…授業の後から記憶が無くて…ここまでどうやって?」

「僭越ながら私が姫様を運ばせていただきました。」

私が目覚めたのに気づいてビビアンも傍に来てくれました。

「ビビアンが?ごめんなさい、サロンからここまで大変だったでしょう?」

「大丈夫ですよ、目立たないように使用人通路を使いましたし、姫様は羽根のように軽いですから。」

「はぁ…私ったらもう、とんでもない失態だわ、恥ずかしい」

「グレース伯爵が姫様の事を褒めていらっしゃいましたよ」

「先生が?」

「はい、授業の後すぐに王妃様のもとへ向かわれて、授業の様子を報告されたようですが、とても優秀な生徒だと大変お喜びだったそうですよ」

「良かった…私、覚えが悪いから…」

「さぁ姫様、お腹が空いたでしょう?夕食にいたしましょう」

シンディはそう言って手早くリビングに夕食の準備を整えてくれました。

夕食を食べて、湯浴みをして、やっと一息つきました。
やってしまった事はもう取り返しがつきません。
明日はこんな事がないように気をつけないと。
私は今日書いたノートを見直して、ノートの最後に今日習った王族の簡単な家系図を書きました。
一番上に建国した初代帝王。
今日習ったのは第5代帝王まで、
今の帝王陛下は第12代だと言っていたのでリオにはまだまだ届きません。
明日は図書館に行けると思うとどんな本があるのか楽しみです。

翌日、午前のお茶の時間に王妃様に呼ばれました。

「帝国の月にご挨拶申し上げます」

そしてカーテシーをします。

10秒、20秒、30秒、………1分

「頭を上げなさい」

何だかこの挨拶にもだんだん慣れてきました。

王妃様はソファにゆったりと座って優雅にお茶を飲んでいらっしゃいます。
その間私は立って王妃様の言葉を待ちます。
長い沈黙の後

「グレース伯爵が褒めていたわ、とても優秀な生徒だと…」

「恐れ入ります」

私は一言だけ返して目を伏せ、軽く頭を下げました。そしてまた沈黙…
1分、2分、3分、………10分ほどして王妃様が

「今日の授業は午後からだそうね、もう行っていいわ」

そう言って、さっさと行けと手を振りました。

「それでは御前、失礼いたします。」

王妃様のサロンを出て、部屋に戻ると
部屋の前にリオが来ていました。

「リオ?」

「おはよう、シルビア。王妃に呼び出されていたんだって?大丈夫だった?」

「はい」

「殿下、ここでは誰に何を言われるか分かりませんから、中に入らせていただきましょう」

「そうだな、アンドレ」

部屋に入ってリオと二人でテーブルにつき、お茶を飲んで一息つきます。

「それで、王妃は何か言ってた?」

「それが、特に何も…」

「そうなんです、殿下。姫様を呼び出しておいて、お茶も出さずにただ黙って時間が過ぎるだけ。それに飽きると出ていけとばかりに部屋から出されるんです。一体何がしたいんでしょうね?」

お茶を入れながら、シンディが文句を言います。

「あの、リオ、王妃様って一体どんな方なんでしょうか?」

「そうだな…元々筆頭公爵家の令嬢で、18歳の時、同じ公爵家の嫡男と結婚したんだが、3年経っても子供が出来ず離婚されたんだ。父上の妃になったのは24歳の時、王妃の父である公爵から父上の妃にしてほしいと言われて、父上も母上を亡くして、周りから次の妃をと言われていたから、父上にはもう私がいたし、子が出来なくても問題はないと『白い結婚』でも、良ければという条件で妃としたんだ。」

「王妃様は『白い結婚』に同意されたんですか?」

「それはどうかな?私が初めて王妃を見たのは公爵家嫡男と結婚してすぐの頃かな。表情のない冷たい女に見えたな。まぁ今でもそうだが、公務の時は父上の隣で笑顔を取り繕っているが、普段はまるで美しい人形みたいだな……」

「リオはよく王妃様の事を蛇みたいだっていいますよね?それはどうして?」

「視線だよ…」

「視線?ですか?」

「父上が王妃を娶ったとき私は18歳だったんだが、その頃は私も成人して、公務として夜会などにも参加していたんだ。仲睦まじい夫婦や子供の話をしている御婦人の集まりなんかを見る彼女の目がとても冷たくてぞっとしたのを覚えている。」

「そうだったんですか…」

「姫様、確かに王妃様の境遇には同情の余地がございますがそれを姫様に当たるのは間違っていると思います。ですから姫様が王妃様の事で心を痛める必要は全くありません。」

「シンディ…」

「姫様はご自分の心配をしましょう。グレース伯爵は自分にも他人にもとても厳しい方です。午後からまた厳しい授業が待ってますよ。今は自分に出来る事を一つずつこなして参りましょう。」

「そうね、シンディの言う通りだわ、まだまだやる事がいっぱいあるもの。」

「私の事も忘れないで欲しいな、シルビア」

「リオ、当たり前です、リオの事を忘れるなんてありません!」

「私もなるべく君に会いに来れるように頑張るよ」

リオの瞳が怪しく光って私を捉えます。

「はい、ストーーーップ!私達もいる事、忘れないでくださいよ殿下」

「アンドレ…」

「あ…あの…リオ、私も頑張りますね、一日も早くこの国の事を知りたいですし、王太子妃教育と頑張りたいし、来週からは学園にも行きますから。」

「シルビアが私の為に頑張ってくれるのは嬉しいけどあまり無理はしないでね。」

今日もリオはとても私に甘いです。
リオの為にももっと頑張りたい。 
決意も新たに拳を握る私でした。




















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